5. 異世界1日目 他の人にも話を聞いてみる

 宿に戻るとすでに食事の提供は始まっているみたいで1階にある食堂はかなり賑わっていた。特に酔っ払いが暴れるという感じではないが、地元の大衆食堂といった感じで結構騒がしい。人数を考えると宿以外の人も来ているようなのでそれなりにおいしいと期待しよう。



「予約しておいたジュンイチです。」


 受付に名前を言って身分証明証を出すと食事券と鍵を渡してくれた。


「部屋は2階の205号室です。食事券は食堂のカウンターに出せば受け取れます。夕食と朝食の2枚分ですが、券の再発行はありませんのでなくさないようにしてください。」


「わかりました。ありがとうございます。」


 受付の横にある階段を上って2階の205号室へ。エレベーターはないみたいだけど、そもそもエレベーターはあるんだろうか?まあ3階建てくらいだったらまだ大丈夫かな?荷物が多くなれば大変そうだけどね。

 部屋は四畳半くらいの広さのところにベッドと小さな机とイスに棚が置かれている。部屋に入ると靴を置く場所があり、スリッパのような室内用の履物に履き替えるみたいだ。よかった、部屋の中で靴のままというのはどうも慣れないからなあ。

 部屋も綺麗に掃除されており、ベッドのシーツもちゃんと洗濯されているみたいで綺麗だ。トイレとシャワーは共有なので部屋にはないが、とりあえず問題はなさそうだな。

 部屋の荷物が盗まれると言うことはあまりないとは思うけど、最低限の注意くらいはしておかないと行けないだろう。お金とか無くなったらしゃれにならないしね。


 荷物を置いたあと、食堂に行ってから夕食券を出す。4~6人用のテーブルと10人以上がかけられる大きなテーブルが用意されていて、小さなテーブルはすでにいっぱいになっていた。適当に座るように言われたので大テーブルの空いている席に座ることにした。

 ちなみに飲み物は別料金のようで、水ももちろん有料だ。アルコールは頼めるようだが、こんな異世界で前後不覚になってしまうような勇気もないので素直に水を注文する。

 アルコール関係はワインやビール、ウイスキーのようなものと色々と置いている。お酒のリストに説明があるので何のお酒なのかはある程度わかるが、あまり詳しくないので細かいところがわからないのはしょうがない。

 ちなみにアルコール関係は全く飲めないというわけではない。うちの家の方針として一人暮らしをするまでにはお酒の味と、許容量はある程度把握しておかないといけないと言われて高校生になってからちょっとずつお酒を飲まされているのである。



 定番としては近くの人に話を聞くというのがあるが、大丈夫かな?料理が運ばれてきたところでとりあえず隣に座っているよくある冒険者っぽい格好をした20代後半の男性客2人組に声をかけてみる。


「こんにちは、自分はこの町に来たばかりなのですが、少し話を聞かせてもらってもいいですか?」


 ちょっと不審な顔をされたが、「せっかくなのでビールか何かおごりますよ。」と言うと、一気に顔がほころんで「おう、すまんなあ。分かる範囲でいいなら何でも聞いてくれ。」と言ってきた。よし、よし。

 ちなみにビールは1杯50ドール、ジュース関係は30ドール、水は10ドールとなっている。水は結構豊富なのでこの値段のようだが、地域によって違うのだろう。ちなみにおつりでもらった10ドール硬貨は真っ黒だった。


 変なことを聞いて不信感をもたれても困るので最近ナンホウ大陸の田舎からこちらの国に来たんだけど、バタバタと移動してこの町に来たのでいろいろと情報を仕入れているところだと説明する。まあ簡単な情報はガイド本には書いてあったが、それが正しいかどうかも確認しておかないといけないしね。


 聞いていたとおり、この国はかなり平和な状況で、最近の戦争の話はキクライ大陸(南アメリカのあたり)くらいしか聞かないようだ。小国が乱立しているため、昔から戦争が絶えない地域らしい。

 戦争はないと言ってもやはり犯罪はどこでもあるらしいが、この地域を治めている管理官がかなり治安に気を遣っているらしく、取り締まりも厳しいため犯罪率は低いようだ。


「もちろんそうはいっても危険なエリアはあるからな。そこにはよっぽどのことがない限り近づかない方がいいぞ。あと、治安がいいと言うこともあってその分取り締まりや刑罰には厳しいぞ。変なことをすればすぐに逮捕されてしまうから、気をつけろよ。」


