第三話 お嬢様と、ガードマン?


              ☆☆☆その①☆☆☆


 翌日、ステーションに入った二人は、関係者と極秘に接触。

 保安担当の中年男性は「噂のホワイト・フロールが来るぞウヒヒ」と、目のやり場に困るであろう露出過多なスーツ姿を、期待していたのだろう。

「ど、どぅも…こちらへ……はぁ…」

 きわめて平凡な目立たない私服で参上したマコトとユキに、決して少なくない残念なオーラを隠せないでいた。

(まったく…正直者ですね!)

(うふふ)

 小声で囁く二人だった。

 紺色を基本としたストレートパンツとジャケット姿のマコトは、それでも中性的な美少年の王子様に見えるからだろう。

 ステーションに出入りする女性たちが気づいて、サワサワと注目を集めてしまう。

 白を基本としたカジュアルな服装のユキも、逆にどんな衣装も着こなしてしまう華やかなお姫様オーラの為か、やはり男性たちの視線を集めてしまっていた。

 広いロビーの隅の席で、投射したステーションのマップを二人で見ているその姿は、旅行プランを立てている若いカップル、そのものだ。

「……ユキ、どう?」

「ええ、五十五番ゲートから入星するようですから、私たちはこのポイントで待機しましょう」

 安全面に関しては、勿論ステーション側が、常に最大限の注意を払っている。

 それでも捜査官としては、自分たちで納得できる調査が必要なのだ。

 その後も、関係者との会議などで一日が終わり、二人はまた明日ステーションに上がるとして、寮に帰った。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 翌日、朝の八時にはステーション入りをした二人は、休むことなくステーション内の安全をチェック。

