大陸最強の俺は、国に裏切られ魔王になる〜魔王になった俺が魔王軍を再編し世界を支配する〜

トリノ

第1話勇者、魔王になる

 

「よく魔王を倒してくれたぞ!勇者レノンよ!」


 魔王を倒し国に帰還した俺たちを迎えたのは街道を埋め尽くす人々、そして外に設置された玉座に座る国王だった。その全てが俺は憎らしい。

 勇者?ふざけんな。俺はお前の奴隷だろうが。



 そう全ては仕組まれたものだった。



 とある大陸最強を決める戦いに俺の剣の腕ならば通用するという友人の勧めでなんとなく参加した俺は、あろうことかそこで優勝しまったのだ。

 アリステル王国に戻ると早速王城へと呼ばれ、国王から魔王討伐の任を命ぜられた。


 だが俺はその任を断った。全くもって面倒だったから。それに俺には自宅に大切な妹がいたからだ。両親を早くに亡くし、二人でなんとか暮らしてきた。妹をおいて何処かに行くなんてことは俺にはできなかった。


 しかし俺は従わざるを得ない状況にされた。

 その妹を人質とされたのだ。


 魔王討伐を断って自宅に帰ると、家の中は荒れ、まるで泥棒でも入ったかのようだった。


「メリザ!!」


 俺はメリザの部屋に走った。

 妹の部屋の扉を開けると、誰もおらずただ物が部屋中に散乱していた。


 俺は察した。間違いなく国王の仕業だと。

 いうことを聞かない俺に国王に逆らうとどうなるか教えるためだと。


 床には妹が大切にしていたクマのぬいぐるみがボロボロになって落ちている。

 俺はそれを拾い、抱きしめた。


「ごめんな…メリザ!!」


 そうこうしていると自宅の玄関が開かれた。

 訪問者は国王からの使いと、騎士団たち。


 妹を人質に取られた俺は抵抗する事を封じられ、縄で括られ王宮に連れていかれた。

 そしてそのまま国王の前に連行され、無理矢理魔王討伐の任を受けることになったのだ。


 その後も妹を人質に取られていた俺はどんな無茶な要求も断ることが出来ず、ただひたすらに魔王軍と戦った。


 冒険の仲間達もほぼ国王が選定した奴らばかり。

 いわば俺の監視役だ。


 そして街道を進み王の前に到着する。



「魔王討伐の任完遂いたしました、国王陛下」


「うむ。よくやってくれた」


「つきましては国王陛下。我が妹を…メリザを返してはいただけないでしょうか」


「ハッハッハッ!!まぁそう焦るでない。まずは魔王討伐の証を見せてはくれまいか?」


 そう笑う国王。俺はしぶしぶ懐に入れてあった魔王の角を国王に差し出す。


「おお!これが…ふふ…フハハハッ!!ついに手に入れたぞ!魔王の角を!レノンよ、これはわしが預からせてもらうぞ」


 そう言って側近に角を渡す。


「さて、レノンよ。次の任なのだが…」


「は!?ちょっと待ってください!魔王は討伐しました!妹をメリザを返してください!」


 国王は俺を見下すように


「…レノンよ、わしは別に魔王を討伐したら妹を返すなんて一言も言ってないではないか。わしは任を終えたら妹を返すと言ったのだぞ?魔王討伐はその任の1つに過ぎんからな!」


