第1話(3/3)

「はい、どうぞ」

 渡されたのはこの学校の非公式広報誌だった。


「えーっと何々……『史上最高の生徒会長・神楽坂志保。その伝説を語るうえで欠かせないのが、庶務の一年生(現二年生)・有栖優也ありすゆうやの存在である。

 彼は神楽坂志保のもと、ありとあらゆるノウハウを学び、その右腕として彼女の活躍に貢献した。

 それでいて彼女が卒業の際、思い出の地・生徒会室で告白するも見事玉砕。まさに究極の後輩ポジションと言えるだろう。(以下略)』」


「なるほど、だから姫宮は俺の名前を知ってたってことか…………って、なんじゃこりゃぁぁっぁあああああ!!!!」

 俺は広報誌を思い切り地面に叩きつける。


 なんで!? なんでこんなのあるの!? いやもう突っ込みと憤りが追いつかない。なんで俺がフラれたことが広報誌にまで載ってんの!? ってかなんで場所まで知られてんの!?


「と、いうわけです。究極の後輩であるセンパイなら、きっとヒナを理想の後輩にしてくれると思ったので」

「断る」

「なんでですか!」

「当たり前だ! こんな不名誉な扱われ方して、誰がそんな誘いに乗るってんだ!」

「いいじゃないですか~。基本褒められてるわけですし」

「応用のとこが酷過ぎるんだよ!」

 忘れ去りたい過去を紙媒体に残されて、それどころかそれを新入生にまで配られるなんて、ちょっと頑張れば慰謝料貰えるぞ……。


「むぅ……。でも、センパイには来てもらわないと困るんですよ」

 姫宮は上目遣いでそう言った。


「なんでさ」

「だって、センパイもう部員ですもん」


「………………は?」


 今なんて?


「本当はちゃんと部活作ってからお誘いしようと思ったんですけど、部活って作るのに最低三人の部員がいるんですよ。一人はクラスで寝てたヤンキーさんに頼んで名前だけ貸してもらったんですけど、もう一人が見つからなくて。で、まぁどうせ後で入るんだしーって思って、先にセンパイにも入部してもらったんです」

「入部してもらったんです、って俺にそんな記憶はないんだけど」

「妹さんに事情話したら、面白そうだからうちの判子押しといてあげるーって」

「由優ぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 俺は急いでスマホを取り出し、由優に電話を掛ける。放課後のスマホの使用は許可されていた。電話はワンコールで繋がる。


『ん? どうしたのお兄ちゃん?』

「どうしたのじゃねーよ! 何勝手に後輩部なんてわけわかんないのに入部させてんだよ!!」

『あー、それねー。なんか面白そうだったからさー』

 スピーカーの向こうから軽快な笑い声が聞こえる。


「いやお前なぁ……」

『まぁ私も勝手だったとは思うよ」

「だったらなんで――」

『――お兄ちゃん、神楽坂先輩の件があってからすごい塞ぎ込んでるじゃん? だから強引にでもなんかしたがいいんじゃないかってさ』

「…………」

『どうせお兄ちゃん暇でしょ? 暇潰しと思ってやってみて、それでも嫌なら私の方からも姫宮さんに話すしさ。……どう?』

 スピーカー越しに聞こえた由優の声は、珍しく真面目なトーンだった。


「…………お前なんかズルい」

『うぇっへっへ』


 確かに由優の言う通り、気分転換の暇潰しにはなるかもしれない。

 それに、誰かの先輩になれば、あの時の神楽坂先輩の気持ちを知るヒントになるのかもしれないと思えた。


「……分かったよ。さっきの言葉、忘れんなよ」

『はーい♪』


 電話を切って、姫宮の方を見る。話は聞こえてたのだろう、楽しそうな笑みを浮かべて言った。


「というわけで、よろしくお願いしますね。セーンパイ♪」



 こうして俺に、後輩が出来た。

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