「わかりました。ちなみにあなた方は何をなされているんですか?」


「見ての通り、冒険者だよ。小さな頃から腕っ節には自信があってな、こいつも魔法にそこそこ自信があったんで二人で冒険者になることにしたんだ。できたら他の国とかにも行ってみたかったこともあるんだが、結局ほとんどこの町から動いていないけどな。わはははは。」


「そうなんですね。ちなみにこの辺りは強い魔獣はいるんですかね?」


「場所によって強いのもいるし、弱いのもいる。一番弱い魔獣だったら子供でも倒せるくらいだが、何があるか分からないから基本的には子供だけでの狩りは禁止されている。少なくとも剣とか魔法が使えなければやめておいた方がいいな。

 治安に力を入れていることもあって、他の町よりも多くの講習会が役場の職業訓練所で行われているから一度受けてみるのもいいかもしれないぞ。値段も安いからな。」


「実は今更ながらなんですが、自分も冒険者になろうかと思っているんですよ。大変ですか?」


「そうだな。今俺たちは下から3番目の上階位なんだが、なかなかこれ以上の階位には上がれなくてな。簡単な護衛や魔獣狩りをやっているんだが、収入のいい護衛の仕事はあまりないから、魔獣狩りでその素材や肉を売って日銭を稼いでいる感じだ。正直なところ、普通に職業に就いた方が安定した生活はできると思うぞ。

 昔の遺跡とかで古代の魔道具とか見つけて大金を手にすることもできるが、よほど運がいいやつだけだからな。まあそれが冒険者の一番の醍醐味だ。

 しかし、なにが一番大変かって、やっぱり怪我をしたときだな。怪我をして狩りに行けなければ収入はないだろ。治癒魔法を使える人間がパーティーにいればいいんだが、治癒魔法を使える冒険者はそうそういねえからな。おかげで薬代がかかってしまう。もちろん武器や防具も手入れしたり新調したりしなければならないから稼いでもなかなかお金が貯まらないな。」


「まあ飲み代に消えているという話もあるがな。」


「ちがいない。」


「そうなんですね。」


 他にもいろいろと話を聞くが、お酒が回ってきているのか、変な質問にも疑問を持たずに答えてくれたので助かった。



 あと気になったのはスキルのことである。スキルは鑑定で見ることができると思っていたんだが、そもそも鑑定そのものがかなり貴重みたいだ。アイテムの鑑定はできる人もいるんだが、人の鑑定をできる人は過去にいたらしいと言うレベルのようだ。このためどうしたら鑑定のスキルが得られるのか取得方法はわかっていないようだ。

 そこでいまはどうやって鑑定をしているのかというと魔道具を使って行っているようだ。しかしその魔道具は現代の技術ではできないみたいで、古代文明の魔道具を使っているので、数がかなり少ないようだ。このため鑑定をするにはそれなりにお金を払わないといけないらしい。


 能力をアップするクラスを得るにはスキルが必要なのでスキルの確認をするんだが、話を聞く限りではスキルのレベルはわからないようだ。このため必要なスキルを得てもクラスが得られないこともあって、スキルを得てもある程度熟練が必要だとか言う感じで考えられているようだ。



 話をしながら食べた夕食は何かの肉のステーキ(豚肉っぽい)とコーンスープにキャベツみたいなものとニンジンみたいなものとトマトみたいなもののサラダにロールパンだった。味はちょっと大味な気もするが、普通に香辛料もきいていておいしかった。食事に関しては問題なさそうだな。ご飯もあるみたいだしね。

 ここでは箸はないのか、使うのはナイフ、フォーク、スプーンである。使い方のマナーはよくわからないが、まあこういう店のせいか特にマナーなど気にせずに食べている感じだ。


「他に何か聞きたいことがあればいつでも声をかけてくれ。普段はこの宿に泊まっているからクーラストとアマニエルと受付で言えばわかるからな。」


「いないときは狩りに出ている可能性もある。宿は長期契約しているからなにかあれば役場よりも宿に伝言してもらった方がいいかもしれないな。」


 二人はまだ飲むらしいので、最後にもう一杯ずつビールをおごってから部屋に戻ることにした。




 共有のシャワーを浴びてさっぱりしてから部屋に戻る。お風呂が設置されている宿もあるようだが、やはりそれは高いらしい。とはいえ、シャワーもお湯が出るので全く問題ないし、家でも普通にシャワーだけのことが多かったからあまり違和感もない。石けんとかシャンプーとかも普通に置いてあるからね。もちろんとられないように鎖がかけられているけど。

