勇者レグザスの3分間

開闢歴かいびゃくれき14997年9月1日夕刻◆

◆ウィッタード王国 王城 大講堂◆

天花寺てんげいじ けい視点◆


あーすべった!しかも噛んですべった。あーおもしれー!

ワクワクドキドキが止まらない異世界召喚で、シリアスに決めようって方が無理がないか?


「あ、あ、あなたさまが…勇者様なのですか…?」

目の前の白いローブの爺さんが言う。


「おお!勇者と来たか。しかし残念ながら違うな。霊能者だ霊能者。」

「レイノ…?」


「霊能者。名を天花寺 慧てんげいじ けいと言います。以後お見知りおきを。」

「ゲェジ・・・?」

「おい爺さん、わざと言ってんのか!ゲェジじゃねえよ!なんでよりによってゲェジなんだよ!失礼だな全く。あーもー、俺のレグザスちゃんががホコリまみれじゃんかよぉ…」

「おお、レグザス様!レグザス様と申されるのですね…!なんたる高貴なお名前…!」

「は?レグザスはこっちの車…」


「おお、おお勇者よ!!勇者、勇者レグザスよ!!」

 おお、さっきチラっと見たがやはり!なんだかテンプレの王様みたいなヒトがこっちに来た。身長は190cmぐらい…髪の毛とヒゲでモップ?チャウチャウ?なんだかボーボーで、真っ赤なローブに王冠でなんだか豪華な杖を持っているぞ!


「ああもう、テンゲイジ・ケイだっての。で、何度も言うけども俺は勇者ではない。」


 王が続ける。

「レグザスよ…ではお主は何だというのだ?女神エルレイア様が遣わせた勇者ではないのか?」


「レグ…!?…まあいいや、エルレイアに言われて来たのは確かだが、勇者ではないな。霊能者だ霊能者!」

「レイノウシャ…?」

 その場に居た王、召喚士長、魔術師、意識のある召喚士達がお互いを見合わせてレイノウシャレイノウシャと呟く。


「あー、この世界には霊能者って概念が無いのか。まあ、ゴーストバスター兼占い師?みたいなもんだ。」

「なるほど…!!」

 白いローブの爺さんが呟く。よし、理解してもらえたな。


「まあいいや。とりあえず、俺は魔王をしばき倒せば良いんだろ?王様…か?魔王の名前は?」

「ああ…魔王の名は…エグゾガルシアだ…!!!」

 王は憎しみを込めながら答える。その背景には壮大なストーリーが隠されて…いるのか?


「エグゾガルシアねえ。ちょっと待ってな」



 俺は召喚前の世界では4つの霊能力を持っていた。


・目で見た事があるか名前を知る、全ての霊体に触れられる能力:森羅触しんらしょく


・目で見た事があるか名前を知る、全ての存在の構造を解析する能力:霊視


・未知の物事を特定の霊的存在に聞く能力:天啓てんけい


・近距離・遠距離の任意の対象を自動的に治癒・除霊・浄化・術などの改変を行う霊能AI:ギコ偽狐ちゃん


 そのうちの『森羅触しんらしょく』を使って、右手でエグゾガルシアの身体を探る。


「エグゾガルシア…エグゾガルシア…は?」

――感触が、有りすぎる。


 元々『森羅触しんらしょく』で触れるのは人間のエネルギー体や幽霊自体だが、その触った感触はぬるま湯に手を突っ込んだものや、風を掴むようなものに等しい。掴めそうで掴めない、といった感じだ。


 その感触から悪霊を握り潰す事や、霊視やギコちゃんを使う時に座標設定をするだけに使用していたのだが…それが、何か布の実物を具体的に触っているような感触がする。


 日本あっちの方では、森羅触しんらしょくで触れられた人間は感触も感じないし、触れられている霊体を握り潰されたとしても何の変化も起きない。

 それが――――


「んんん?おりゃ!」

 俺が振るう右腕に、大広間の全員の注目が集まる。


「お?なんだこの布は?」

「ホゲっ!!?こ、この魔力は…!……!!?あ、闇銀あんぎんの切れ端ですじゃ!」

白いローブの爺さんが言う。アンギン?


闇銀あんぎんとは、伝説に言われる金属ですじゃ!その一切れで、し、城がいくつも建つほどの価値なのじゃ…!わ、わしの鑑定スキルで、しかと出ておる!本物じゃあ!」

 その場に居た全員が、布切れを見上げる。王ですら、目が金貨みたいになってるが…いや、この国の貨幣は知らんが、多分、金貨なんだろうな…!


