第5話(1/6)

「さてさて、今日は何するんですかセンパイ」


 すっかり後輩部での生活に慣れてきた姫宮が、持参したスナック菓子を摘みながらそう言った。あ、藤和さんもどうぞー、って袋を差し出し、藤和も遠慮がちにそれを貰っているという、緩い雰囲気が漂っていた。


「今日は目標に向かって具体的に動こうと思う」

「目標?」

「あぁ、藤和は知らなかったんだっけ。理想の後輩って言っても漠然としてるからな。具体的な目標を立てたんだよ」

「なるほど……」


「藤和はなんかあるか?」

「そうですね……。やっぱり部活の先輩と仲良くなることで……具体的な……」

 藤和は眉間に指を当てて悩んでいた。確かに姫宮の場合は異性の先輩に対してなので、“付き合う”という明白な基準があるが、同性の場合親密度の指標は難しい。


「あ、そうだ。あれです」

「どれ?」

「ハグし合いたいです」

「ハグ?」

「はい。なんというか、部活動ですごく輝いてる瞬間だと思うんです。コンクールの後とかにハグして喜びや悲しみを分かち合うのって」

「あー、それは分かるな」


「なので“ハグし合う”というのが私の目標です」

「オッケー」

 ということでホワイトボードに藤和の目標を書き記す。そこで藤和が気付いて声を上げた。


「あ。もしかしてそれが姫宮さんの目標ですか?」

 そこには『ありす先輩が生徒会メンバーに選ぶような人になる』と『カッコイイ先輩と付き合う』と書かれていた。さすがに三行にもなるとスペースを圧迫するから、書き直す必要がありそうだ。


「そうだ。で、今日はその『カッコイイ先輩と付き合う』に関することだ」

「ほぇ?」

 話の中心が自分だったと知って、姫宮は間の抜けた声を上げる。


「センパイ、目標に向かって具体的に動くってことは……」

「おう。まず手始めに、カッコイイ先輩と知り合う方法を考えていこうと思う」

「でもでも、まだ後輩部始めて間もないですし、ヒナそこまでの自信はないというか……」

 普段俺に対してはあれだけ可愛い子ぶっておいて、何を言ってるんだろうか。やたら練習には強いタイプか。


「姫宮が魅力的な人間になったとしても、出会ってすぐ付き合うことはまずないからな。そろそろ知り合い程度にはなっておかないと、目的達成の前に卒業式だ」

「なるほど」

 と、姫宮ではなく藤和が言った。


「それに、イケメンな先輩でも、さすがに誰でもいいってわけじゃないだろ? 知り合って人となりを知る期間は必要だ。理想的な後輩女子になっていくのは、それと並行してでいいだろう」

「まぁそれもそうですね」

 そこでようやく姫宮もお菓子を食べる手を止めて、きちんとこちらに座り直す。


「まずはターゲットを決めよう」

 俺はホワイトボードに大きく“ターゲット”と書いた。

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