 ベッドもバネが入ったマットに綿が入った布団が乗せられているので十分というレベル。トイレもちゃんと水洗だし、ほんとに知識チートはできない環境だよなあ。ウォシュレットはなかったけど、これは作ることができれば普及するのかねえ?あれを初めて使った人はかなりの衝撃だから時間をかければ普及はしていきそうだ。


 いろいろ問題がある気もするが、結局もとの世界に戻るのは他力本願しかないので、割り切って10日間の異世界旅行を楽しむことにしよう。明日はせっかくなので職業訓練に行ってみるとするかな。




 荷物を改めて確認すると、昼にチェックしたもの以外に、着替えの下着や服や靴下が2セット、歯ブラシと歯磨き粉、タオルが2枚入っていた。お泊まりセットだな。歯ブラシと歯磨き粉はもとの世界とあまり差がない。とりあえず新たに買う日用雑貨はないと思っていいようだ。



 昼に気になったお金についてガイド本をもう少し読んでみる。魔法のところに書かれていたんだが、魔力を魔獣石に注入することで魔獣石の分解、合成ができるようだ。基準となる単位が一番小さな魔獣石の魔素力を1として決めているようで、この数値で初めて魔獣石として形になるのでこれ以下の魔素を持つ魔獣石はないようだ。この魔素1の魔獣石が1ドール硬貨という単位となっている。


 10進法で桁が上がるたびに形状や色が変わってくるために10進法が基本となっているようだ。このため他のことについても10進法が基準となっているのだろう。


書いてある内容と、今持っている硬貨からこんな感じかと思っている。

1ドール=黒色で直径約10mm、厚さ約1.0mm

10ドール=黒色で直径約18mm、厚さ約1.8mm

100ドール=赤黒色直径約20mm、厚さ約2.0mm

1,000ドール=赤色で直径約24mm、厚さ約2.4mm

10,000ドール=黄色で直径約28mm、厚さ約2.8mm

100,000ドール=白色で直径約32mm、厚さ約3.2mm

1,000,000ドール=金色で直径約40mm、厚さ約4.0mm


 1ドール硬貨を10個合成すると10ドール硬貨に、10ドール硬貨を10個合成すると100ドール硬貨になるが、99ドールでも10ドール硬貨のままで、見た目の区別はできないらしい。つまり1~9ドールは1ドール、10~99ドールは10ドール、100~999ドールは100ドールとなる。


 ガイド本と聞いた話から、一般的に流通しているのは1000ドールまでで、大口の取引ではもう少し高額のお金も使用するが、それでも10万ドールまでらしい。ただ合成できる最高が100万ドールみたいなので無限に合成できるわけではないようだ。

 呼び方は普通にドールで言うんだが、簡単な言い方で高額コインは色で言うこともあるらしい。「赤1枚」とか「白1枚」とかいう感じだ。まあ金貨や銅貨とかよりはわかりやすくていいね。

 ただすべてが硬貨になるので正直かさばるのが面倒だ。札に慣れているとしょうが無いのかもしれないね。財布も硬貨がベースなので巾着のようなものなんだろう。巾着の中がいくつかに分かれているので仕分けられるようにはなっているんだけど慣れないな。



 魔獣を倒すと魔獣石が手に入るが、同じ魔獣だとある程度魔素の量は同じだが、正確には若干の差がある。この魔素量をどうやって確認するかというと、測定する魔道具があるようだ。ただしこれも鑑定と同じく、古代文明の遺物の魔道具でしかできないみたいで一般的に流通するほどない。


 999ドールのものを100ドールとして使うのはもちろんもったいないので、どうやって調整するかというとやり方は二つあるようだ。


 一つは自分で分解を使うことで調整していく方法だ。分解すると、魔獣石は半分の量となるのである程度目星をつけておけば調整は行いやすい。最小単位は1ドールなので、最後は細かく合成していくしかなくなる。100ドール以下などの金額が小さい場合は通常はこの方法で行うことが多い。

 半分にしていくため、3ドールは1.5ドールとなってしまうので、それをさらに半分にすることはできない。魔道具でも小数点以下については確認できないようだ。


 もう一つは銀行のようなところにお金を預けることだ。預ける際には魔道具で魔素量を確認することができるのでごまかされることはないし、お金を受け取る際には指定の硬貨でもらうことができる。ただ魔道具の関係で預けることのできるところは大きな町しかない。引き出す時は手数料として金額に応じて最大4%の手数料が取られることとなる。


 ちなみに銀行からもらうお金はそれから合成・分解はできないようになっているようだ。取引の際に合成を使われて貨幣が減ってしまっていることがあったためと言われており、解除するには特別な魔法が必要らしく、もちろん解除方法は公開されていない。



