第10話愚王と7人の勇者

 

 アリステル王国。

 もともとレノンがいた国だ。

 そしてレノンに滅ぼされかけた国でもある。


 レノンが魔王を討伐し凱旋した災厄の日。

 続々と姿をゴブリンに変える国民たちをなんとか狩り尽くし、国は守られた。

 無論国王はというと護衛たちに守られながら逃げ延びることに成功していた。

 そしてアリステル王国に戻り、破壊から免れた城を拠点に国の再建を図っている。


 建物を立て直し、死体の処理、部隊の編成などやることは山積みだ。

 それらを全て部下に任せ、国王はひたすらにある研究を行っていた。

 国王はそれが一番早く国を再建させる近道だと信じている。

 そして部下たちもその意見に賛同して全ての仕事を請け負った。


 そう国王が行なっているのは魔王になったレノンに対して一石投じる為の研究なのだ。



 ◇◆◇◆


 ドタドタドタドタッ!


 バンッ!!


「おい、カリウス!!遂にわしは見つけたぞ!!」


「……なんでしょうか国王陛下」


 白髪の頭をかきながらメガネをくいっと上げた彼は、国王の右腕のカリウスという男だ。

 今からは書類の山に埋もれてたまる書類をひたすらに処理し続けていた。

 なんといっても人材不足なのだ。

 書類仕事が片付かないしたまる一方なのだ。

 そしてこの国王の自由奔放……いやわがままに対応しなければならない。

 カリウスのため息は増えるばかりだ。


「ふふふ……聞いて驚くなよ!なんと勇者召喚の儀のやり方を発見したのだよ!!」


「……はぁそうですか」


 いや知ってますとも。

 だってあなたその研究のために私たちに仕事ぶん投げてるわけでしょ?


「なんだその反応は?嬉しくないのか?」


「いやそういうわけではありませんが……」


 国王はカリウスからいい反応が得られなかったことが不服だったようだ。

 それもそのはず。

 カリウスがこの報告を受けるのは3回目なのだ。

 その度にこの部屋に来ては「遂に見つけた!!」なんて叫ぶもんだからもう嫌気がさしている。


「今回は本当に出来るんでしょうね……?」


「何をいうカリウス!!今度は間違いないぞ!!なんてったって我が先祖が行なって成功させた召喚の儀だからな!!なぜ一番最初に見つけられなかったのか……悲しくなるくらいにだ!!」


 いやこっちのセリフだよ。

 なんでそれを一番最初にやらないんだこの愚王は。


「いやー、しかしまさに灯台下暗しとはこのことだな!まさかわしの部屋のベッドの下に転がってるとはなー!」


「は?」


 思わず溢れた言葉を咳払いで紛らわせる。

 自分の部屋にあっただと?

 私たちがどれだけ必死に城中を探し回ったと思ってるんだ。


「それでなこの儀を行うにあたって集めて欲しいものがあるんだよ」


「なんでしょう?」


「召喚する勇者たちに力を与えるための生贄じゃ」


「…………はい?」


「何大したものではない。ざっと100人の犠牲じゃよ!簡単だろう?」


 笑いながらそんなことを言う。

 それが簡単なことと思える常識のなさにカリウスは失望を隠せなかった。


「なんだ?無理だとでも言うのか?」


「無理に決まってます!今は人材難で1人でも多くの人員が必要なのです!それに誰がそんな成功するかもわからない儀式の生贄になろうと思いましょうか!?いるはずがない!!」


 カリウスは思いの丈を国王にぶちまけた。

 国王がやろうとしていることは明らかに悪手だ。

 いくらレノンが憎いからと言ってやっていいこととやってはいけないことがある。


 カリウスが国王にそう言ったすぐ後に


「カリウスに無理ならば私がやりましょう国王陛下!!」


 と入口の扉を開け1人の男が入ってきた。


「おお!ザイスやってくれるのか!!」


「はいもちろんですよ!私ならば国王陛下のお望みを叶えて差し上げることができますぞ!勇者召喚の儀を必ずやこのザイスが成し遂げて見せましょう!」


「そうかそうか!頼りにしているぞザイス!!………ということだカリウス。お前はもう何もしなくても良い。ただ書類の処理でもしているが良いわ」


 そう言い残し国王はザイスを引き連れ部屋から出て行った。

 ………はぁぁぁぁ…………


「なんで私はあんな愚王に仕えなければならないのだろうか……」


 とっさに溢れた本音だった。

 他国に行けばもっと良い待遇で受け入れてもらえる自信がある。

 しかしカリウスには他国に行けない事情がある。

 それはカリウスの父が国王から借金をしてそれをカリウスになすりつけて逃げたからである。

 カリウスは国王の下で働くことによって借金を返している。

 しかしあと30年以上は働かなければならないだろう。

 それくらいの大金をなすりつけられたのだ。


「レノン……お前が羨ましいよ」


 新たな魔王となって立ち去った友の名前をふと呟くのだった。



 ◇◆◇◆



 国王が勇者召喚の儀を発見してから数日が経った。

 城内の王の間には100人の人間が魔法陣の中に詰め込まれている。

 彼らは自国他国から集められた凶悪犯罪者たちだ。


「おい本当にこの儀式に協力すれば無罪放免してくれるんだろうな!?」


 ぎゃーぎゃーと吠える罪人たち。

 するとザイスが罪人たちの前に行き、


「もちろんですとも!この儀式に協力していただければ皆さんを無罪放免致しますとも。このザイスが保証しますぞ!」


「は!嘘だったらただじゃおかねーぞ!」


「では始めましょう!国王陛下お願いいたします!」


「うむ!ではいくぞ!」


 国王は魔法陣に自分の血を一滴垂らし


「アリステル王国の国王の名のもとに命ずる。天界の神よ!!この世界を救うための救世主、勇者を召喚せよ!!」


 国王の言葉で魔法陣が黄色の光を放ちはじめた。


「おい!なんだこれは!!外に出られないじゃないか!!」


 放たれる光に何か嫌な予感がした罪人たちはそこから出ようと光に突撃するが、見えない壁に阻まれそれができなかった。


「もちろん出られませんよ!!あなたたちにはここで召喚される勇者たちの生贄になっていただくんですから!!」


「な!?てめーら騙したな!!ぶっ殺してや…………!!!」


 すべての言葉を言い終わる前に光に浄化されるが如く、100人の罪人たちは姿を消し、黄色の光を赤く染め上げた。

 そして徐々に弱くなる光の中に、7人の人影が浮かび上がった。


「よし!成功だ!!わしは勇者を呼び出すことに成功したぞ!!!」


「おめでとうございます国王陛下!!」


「いやいやザイス、お前の力なくして成し遂げることは出来なかった!礼を言うのはこっちの方だ!」


「ありがたきお言葉!」


 そんなことを2人が話しているうちに光は完全に消え、学生服を着た7人の男女が姿を現した。


「ザイス勇者達が目覚めるぞ!事情の説明は任せたぞ?」


「かしこまりました!」


国王とザイスはニヤリと笑い学生たちの目覚めを待った。


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