第26話ガラデ平原での戦い⑥

 

「ドゴラ、貴様の龍化など見飽きている。もちろん龍族でも珍しいツインドラゴンだということも我々は知っている。その弱点もね」


 そう言ってハンラは指を弾いた。

 すると龍化したドゴラの足元に黒い影が出現し、ドゴラに取り付いた。


「能力『影踏み』。龍化した貴様は動きを封じられれば、首の動く範囲しか攻撃できないただの固定砲台になったしまうのだろう?そしてもう一つ。キャラット、拳を出しなさい」


「了解!」


 ハンラはキャラットの拳に向かい詠唱を開始、するとその拳が紫色に光り始めた。


「今キャラットの拳には炎と氷ダメージ軽減の魔法を付与しました。これで貴様は詰みだ。あとは背後からひたすらに殴られて絶命するが良い」


「じゃあ覚悟してねドゴラ!極力痛みを長引かせられるようにゆっくり嬲るように殺してあげるから!」


 キャラットはドゴラの背後に回り、飛び上がった後、ドゴラの背に向かって拳の嵐を打ち込もうとした。


『纏:稲妻!!』


 ドゴラがそう言うと、雷がドゴラの体から発生、その体全体を覆い尽くした。


「ちょ!え?ギィヤァアア…………!!」


 空中に対空することのできないキャラットはその勢いを消すことができず雷の中に突っ込んで身を焼かれ、そして黒こげになり地面に落下した。


「……どう言うことだドゴラ!貴様は氷と炎のツインドラゴンだろう!!なぜ雷が使える!?まさか今まで隠していたとでも言うのか!?」


 キプロスとキャラットが戦闘不能になり、明らかに焦りを覚えたハンラがそう言うと


『だから言ったであろう。我らは魔王様から力をいただいたとな。その力がこれだ』


 ハンラは龍族に今まで三つの属性を持つドラゴンがいたなど聞いたことがないし、持てるはずがないと思っていた。

 なぜならドラゴン族はその魔力の性質上2属性が限界と言われていたからだ。

 理由は判明していないが、サーズドラゴンが生まれない以上それがドラゴン族の限界と考えられていた。


 それからしても、ドゴラが今雷属性を使ったのはハンラにとってはあり得ない光景であったのだ。


『さぁ、どうするハンラ。ここで諦めるか?それとも戦うか?臆病な貴様のことだ。ここで諦めておけ。』


「は、はぁ!?舐めるな!!ここで私が貴様らに降伏するなどあるものか!!貴様が属性を増やそうがそれに対処すれば良いだけのことではないか!『炎無効化』『氷無効化』『雷無効化』!!どうだ!!これで貴様の攻撃は俺には食らわん!!」


