第13話ゴズ乱入

 

 魔王城の最上階へと続く階段の前でゴスはある人物の到着を待っていた。

 それには理由がある。


 最上階への結界を見つけて解除を試みたものの魔法知識がほぼないゴズもゴブルには出来なかった。

 結果彼女を呼ばざるをえなくなった。


 魔法のエキスパートウィッチ族のマホ。


 彼女がいればこの結界も紙同然だ。

 瞬時に開くだろう。


「ゴズさん、本当にマホは来るんですかい?」


 ゴブルが尋ねる。

 そう彼女には少し問題がある。マホは気まぐれだ。

 その日の気分によって仕事を請け負うか決める。

 なので今回の要請にも応じる保証はない。

 だが彼女が来ないことには偽魔王と戦うことすらできない。手詰まりだ。


「……待つしかないだろう。私たちにはどうにもできないんだからな」


「ほんと人望ねぇなゴズさん」


 何をゴブリンの分際で!と言いたいところだがゴズはグッと我慢する。

 なぜ?簡単だ。

 今はそれが事実だし、ゴブルとその他2種族以外は未だに私のところに来ない。

 普段はもっと色んな奴らから信頼されているはずなのだが、魔王という支えがなくなって皆不安なのだろう。

 集まらないのもそういう理由があるんだろう。


「ゴーズゥー、来たよぉー」


 ゴズが少し感傷に浸っていると、階段の下の方からまの抜けた声で1人の少女が現れた。


「よく来てくれたぞマホよ。早速で悪いんだがこの結界を解いてくれ」


 ゴズがそういうとマホは明らかに不機嫌な顔になり


「……いいけどぉー、マホに指図しないでくれるぅー?やる気なくなっちゃうなぁー」


 くそっ、めんどくさい。

 なんでこう魔王軍ってのは扱いづらい奴らばかりなんだ。


「マホさん結界を解いてください。お願いします」


 ゴズは頭を少し下げた。

 屈辱だ。魔族の中でもトップクラスのこの俺がウィッチ程度の種族に頭を下げなければならないなんてな。

 だが今は頼らざるを得ない。

 偽魔王を倒した後覚えておけ。


「お願いされたら仕方ないなぁー。じゃあちょっとはなれててねぇー」


 マホは結界に触れた。

 そしてものの数秒もたたずに後ろでまたゴズ達の方へ振り向き


「ねぇー、君たちさぁー、この結界本当に破れなかったのぉー?」


「……何が言いたいのだ?」


「だってこの結界……」


 マホがデコピンの要領で結界を弾くと、何もない空間にあたかも水滴が落ちたかのように波紋が生まれ、スッと何がなくなったように見えた。


「この結界……少し魔力を込めて中央部のスイートスポットを叩けば壊れるような脆い結界だよぉー?」


 試しにゴブルが階段を登る。

 するともとの階に戻ることなく最上階へと登ることができた。


「ゴズさん、登れますぜ」


 ゴズは苦悶していた。

 なにせマホは指一本でこの結界を破壊してしまった。

 しかし武闘派で魔力をほぼ使えないゴズにはこの結界を破ることなど到底できないのだ。

 下等下等と言っていた種族に屈辱を与えられる事が増えたことがゴズにとってはたまらないのだ。

 しかしそれを表に出すわけにはいかない。

 ゴブルやマホの機嫌を損ねて味方を失うわけにはいかない。

 ゴズはひたすらに我慢をすることにした。

 この鬱憤は偽魔王に全てぶつけてやると心に誓って。


「マホありがとう。助かった」


 苦虫を噛み潰す思いでマホに礼を言う。


「いいよぉー別にぃー。マホもこの上に用事があったからねぇー」


「……用事?何か魔王様の部屋に用事があったのか?」


「そうだよぉー。内容はぁー、教えてあげないけどねぇー」


 何か隠しているようだが、私にそれを追求することはできないし、する必要はないだろう。

 たぶんしたら機嫌を損ねる。

 だから私は一言そうかと言って最上階へと向かう。


 さぁ待っていろ偽魔王……

 私がお前を倒しこの魔界をすべる魔王になってやる。


 ◇◆◇◆


「あ、おかえりー」


 転移門をくぐって帰還した俺たちをスラメが出迎えた。


「で、状況は?」


「マホちゃんが来たからたぶん結界すぐ破られちゃうんじゃないかなー」


「あー、それは間違いないですね。私がはった結界は対ゴズ用のものですからウィッチ族には紙同然でしょうね」


「対ゴズ用?」


「ええ、魔力を使ってスイートスポットを触ると開く結界なんですよ。ゴズには魔力がほぼありませんから十分有効なんですけどね……っと結界が破られましたね」