「おお!いきなり金銭問題解決じゃねえか。やったなあ異世界。なんだよエルレイア、意外にチート無双できそうじゃない…かッ!!!」

 今度は両手での森羅触しんらしょくで、魔王エグゾガルシアの座標にあった闇銀あんぎんを全て持ってくる。

 すると、バサッと勢いよく俺の手元に闇銀あんぎんのローブが現れた。


 その場に居た誰もが仰天する。王が大声を上げる。

「あああああああああ!!?!?!??」


「ほ、ほげええええええええ!?!?そそ、そんなに大量の闇銀あんぎんがああああああああああ!!?!?!?なんでじゃあああ!!」

白いローブの爺さんなんか、口が腹話術人形みたいにカタカタしてらあ。


「あー、こりゃエグゾガルシア?の着ている物だわ。ちょちょっと、追い剥ぎをだな。いやー、便利になったなあ霊能力!」

「「「ええええええええええええ!?」」」


(ふむ。現実への干渉能力が上がったとしか思えんな。他の霊能力もアップデートされているかどうか確かめなければなー。楽しみ楽しみ…!)


ガヤガヤとうるさくなった周囲を手でなだめると、俺は高らかに宣言した。

「という訳で、クライアントの皆さんにはお悩み解決のお時間をプレゼントしてやろう。」

 多分きっと、そういう事なのだろう。

 だから俺が選ばれたんじゃないのか?


 俺は目を閉じ手のひらを前にして集中し、魔王エグゾガルシアに触れながら霊視する。


 瞼の裏にボウッ…と、魔王のシルエットが浮かび上がる。

 んー、身の丈は2…3…いや、6メートル?おっかねえ…巨人じゃねえか…

身体の中の構造はっと…ん?なんか心臓のあたりにでっかい石みたいなもんがあるな。

よーし、これ引っこ抜いちゃえ。


「よっこらしょっと!」

 ズリュン。

 俺の両手に、ラグビーボール大のルビーのようなものが現れる。お、超高そうだな。

「そ、それは…」白い爺さんが今にも死にそうな顔で聞く。


「魔王から出てきたんだけど、なんじゃこりゃ?」

 レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました…

と、頭の中で声が鳴り響く。

 レベルアップ…と、言うことは…?

「sir iam twud masht―― カカッカッカッ…鑑定!」

 爺さんが唱えると、人魂ひとだま霊魂れいこん?に似たものが俺の手元のラグビールビー(今命名)に吸い込まれていく。


 そして爺さんが更にガタガタ震えだす

「コッコココッココココッッココココッココココ・・・・!!」

「コ…コケコッコーか?」いやそんな馬鹿な。


「魔王エグゾガルシアのッ…!コ、コアクリスタルですじゃああああああああああああああ…ぁぁぁ……」

 バタンッ。大の字で白い爺さんは天に…いや召されないで欲しい。大丈夫かな。



「ゆ…ゆ…勇者レグザス、お主…」

 王が口を開く中、他4名程が次々と気絶していく。

「お?」


「え?お主、今、え?魔王を、おぬ、お主、魔王を、魔王を、討ち、う、うち」

王がヨロヨロと歩きながら、顔面蒼白で近付いてくる。すっ飛びそうな意識を抑え込もうとして必死な具合が見て取れる。


そして、ガッと俺の両肩を掴んで言った。

「魔王を…討ち取ったんだ…!!!ありがとう…!!」

「お、おう…」

俺は顔を背けて、赤くなった。だってこの王(おっさん)、よく考えれば声が声優の大●明夫さんそっくりなんだもの…!!

「って、え?もう倒しちゃったの魔王、早くない?」

「ああ…!」

王は涙を流す。



「……!!」

 頭の中に謎の「異世界モノ」タイトルが浮かび上がる。


【平和になった世の中で魔王を倒した恩給と究極金属を売却した使い切れないほどの大金で、贅沢三昧の爵位持ちの主人公は、全部が全部物凄い勢いで好き放題楽しくやらせて頂きますッッ!!!】


 こ、これは…!天国ではないか…!?全ての俺の願いが叶う異世界、アルスガルティア…!

「いよっしゃああああああああああああああああ!!!!!!魔王、討ち取ったどおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 俺は声を上げた。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」」

 それに応えるように白黒のローブの集団や兵士達が、そして王までもが応える。


「皆の者!宴席を設けるぞおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

 王が声を上げる。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」」

 俺を含めたその場の全員が大声を上げる。


 レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。と、まだ頭の中で声が鳴り響く。いやいや色々とうるさいけど、まあ何とかなってよかった。


 異世界、悪くないスタートかもな。


 こうして、霊能者の俺は異世界召喚3分で魔王を討伐してしまいましたとさ。

おしまいおしま…いや、ここは「俺たちの冒険はまだ始まったばかりだぜ!」か。

いやいやでもそれだとまるで最終回に……うーん迷うな…


「異世界召喚から【3分】で魔王を倒した高級車乗りのチート【霊能者】は、『究極』以外を望まないッ!!」あたりでどうか。よし。それでいこう。

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