『いつものクールキャラが崩壊しているぞ?戦いの最中は冷静さを欠いた方が負けるのだ。故にお前はすでに我に負けておる。諦めろ』


「ふふははは!!自分の攻撃が通用しないと分かるや脅しか!?そんな脅しに屈するほど私は愚かではないわ!」


 ハンラはキャラットと同様動けないドゴラの背後に回り、


「キャラットと同じようになると思わないことだな!!『斬撃強化』!!最高の斬れ味の剣を味わうたいい!!」


 そのガラ空きの胴に斬りかかった。


『ふ、愚かなものよ。忠告には応じておくべきだぞ。……纏:水月』


「ゴボっ!!……カハッ!!」


 ハンラはドゴラの体から吹き出た水に囚われた。


『浮上』


 その水はハンラを包み、球体となり上空に浮かび上がる。

 そしてそのままドゴラの顔の前まで移動してきた。


『ハンラよ。何か最後に言い残すことはあるか?』


「ゴボっ!!ボボボボボ」


『ふっ、何を言っておるか分からんわ!!』


 そう言ったあとドゴラの口から冷気が放出され、その球体は氷の塊へと姿を変えてしまった。

 明らかに凍る前に『理不尽だ!!』と叫んだように思えたが気にしない。


『さて、龍化解除』


 3人を倒したドゴラは元の姿に戻った。


「マホよ!こっちは終わったぞ!そちらはどうだ?」


 上空で箒に乗って足をプラプラさせているマホにドゴラがそう聞くと、


「とっくにぃー、終わってるんですけどぉー。というかぁー、ドゴラ時間かかりすぎぃー」


「ぬ?そんなことはないと思うが?十二翼3人を相手にしていたのだ。むしろマホならばもっと早く終わったとでも言うのか?」


「……なにそれぇー。マホに喧嘩売ってるのぉー?」


「ふ、小娘に喧嘩を売るほど我は若くない。なにせ我は大人だからな。喧嘩っ早いお主らと一緒にして欲しくない」


「ぷっちーん。あったまきたぁー。ここはぁー、ほとんどマホのおかげでぇー、かたづいているからぁー、今からぁー、ドゴラ殺す時間もぉー、あるよねぇー?」


「そのような時間はないぞマホよ。我にはこの3人を本陣に連れて帰るという仕事が残っているからな。主と遊んでやる暇などない」


 そう言ってドゴラはキャラットと氷漬けになったハンラを抱え、本陣へと向かった。

 ちなみにキプロスは部下の一人に背負わせている。


「ちょっとまちなよぉー。にげるのぉー?」


「そんな挑発にはのらんよ。マホも自らの仕事を果たせ。でなければ魔王様の期待を裏切ることになるぞ?」


「……気に入らないけどぉー、仕方ないなぁー。ドゴラを殺すのはぁー、この戦いが終わった後にするねぇー」


 そう言い残し、マホは箒に乗ってウィッチ族の残骸が広がる方へ飛んでいった。

 ウィッチ族の族長を拾いに行ったのだろう。


「ドゴラ様、やはり年長者は違いますね!!」

「ほかの奴らにない見事な落ち着きっぷり!」

「さすがは俺たちのリーダーだ!!」


 ドゴラの部下たちは口々にそういう。


「そうおだてるんじゃない。まぁ悪い気はしないがな。よし、我は一時本陣へと帰還する。我が戻るまでの間、残兵の処理は任せたぞ」


「「「おおおーー!!!」」」


 この時点で左翼と中央部はほぼ制圧が完了した。

 あとは右翼方面だけだ。


 ◇◆◇◆


「……ギーラが強いのは分かってたことだけど……相手にして初めて改めてそう感じたよ」


 ギーラと戦って無残にボロボロにされたフランがそう言った。

 魔王様によって強化されたフレンとキツケが二人がかりで戦ったにもかかわらず、ギーラはまるで赤子の手を捻るが如く、制圧をしてしまったのだ。


「ふ、なに私も少しばかり本気を出してしまったからな。十二翼でもなかったお前らがこの私に少しでも本気にしたのだ。褒めてやる」


「……あれで少しばかりなの?」


「ああ、少しばかりだ」


 当たり前だろうという顔でそういうものだから、彼の言うことは本当なのだろう。

 やはり十二翼最強の男は違う。

 ほかの奴らなんて比べものにならない。


「さてフレン、私を魔王のところまで案内してもらおうか。なに、お前らは殺しはせんよ。私は無益な殺生は好まんからな。……まぁ、なお反抗すると言うのであれば……容赦はせんがな」


「……そう言われて素直に案内すると思う?」


「思う思わないの話ではない。お前の選択肢はただ一つだ。案内するしかない」


 なんて圧倒的な差だろうか。

 ギーラに勝てる要素がどこにも見当たらない。


「…….分かったよ。案内する」


「うむ、良い心がけ……「その必要はないぞフレン」……ふ、そちらから出向いてもらえるとは思ってなかったぞ」


 フレンは声のした方にパッと顔を向けるとそこにはレノンが立っていた。


「ああ、こちらも出向くつもりはなかったぞ。しかし私の部下をこうもあっさり倒してくれたのだ。それこそ強者の証。俺が出向く理由としては十分だろう」


「……試していたというわけか?」


「いや違う。俺の部下ならばお前だろうと倒せると信じていた。しかしそれを圧倒的に上回る力を見せたというわけだ」


 実際いくらギーラとて、フレンとキツケが組めば倒せるくらいに思っていた。

 しかし彼の力はそれ以上、2人が能力を使ってなおも勝てない想像以上の強者だった。


 キツケに与えたのは『分身』。

 キツケから分離した蝙蝠がキツケの姿になり、そして分身体でありながらキツケと全く同じ能力値というものだ。

 ただし分身体は分身の能力は保有しない。


 そしてフレンに与えたのは『魔力支配』

 以前フレンはマホとの模擬戦の際、魔力操作は長けていると言っていた。

 故に与えたのは、相手の発した魔力を完全に支配するとんでも能力だ。

 ただし強すぎる魔力は完全に支配は出来ない欠点はある。

 しかしそれこそ魔法のエキスパートであるマホの魔法を支配できることは実証済みだ。


 2人ともそれくらいの力を手にしていながら、ギーラに完敗を喫した。


「ならば良い。では始めようではないか!私と貴様の狂乱の時を!!」


「俺に勝負を挑むのだ。少しは楽しませてくれ」


「期待に応えられるように努力しよう!!ふんっ!!」


 ギーラは長槍をレノンに向かって振るった。

 魔王軍十二翼最強と元人類最強の決戦が幕を開けた。

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