結婚してからが、ラブコメ。

えぐち

第一部

プロローグ:偽りの誓い

 ——あぁ、神様よ。


 どうか、神前たる場所で、嘘をつく俺をどうかお許しください。


「新郎、文月ふづきみどりは、この女、蒼井あおい瑞希みずきを妻とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者にらず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」


 ここは真っ白で、景色のいい地上40階のスカイウェディング。

 周りには親族や数少ない友人が、俺の返事を聞こうと耳を傾けていた。

 

 これから俺は結婚する。

 今、目の前にいるウエディングドレスに身を包んだ女性と。


 綺麗なのには、間違いはない。これは本音だ。



 嘘は嘘でも、嘘を突き通してしまえば、それは嘘ではなくなる。現実にしてしまえばいいのだ。


 ——大丈夫だ。


 上手くやってきた。

 これからも同じ事をやっていけば良いだけの話だ。


 であれば、何の問題もない。

 じゃあ応えようか。返事は一つだ。


「はい。チカイマス」





 ——あぁ、神様。


 どうか神前たる場所で、嘘をつく私のことをどうかお許しください。


「新婦、蒼井あおい瑞希みずきは、この男、文月ふづきみどりを夫とし、良き時も、悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者にらず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻のもとに、誓いますか?」



 この結婚式場で、このチャペルで挙げれた事には感謝している。

 青空の広がり、街並みを一望できるこの場所。

 文句を言わず、ただ私の希望に添うようにしてくれた。


 ただ、後のことは全部人任せなのは、むかつく。

 そして、堂々とのにもむかつく。カタコトだし。

 こういう時だけいい顔して、本当に腹が立つ。


 愛していなくても、愛せばいいだけ。

 愛せなくても、愛せばいいだけ……あれ、どっちもおかしなこと言ってるな私。


 ——ううん。大丈夫。


 上手くやってきた。

 いつも通りに過ごしていけば、何とかなる。


 だから大丈夫。

 答えは一つしかない。もうここまで来たら引き返せない。お母さんに心配を掛けたくない。


「はい。チカイマス」







「それでは指輪の交換を」


 牧師が指輪の入っているリングピローを差し出して、俺はそこから彼女の指輪を取る。

 そして、緊張で震える手で、彼女の左薬指に指輪を通した。


 次は彼女が指輪を取り、俺の左薬指に通していく。


「では、皆様に指輪をご披露して下さい」


 牧師の言葉に従い、向き合った身体をバージンロードに向け、左手の甲を披露する。

 パチパチと皆が祝福の拍手を送ってくれた。


「向き直してください」


 再び向かい合いあった。


「ベールを上げてください」


 彼女のベールを上げ、両肩に手を置く。


「それでは誓いのキスです」


 あぁ、緊張する。

 これは儀式だ。演技していると思えばいい。そう、今は結婚式の撮影をしていると思えばいい。


 ……大丈夫。


 目を合わせると、彼女はこくりと頷いた。



『『練習はした』』



 顔を傾け、ゆっくりと唇を近づけて、誓いのキスを——


 ——カツッ


「「痛っ!」」



 こうして最悪の挙式は幕を閉じ、俺達の結婚生活は幕を開けた。

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