第21話ガラデ平原での戦い①


「ははっ……数倍とか数十倍とかそんなレベルじゃねぇじゃねえか!!」


 ガラデ平原の北側に陣を構えた俺たちを待ち受けていたのは想像を絶する偽魔王討伐軍の兵士たちであった。


「魔王様ー、上空から確認できるだけでざっと30万はいると思いますよー。正直それよりも多い可能性が大ですー!」


 おいおい……なんの冗談だよ。

 こちらの三千に対してその百倍近くの兵を用意してくるとか反則だろう。


「我思うに、絶望的状況であるな……」


「当たり前のこと言ってんじゃねぇよドゴラ……」


 この光景を見るや、こちらの軍の士気は駄々下がりだ。

 正直これに関しては俺も想定外だった。

 自分が元英雄であると言う事実を軽んじすぎた。

 その結果がこの百倍の兵の差というものだ。


「魔王様、あまりにも不利な状況です。このまま戦っても我方には勝ち目はないかと」


 キツケがそう言った。


「じゃあー、キツケはぁー、魔王様にぃー、どうしろって言うのさぁー?ゴスにくだってぇー、殺されろってぇー、言うのかなぁー?」


「いえ……そうは言いませんが……」


「だが勝ち目がないと言うのは紛れもない事実であろうマホよ」


 ドゴラがそういうとマホはドゴラのくせに……と言いながら一歩引いた。

 彼らはもう負けたつもりでいるのだろう。

 この最強の俺を擁していてもなお、そう思うならばそれは仕方がないことだ。

 だがここで俺がそれを認めるわけにはいかない。

 そうなぜならば俺は彼らの王であり、この世界を統べるべく魔王になった元英雄。

 彼らを導かねばならない。


「キツケ、ドゴラ。お前たちの心配も分かるが、俺を誰と心得るか?俺は魔王レノン。この世界最強にして災厄をもたらすべく生まれ変わった魔王ぞ!!たかが百倍程度の差を覆せぬと思うのか?」


 部下に心配をさせぬのが上に立つものの務め。

 強がりにしか聞こえない言葉でも、それで一瞬でも安心感を与えられるのであれば俺はそれを口にする。


『偽魔王に告げる!!』


 突然対面する敵陣から大音量の声が届いた。

 この声……紛れもなくゴズのものであろう。


『この数の差!!いくら元英雄とはいえビビって今にも逃げ出したいのではないかな?貴様に!元人間の貴様に魔王を名乗る資格なんぞもとよりないのだ!!そして今こちらにおわす魔王様の一人娘であらせられるメム様こそ魔王を名乗るに相応しく、貴様らの粛清をもってメム様の初仕事としてくれよう!!己に正義があるというのであれば、逃げずに対峙せよ!!そして我らが再び集うためのにえとなれ!!』


 ものすっごいうるさい演説だな。

 そして少し俺もカチンときた。

 言いたい放題言われて黙っていられるか。


「あー、あー、えー、偽魔王討伐軍のみなさんこんにちは。私が新たに魔王となりました元英雄のレノンと申します。以後お見知り置きを。さて簡易的な挨拶はここまでにして……すでに数の差で勝ったとお思いだろうがそれはナンセンスだ。こちらにはすでに1人で1万を相手にできるであろう戦力が6人もいる。そしてその長である私は貴様ら程度ならば1人で10万は相手にできるであろう。なに、冗談と思うならばかかってくるが良い。俺は溜まりに溜まった魔力をこれより放つ。これを開幕の挨拶としよう。ではいくぞ。逃げるならば今のうちだ」