 そう言った。

 俺は膝から崩れ落ちた。

 国王が言ったことはあまりにも横暴で、残酷なものだった。

 涙がとめどなく溢れる。

 その姿を見ても民衆も仲間も反応を示さない。


 ただ惨めな目を向けるだけだった。

 それだけこの国はおかしくなっているのだろう。


 ただ1人だけ…俺が魔王討伐の道中で仲間にした魔法使いのフレンだけは俺のもとにきて背中をさすってくれている。


「まぁわしもそこまで残酷なことはせんよ。ほれお前、女を連れてこい。無事なことを確認させてやれ」


 王が使いのものにそういうと使いは隅の方に設置されたテントの中から妹を連れてきた。


 首、手首は鎖で繋がれており、足には逃走出来ないように重りがつけられている。

 目に光が無く、体は痩せ細り、綺麗だったストレートの長い髪はボサボサになっていた。

 以前の…あの可愛かった妹とは思えないほど別人となっていた。

 そして妹は俺の姿を見るなり、


「にい……さん」


 とその細くなってしまった腕を力なく伸ばし、掠れた声で俺を呼んだ。



 その時俺の中で何かが弾け飛んだ。



 俺を騙した国王が許せなかった。

 妹をこんな風にした国が許せなかった。

 こんな状況を見ても何も言わない民衆が許せなかった。

 こんな国王に付き従う仲間が許せなかった。



 俺の中に闇が生まれる。



「じゃあ……滅ぼしちゃいなよ」



 俺の背中をさする手が止まり、耳元でそう囁かれた。



「…………ああ、そうだな」



 俺は闇を受け入れる。

 こいつらをこの国を滅ぼせるなら、妹を救えるなら…俺は………


 すると先ほど国王が側近に渡した魔王の角が急に紫色に光り始めた。


「ひ、ひっい……!」


 側近が驚きその角を手放すと、角は宙に浮き、俺の頭部の右側に刺さった。


『我が力を受け継ぎしものよ…滅びの力を授けよう』


 頭の中でどこかで聞いたことのある声が聞こえたかと思うと、得体の知れないなにかぎ体の中に流れ込んできた。


「ぐ、ぐあぁあああァッ!!!」


 体が焼けるように熱い!!

 頭の中で響く声のせいで頭が割れそうだ!



『これは記憶…我らが人間どもに虐げられ苦しめられた記憶』



 目の前に広がる魔王やその配下が人々に殺されていく映像。

 戦場にいるかのような血と硝煙の香り。



『我らの力を受け継ぎしものよ…魔族に安寧を』



 最後の声とともに今まで感じていた全てがなくなった。

 肉体の変化はないものの、黒髪が色をなくし、真っ白になった。

 そして膨れ上がる人への憎悪をここでぶちまけたい衝動に駆られる。


「上手くいったね!じゃあ景気付けに一発大きいのかましましょう!レノン様!…いえ、!」


「……フレンか?」


 人間だったはずのフレンは、頭から角が生え、お尻に尻尾がある。


「はい!私はあなたなら魔王になれる素質があると信じておりました!」


「ふん、まぁいい。俺はあいつらを殺せればなんでもな」


 俺が国王の方に向く。


「な、ななななんなのだレノン!!貴様!!わしに逆らうというのか!!」


「……逆らう?違うな。だってそうだろう?人間はゴミに従ったりはしないんだからな!」


「ゴミだと!!今貴様わしをゴミと言ったな!?もう良いわ!そいつを殺せ!!」


 王の命令に使いが剣を抜き、妹を殺そうとする。


「バカが!!」


 俺が右手を振るうと使いの首が飛び、一瞬で絶滅する。

 そして俺は妹のところまで瞬時に移動し、繋がれたら全ての鎖を切り、解放する。


「にい…さま……?」


「待たせたな…メリザ。辛かっただろう?こんな兄を許してくれ」


 するとメリザは細い腕を俺の首に伸ばし、力なく抱きついた。

 メリザの温もりを感じる。


「さて、国王陛下……いや、ゴミ王。覚悟は出来てるんだろうな?」


「い、いやだっ!し、死にだくないっ!!あ、謝るがらっ!ゆるじで…!!」


 尻餅をつき、失禁しながら後ずさる愚王。


「……はっ、貴様みたいなゴミなどゴブリンに処理させるので十分だ」


 俺が民衆に向けて右手を振るうと、民衆の一部が紫色の炎に包まれ、叫び声とともに姿をゴブリンへと変える。


 広場には絶望的な光景が広がる。

 逃げ惑う人々。

 ゴブリンに殺された者がゴブリンに姿を変え、増殖するゴブリン。


「さて、俺たちも行くか。フレン」


「はい!魔王様!帰りましょう、我らの魔王城へ!」


 俺はメリザを横抱きで持ち上げ、背中に生えた翼で空へと飛び立った。



 こうして世界に新たな魔王が生まれた。

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