第19話【暴走】

焔……? キロルの娘が言っていた。焔を体に取り込むと必ず副作用が起こる

つまり、ワタは焔に自分の体を乗っ取られるということか

「ワタ! 目を覚ませ! 」

ヨルナミの必死の呼び掛けにもワタは応じようとしなかった

逆に、ヨルナミにその矛先を向ける

その行動はもはやワタではなく、他の生物だと思うほどだった

体は猫背になり、目のピントは合っていなかった。何よりも不可解だったのが動き方だった

幽霊のように御ぼそかでゆっくりと動いていた

もう、戦うことでしか目を覚まさないのか。それとももうワタが帰ってこないのか分からなかった


どうしよう……


ヨルナミは必死に悩んだ。ワタの言葉が1つ引っかかった

「ヨルナミ! 殺せ! 俺が俺であるうちに!」

ワタは自分を殺して欲しいと言った

だが、本当にそれはワタの意思なのか

確かにあれはワタの言葉だった。殺すのが正解なのかな……

ヨルナミは剣を構えた

だが、出来なかった

ワタとの記憶が走馬灯のように蘇ってくるからだ。一緒に飯を食ったことや修行をしたこと

「僕には……殺れない……まだ助けられる可能性はある! きっとそうだ! 」

ヨルナミはとりあえず自分の剣に焔を宿しワタに向かった

「無駄なことを……」

ワタは炎を使い、ヨルナミの斬撃を溶かし防ぐ


攻撃が全く通じない……どうしよう

でも、とりあえず攻撃をし続けるしかないか

紅焔に染まる剣を振りながらワタに攻撃を仕掛ける

攻撃を仕掛ける度にどんどんワタの力が強くなり始め自分ではどうしようとも出来なくなり、自分の弱さに嘆いた

これだと逆に自分がやられてしまうと察したヨルナミは意外な行動を取った

普通なら強くなろうがなんだろうがとりあえず突き進むのだがヨルナミは違った

剣をしまい、ワタを直接殴りに行ったのだった

「ワタ! 僕の痛みが分からないか! 君が殴った時と同じ様に僕は殴った。目を覚まして! 」

ヨルナミが語り掛けると声は届いたのかワタの動きは止まる

燃え上がっていた炎も消え始めていた

「……」

ワタは何も喋ろうもしなかった

「ワタ……?」

肩を叩く。返事が無かった

周りの火は完全に消え去る

そして、何故か天井から雨が降り始めた

その水は戦いにより傷ついた2人の傷を癒すワタはその雨に苦しみ始めた

「焔は……水に……」

焔はワタの体から飛び出してきた

これなら焔と話す事ができるのかな……

「何故、こんな事が起こったの?」

ヨルナミはすかさず聞いてみる

「それは……分からぬ。焔もこうなりたくてなってる訳じゃない。元々剣に宿す者が無理をし体に宿すからこんな事が起こるんだ。人それぞれだが……」

「言って!焔はなんなの?」

聞こうとした時、焔はまたワタの体に帰っていったのだ

ヨルナミは炎が無い今ならと思い、ギターを取り出す

暗かった部屋に少し光が灯り始めた

これなら……

ヨルナミはギターを弾き始めた


ワタ、目を覚まして

僕らは生きないと行けない

キロルや伊吹さんの分も

焔に負けないで

こらからも

一緒に乗り越えようよ


ワタに伝われと思い、思いっきり伝えたい事を言葉にした

「ぐっ…うわぁぁぁ! ! ! 」

ワタはいきなり発狂をし始め、その場に倒れた

ヨルナミは驚きワタのそばに駆け寄る

脈は合った……

とりあえず教会に帰ろう……

ヨルナミはワタを背負い教会に帰った

帰りの道はキロルの娘が案内してくれた


教会に着くと信者たちが集まっていた

「教祖様は……? 」

信者の大半がキロルの事を聞くが僕達は悲しみの余り答えられなかった

そして、ライチに起こったことを話す

回復に専念していたのでキロルが死んだ事は気が付かなかった

その事を話とライチは涙を流した

「お父さんはいつも言ってた。自分を責めないでって。だから、ライチさんも自分を責めないで……」

キロルの娘はライチを励ます

「え? ! お父さん? どういう事? 」

ライチは泣きながらもキロルに娘がいた事に驚いた

キロルの娘は事情を話すとライチは納得した様子だった

「名前は……」孤児と聞かされていたので自分の名前が分からなかった

「とりあえず明日考えよう」とライチは提案した

時間は讃課 。全員疲れていたので寝ることにした

ヨルナミとワタは2日程深い眠りに付いていた

その時、不思議なことに夢は見なかった


ヨルナミが目覚めるとワタは既に目覚めており紙に何かを書いていた

「それ何? 」とワタに聞いてみるとワタは少し恥ずかしながら「詩……」と答える

詩を見せてもらうととてもいい物だった

「そうだ! これを曲にしようよ! 僕が曲作るから! 」

ワタは「うん! 」と答え、詩を書き上げた


それから3日の時間が流れた

ヨルナミはライチとワタを呼ぶ

「曲が完成したよ。聞いてください。光の道」


お前はいつもそうだった

俺の背中を押してくる憧れだ

あの日も押してくれたんだ

その輝きは

あの太陽のように消えないんだ


お前が助けてくれたあの日

俺は記憶が曖昧

お前のお陰で飲み込まれなかった

ありがとな

この感謝の意味は変わらない

あの星のように一生輝き続けるんだ


お前と過ごした長い時

それは俺の一生の想い

ずっと一緒に歩んで行こう

相棒と言う絆は変わらない

この絆は時間のように永遠に続くんだ


ワタが書いたヨルナミに対する感謝の思いの詩とヨルナミがワタと過ごした時間が創った美しいメロディーが交わり合い綺麗な曲が完成した

テンポはとてもゆっくりで賛美歌のような美しさが宿っていた

この曲は後に、バラードと呼ばれ語り継がれるのだった

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