 勿論、そんな行動を堂々としてはステーションの職員たちと無用な軋轢を生みかねない。

 なのであくまで「護衛を依頼された担当者としての責務」という名目での、合同チェックという形だ。

 昨日とはまた違う目立たないスーツ系に身を包んだ、マコトとユキ。

 今日は仕事なので噂の大胆スーツだウヒヒと期待していたらしい保安担当の中年男性は、昨日よりも露出の少ない二人の服装に、やはり残念オーラを隠せていない。

「こちらです…どうぞ…はぁ…」

「どうも!」

「くすくす」

 宇宙船が到着するまで、二人は広いロビーでソファーに腰かけ、さりげなく周囲を警戒。

 ステーションの警備は、目立たないように、しかしいつも以上の警備体制でもあった。

 待ち時間の間、ユキが楽しそうにマコトへと振る。

「ねぇマコト、あの担当のオジ様 とても残念そうでしたわね」

「いいオジサンが、何に期待しているのだか!」

 ゆるふわガールに比して、ショートカットガールは呆れた様子を隠さない。

「今日は下に着けてますし、オジ様を呼んで、お見せして差し上げては?」

 イタズラっぽい微笑みにさえ、高貴なオーラを纏っているユキ。

 気の弱い男子だったら、戴いた命令に何の疑問も持たず、忠実な僕となって高速で実行してしまうそうだ。

「ヤだ。どうせイヤらしい目で、涎たらすもん!」

「あら、それだけマコトが魅力的という事でしょう? 私もマコトのボディ、とても素敵だと思いますわ」

 言いながら、パートナーを見つめる視線からは、イタズラっぽい雰囲気がス…と薄らいでもいる。

「ユキは付き合いが長いからだよ。大体、世の男性たちはユキみたいな可愛い美人が好きなんだよ、絶対に。ボクは背が高いほうだから、珍しがられているだけさ」

 そんな歓談をしながらも、二人はケモ耳をピンと立てて、来客たちへの警戒を怠らない。

 特に関税でブザーを鳴らせるような不審者もおらず、ステーションは至って平和であった。

 十時二十五分になり、二人はソファーから立ち上がる。

「そろそろ行こうか」

 一緒に立ち上がったユキは、コンパクトに偽装した通信システムで、ステーション側と連動させた画像をチェック。

「五十五番ゲートとその周囲に、不審な影は見当たりませんわ」

 一般人には使用されない裏ゲートへと到着した二人は、ほどなく「グローデン号の入港を確認」しいう、ステーションからの通信を受けた。

 近隣宙域限定の貨物入港スペースのような、比較的小さな空間の、五十五番ゲート。

 外壁の一面が開かれると、外と宇宙と、輝く地球の大きな輪郭が見えた。

 漆黒の空間から、一隻の小型宇宙船が入港する。

 純白な下地に虹色のラメなラインが走る、口紅を思わせる流線形な、全長に百メートル程の、オーダーメイドシップ。

 船体のサイドには所有者の名前であろう「銀河の美麗 レイラン・ディオン号」と、異様に目立つ電子ペイントが施してあった。

 ペイント材も含めて、きっと太陽系に入る頃にはステーションのレーダーもセンサーも、件の船体をタップリ認識できていたであろうことは、想像に難くない。

「……お忍びじゃなかったっけ?」

「お忍びなのでしょう。財閥の麗嬢としては」

 宇宙船が係留装置にドッキングをして、各種の検閲が迅速に行われる。

 三十分ほどで終了すると、透明な入港チューブを通って、お嬢様がステーション入りをした。

 関税の隣で待機している二人の前に、黒服の男性が一名立ち、その背後に派手なフードを被った小柄な麗嬢が降り立つ。

 黒服の男性は財団が付けた護衛っぽい。オールバックの緑髪を綺麗に整えた、強面で身長が二メートルほどの、動物的な特徴などはない、初老の男性だ。

 背後の女性は平均的に小柄で、資料の写真と同じく長い髪をアップに纏め、派手なフードの下には控えめだけどセンスの良い薄ピンクのワンピースを纏っている。

 大きなサングラスで愛嬌のある愛顔を隠してはいるが、派手なフードゆえ、その努力は色んな意味で無駄に終わっていた。

 お嬢様にも、特に動物的な外見上の特徴は見られない。関税チェックを終えた二人の前に、マコトとユキが挨拶に出た。

 相手の特徴などを素早く確認した二人。マコトが握手を差し出すと、ボディーガードの男性が黙って返してくる。

「ようこそ地球へ。ボク–んんっ、ワタクシはボディーガードを務めます、地球連邦政府 特別捜査官 ハマコトギク・サカザキです」

 続いて、ユキも握手をしながら自己紹介。

「同じく、 地球連邦政府 特別捜査官 ユキヤナギ・ミドリカワ・ライゼンと申します」

 マコトもユキも、握手をした男性の手が、ボディーガードのそれではないと、すぐにわかる。

 二人の捜査官と握手を交わした黒服の男性が、強面な外見からは想像し難い、丁寧な自己紹介を返す。

「お初にお目にかかります。お嬢様の専属ボディーガードを務めております、ターディル・ターディルと申します。この度はお手数をお掛けいたしま–」

 あら常識人。

 しかも護衛には不似合いな程の、丁寧な物腰。

 と二人が感じた次の瞬間、背後の麗嬢が飛び出してきた。

「ああ~っ、あなたたちがホワイト・フロールのお二人なのねっ! きゃ~っ初めて本人に会えたあぁっ! 嬉しいっ、感激ぃっ、ね、握手握手っ!」

 自らの感情を素直な大声で表現しながら、細くて白い美椀で二人に握手握手。

「ど、どうも、ワタクシは–」

「やだ気取っちゃってぇ! マコトさんと言えばボクっ娘でしょ? ユキさんみたいな超敬語、使い慣れてないところとか もぅすっごい可愛い~っ! それにドンっ!」

 言いながら、好奇心旺盛な愛顔をグっと、ユキとマコトに急接近。

「ほわ~…写真で見るよりずっと、お二人とも一万倍以上に綺麗~! とくにマコトさんっ、女の子なのが惜しいって言うか女の子だからこそ嬉しいって言うか! あ、自己紹介がまだでしたねっ! わたしアス・レイラン・ディオン・クロムギンです! お二人はどうか親しみを込めて『レイ』と呼んでください! ああ~、お二人にっ、特にマコトさんに『レイ?』とか呼ばれたら感激して気絶しちゃいます~! まあ本当に気絶とかまではしないと思いますけど! うふふ」

「え、えっと……」

 頬を染めて、特にマコトに対してグイグイ来るお嬢様に、どう対応して良いのかわからない。

 ボディーガードを務めるターディル氏も、恥ずかしそうな冷や汗を隠せない。

「ごほん…お嬢様、ご自制を」

「もう、五月蠅いわねターディルさんは!」

 ぺぇ、と苦そうな表情も愛らしいレイだった。

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