 冒険者が魔獣を討伐して魔獣石を手に入れた場合は、持ち運びのために一つに合成してから必要に応じて分解したり、上の単位の硬貨になった直後にその硬貨を使ったりしているようだ。ある程度のレベルの冒険者になると銀行を使うので、流通しているお金はずれていても数ドールくらいのようだ。


 普通に考えるとどんどんお金が増えていってインフレになってしまうと思うが、魔獣石は魔素の供給源として消費もされるため、その心配は無いらしい。こちらの電化製品に当たる魔道具は普通魔獣石で動くようになっているので普通の生活でも使用されている。

 1ドール硬貨については小さな魔道具の稼働に使う魔素の供給源となるため、そのまま魔素の供給で消費されることの方が多いようだ。9ドール分入っている方が長持ちするからね。


 実際にどんな感じになるのかについては魔法が使えないとわからないので魔法が使えるようになったら試してみよう。



 最初にお金は全部で5万ドールあったが、宿の支払いと飲み物代で910ドール使ったので残りは49,090ドールだ。この宿に泊まり続けたとすると、残り8泊とお昼代でだいたい8千ドールあれば十分だろう。

 魔獣狩りに行くとなると、最低限の装備がいるので、昼に聞いた話だと2万ドールほどはかかるだろう。あとは職業訓練などにもお金はかかるだろうからそれにもお金を使うとしても、1~2万ドールほどは余る感じかな?まあ途中でなくなってしまっても困るので、贅沢に使うとしたら最後の夜かな?




 時間の経過についてはガイド本の時間と比較したところ一日の長さは変わらないようだ。こちらの1時間は日本時間でちょうど2時間となっていた。倍にすると1日の長さは24時間となるので単純に1時間あたりの時間が2倍になっていると判断すればいいようだ。

 分については1時間を120等分なので1分はもとの世界と同じ1分みたいだ。1時70分とかいう言い方になるのでちょっと変な感じはするんだけどね。あと1分も120秒なので1秒は0.5秒だな。


 もとの世界で12という数字は月の満ち欠けが関係しているという話を聞いたことがある。こっちも同じようなものなのかもしれないな。まあ時間の単位は違うが一日の長さも同じなのでまだ生活しやすそうだ。これで1日が短いとか長いとかだと生活リズムが狂いまくりだよ。




 続いて身分証明証についても説明を読んでみる。

 身分証明証は生まれたときに神様から一人一人に送られるもので、カードはその人の体の一部のような認識だ。このため念じることで体に取り込むこともできるし、取り出すこともできるようになっている。もしカードを顕在化した状態で盗まれたとしても一定距離離れると消えて体に戻ってくるようになっている。

 最初に書かれているのは生まれた日と年齢くらいだが、名前が決まって洗礼を受けたところで名前も記入される。職業もこれに登録されるが、カードの仕様は神様との契約により機能が更新されることがあるらしい。

 本人がなくなった場合、自動でカードが顕在化するため、死亡したときにはすぐに分かる。カードは神様に奉納することで消滅するが、そのまま残している人も多いようだ。骨よりもこのカードの方が重要らしいので、遺骨はまとめて埋められているらしい。

 人を殺した場合には殺した相手の名前などが記録されるため、殺人を行った場合の証明となってしまうようだ。たとえその場では生きていたとしても致命傷を与えたところでその情報は記録されるようだ。


 今のところ身分証明証に書かれている内容はこんな感じだ。誕生日はもとの世界の日付なんだけど、誕生日が来ていないのに17歳と表記されている。年はこっちの世界の表示なんだろうけど、年が1歳上と言うことは数え年とかなのかな?


名前:ジュンイチ

生年月日:998年10月30日

年齢:17歳

職業:なし

賞罰:なし

資格:なし

クラス:なし


 この情報以外にもそれぞれに対応した魔道具で情報の読み取りができるみたいだ。銀行の口座情報などがそれに当たるのだろう。


 消えるように念じてみるとカードが消えて、出てくるように念じるとちゃんと出てきた。うーん、不思議な仕様だなあ。


 これって神様が管理しているんだろうけど、プログラムのようなもので自動化されているのかね?一人一人に手作業で対応していたらとてもではないが追いつかないだろうし、全員を見ているわけにもいかないだろう。

 あと神様と契約して機能を更新するっていうのもすごいな。依頼があったらプログラムの更新とかで大変な目に遭っている人(?)とかがいそうな気がするな。まあ神様本人がやっているとは思えないからその眷属の人は大変だねえ。

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