 キツケが乗り込んできた時と同じように部屋に警報音が鳴り始める。

 そして徐々に足音が高くなってきている。

 ズシッとした音が1つと軽い音が2つ。

 敵は3人か……


「さて、お前ら出迎えの準備をしておけよ」


「「了解(おうっ!)」」


 俺は玉座に座り来客を待った。

 そして扉が開かれ、牛頭とゴブリンそして少女が部屋に入ってくる。


「貴様が魔王の名を語りここを占拠していた不届き者か?」


 そう言って部屋の中を見回す。


「はっ、こんな偽魔王にしたがう種族が魔王軍の中にいようとは嘆かわしいことだ。しかもその中に十二翼が2人も混じっているとは信じがたい事だ、そうだろう?ワンズ、ドゴラ」


 2人を見て鼻で笑う。

 ワンズは額に青筋を浮かべ、ドゴラは気にしないというフリをしているが腕組みする手の拳が強く握られているのが分かる。


「お前らもバカよの。大人しく魔王様の娘であられるメム様についていればそれ相応の地位が手に入るというのに、何を血迷っているのだか……本当に嘆かわしい。そうは思わないかゴブル」


「ここで俺に話をふるのかよ……まぁそうだな。俺は地位とか名誉とかには全く興味はねぇが、お前らがそいつに味方していることに関してはゴズと同意見だ」


 ゴブルは続けて


「俺はそいつが許せねぇ。悪逆非道を尽くすのは魔王の本質だから何とも思わない。だがな最低限のマナーってもんがあるんだよ俺たち魔族にもよ。それをそいつは平然と破った。そのせいで俺たちゴブリン族が被害をこうむった。だから俺はそいつを魔王と認めない」


 淡々と語るゴブルだが、その言葉の意味を理解しているものはこの部屋にはいなかった。

 なんならフレンは痛い奴を見るような目を向けている。

 なんか語ってるよこのゴブリンといった風に。


「なぁあんた覚えてないか?ゴブリンを使って街を襲ったことを」


 レノンとフレンはあっとなった。

 それはレノンが魔王となった日のこと、住人をゴブリンに変え街を襲わせた。

 ゴブルはおそらくそのことを言っているのだろう。


「あの件で俺たちが被った被害は甚大だ。ノラゴブリンが増えただけじゃない。街を滅ぼしかけた事で討伐報酬が上がり、冒険者達がこぞってゴブリンを狩るようになった。何もしてない俺たちの仲間は……お前のせいで殺されたんだ!!」


 レノンは何も言い返せなかった。

 ゴブルの言うことは最もで少し責任を感じてしまったのだ。


「だからな……俺は誰が魔王になろうが構わないがあんたには従わない。あんたがしたことはそれほどまでに常識をかいたことなんだ!!」


 ゴブルの口調が強くなる。

 レノンは表情には出さないが内面ではすごく焦っていた。

 しかしそれよりも態度に出てまで焦るのはゴズだった。

 ただ魔王の娘を担ぎ上げ自分が天下をとるためだけに動いてきたゴズからすれば非常にまずい状況だ。

 ゴブルの話の後にいくら自分の正当性を語ったところで話が霞んでしまう。


(というかゴブルこんな話してなかったんだけどー!)


 つい叫びたくなってしまう。


「……ゴブルとやら、俺は……魔族になってまだ日が浅い。魔族の常識と言われても知らなかったんだ。だが知らなかったではすまないだろう。故に俺は頭を下げる。すまなかった」


 レノンは玉座から立ち上がりゴブルに頭を下げる。

 その光景にその場にいた全員が驚いた。

 魔王が頭を下げたのだ。

 そんなあり得ないことに少し圧倒されたゴブルだったが、咳払いをして気を落ち着け、


「やめてくれよ、頭を下げる程度じゃ許してやる気はねぇからよ。……だが1つ気になるのは魔族になって日が浅いってのはどういうことだ?」


 ゴブルだけじゃない。

 ゴズもマホもレノンの味方達も皆そこに引っ掛かったみたいだ。

 唯一その事情を知るフレンだけは目を閉じてレノンがどう語るかを待っていた。


 しばらくの間自分の正体については、黙っておこうとは思ったが、少し口を滑らせてしまった。

 こうなった以上、言わないということはできないだろう。


「………いずれ言わなければならないとは思っていたが……俺は元人間だ。そしてお前達の仇でもある」


 誰もその言葉を理解できていない。

 レノンは続けて


「俺はお前達のボスである魔王を倒した男だよ。元アリステル王国最強のレノンだ」


 レノンは自分の正体を打ち明けたのだった。

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