 俺は先日マホとフレンから奪い取った魔力を放出するべく、左手を前に出した。


『なにをバカなことを!!全軍偽物と裏切り者を素早く粛清せよ!!前進開始!!』


 ゴズの掛け声に30万の軍隊が一斉に進軍を開始した。

 ものすごい地響きと叫び声が聞こえる。


「いくぞ!!極大魔法『フレイムオブデス』!!」


 俺がそう叫ぶと俺の正面にいたおそらくオークとゴブリンの部隊の足元に巨大な魔法陣が出現した。


「な、なんだ??」

「おい!止まるな!!こんなものはったりだ!!進軍を続けろ」

「そうだこんな範囲の広い魔法など……!!!!!」


 それは一瞬のことだった。

 広大な魔法陣から上空に向けて立ち上がった炎の渦に魔法陣の上にいた兵士たちは一瞬にして呑まれ、そして跡形もなく消し去られたのだ。


「な…………なんだこれは」

「嘘だろ……5万近くの兵士が一瞬にして消えるなどあり得るか!!」

「しかしそれではそこにいた兵士たちはどこに行ったというのだ!!」


 などと声が上がる。

 俺は一瞬にして敵の士気を下げることに成功した。


「さ、流石は魔王様だ……!!よ、よし!!俺たちもいくぞ!!魔王様が後方から支援してくれる!!皆怖がらず前に進むぞ!!ワンズ隊左翼方向へ前進!!」


「この力……心強いぞ!我らもいくぞ!!龍族の力を今こそこの戦場に……そして魔王様にお見せ致しましょうぞ!!ドゴラ隊、全速前進!!向かうは正面!!」


「ふひっ、さ、流石はぁ、魔王様ぁー!!マホはぁー、感動いたしましたぁー!こんな魔力はぁー、今までぇ、見たことないよぉー。今度はマホの番だねぇー!!ドゴラぁー!!上空からのぉー、支援は任せてねぇー!あとぉー、巻き添えになったらごめんねぇー」


「できればやめてほしいものだー!!」


「キツケ私たちも行きましょう。魔王様が開いてくれた活路を無駄にするわけにはいかないでしょう」


「そうね。キツケ隊、フレン隊は上空より右翼陣を攻撃する!!我らの圧倒的な火力を地を這うことしかできぬ奴らに知らしめてやるのだ!!」


 各々が士気を取り戻し、前進を開始した。

 ちなみにスラメ隊5000は俺と一緒に本陣で待機。

 流石に前線に送るのはかわいそうなので後方で物資の搬入等を行なってもらう。


「ねぇ魔王様!僕だけでも前線に出ようか?」


 スラメがそう聞いてくれたが、


「大丈夫だスラメ。むしろスラメは本陣と俺を死守してほしい」


「魔王様は守る必要ないと思うけど、了解だよ!ここに敵が近づいてきたら僕が戦うね!」


「ああ頼むぞスラメ。期待している」


 スラメは嬉しそうにうんと頷くと後方のスライム達の指揮を開始した。


 いくら5万が削られたとはいえ、たかが5万だ。

 敵の勢いは衰えないだろう。

 となれば……


 俺は戦場を見渡した。

 中央部は先の一撃で勢いが衰えている。

 左翼方向は……開いた中央部に向けて移動を開始している。

 右翼も同様か……


 所詮数はいようが連携など皆無の無象無象。

 我先にと手柄を取るべく、ただ前進して数で押しつぶそうとするだけの哀れな集団だ。

 だからこそ動きが読みやすい。

 となれば……


 敵が集まったところでもう一撃極大魔法を展開するだけのこと。

 敵も先ほどの魔法を連発できるとは思ってもいないだろう。

 まぁ実際に何度も使えるものではないが。

 その実俺の魔力の5分の1を持っていく。

 しかしそれを連発したとなればどうだろう。

 敵はまた来るのではないかという錯覚に陥る。

 それにこそ意味がある。

 そして……今は戦場に出てきていないであろう奴らを引きずり出す。


「ドゴラ進軍を一時停止!敵が集中しつつある中央部にもう一撃くれてやる!」


「承知した!!」


「いくぞ!!極大魔法『バニッシュオブダークネス』」


 展開された魔法陣からどす黒い波のようなものが戦場を黒く染め始めた。

 威力自体はフレイムオブデスよりも低いものの、範囲においては圧倒的に上回っている。


「お、おい!!こっちにまで広がってきているぞ!!」

「退避!!退避ー!!」

「邪魔だ!!どけ!!ぎぃやぁ……」


 波に呑まれそして地面の中に沈んでいく。

 効果範囲が広い分先ほどよりも多くの敵を葬れたのではないだろうか。

 敵が集結し、最初の穴を埋めた軍勢が再び消え去り、そして中央部に先ほどよりも大きな穴を作った。


「……なんなんだよ!これは!?」

「あんな魔法を連発してくるとかあり得ないだろ」

「奴は本当に偽物なのか……?」


 敵に動揺が走る。

 開幕してからものの数分で3分の1程度の兵が消されたのだ。

 しかも極大魔法の連発により。


「敵の戦意は確実に折れた!!さぁ勇猛果敢に攻め立てよ!!そして俺を偽物扱いする不届きものに分らせてやれ!!」


「「「はっ!!」」」


 こちらの士気は格段に上がった。

 しかしまだ戦力差はかなりある。

 彼らの奮闘に期待しよう。

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