魔物育成キット! 〜底辺魔族の少年は魔物を育てて最強の大魔王に成り上がるようです〜

武介

底辺魔族が魔王になるまで

第1話 運命の出会い

 "落ちこぼれ"のディロ、それが俺の呼び名である。


 この世界では俺達のような魔族と、人族やエルフ、ドワーフといった人間種族が存在する。


 俺達魔族は遠い昔から人間種族とは敵対関係にある。


 俺達のような魔族と人間種族の外見上の違いなんて、肌の色が褐色に近い濃い色であることくらいなもんだ。

 なのに、どうして互いにそれほど嫌い合うのかと、俺はいつも不思議に思う。


 そんなことを皆の前で言ったら怒られるのだが。



 魔族は種族を通して魔法が得意だ。


 でも俺は魔法がほとんど使えない。


 二年前に成人を迎えて今年でもう十七歳。さらにあと半年もすれば十八になる。でも魔法の方はからきしだ。周りの大人には、三歳児だってもう少しマシな魔法が使えるぞと馬鹿にされる。


 だから、"落ちこぼれ"と呼ばれるのだ。


 両親には、成人と同時に厄介払いするように家を追い出された。


 まあ元々、三つ上の兄と二つ下の弟に構ってばかりの両親には、同じ家に住んでいる他人という印象しか抱けていなかったのだけれど。


 という訳で、俺には友達もいない。恋人も当然同様だ。これに関しては正直かなり辛い。友達や彼女と談笑しながらご飯を食べてる兄弟達の姿は、素直に羨ましいなと思う。


 そんな俺の細やかな楽しみは読書だ。俺が住んでいる集落の本は粗方読みつくし、少し前からは人間種族が捨てたと思われる本を拾ってきて読んでいる。


 本は良い。人のことを蔑まないし、見捨てない。


 人間種族の文字を独学で読めるようになるのは凄い大変だったけど、俺は読めるようになって良かったと思っている。


 なぜなら、面白いからだ。人間種族の文字は魔族の文字に比べてとても複雑だけど、その分内容に具体性があって理解しやすい。


 集落で唯一人間種族の文字が読めるという事は、密かな俺の自慢だ。自慢する相手はいないけど。



 こんな俺にだって夢がある。それは『大魔王』になる事だ。


 魔族は『ダンジョン』という生命体と共生している。


 魔族はダンジョンが存在するために必要なエネルギーを提供し、ダンジョンは魔族が安心して暮らせる住処となる場所を提供する。

 ちなみに、エネルギーの提供といっても俺達魔族は普通に暮らし、ダンジョン内で出た廃棄物等を献上するだけでいい。


 こういう状況を相利共生と言うんだって本に書いてあった。うちの魔王様も、お互いに利益を得られる関係なんだと言っていた。


 俺達魔族の集落はダンジョンの最下層にある。洞窟の中に入っている筈なのに、陽の光が刺し、草木が生え、水が湧く。そんな不思議な場所だ。


 そこで暮らす魔族の代表は、ダンジョンと契約をして『ダンジョンマスター』になる。このダンジョンマスターを、世間では『魔王』と呼ぶ。


 全く関係ないが、うちのダンジョンの魔王様の事を村長と呼ぶとめちゃめちゃ怒る。


 さて、話を戻そう。


 ダンジョンは世界中に幾つもある。


 俺達の暮らすダンジョンは、単純な洞窟や少し広めの部屋が最下層を除いてたった五階層しかないが、中には何十何百も色々な地形の階層があり、最下層には巨大な街が広がっている場所もあるらしい。


 そんな巨大なダンジョンを統べる魔王の頂点達は、人間種族からは畏怖を、魔族からは敬意を込めて『大魔王』と呼ばれる。


 控えめに言ってめちゃめちゃカッコイイ。


 憧れるなと言う方が無理な話だと思うんだよ。


 まあ魔法すらまともに使えず、万年ダンジョンの掃除をやらされてる俺みたいな奴がそうなるなんて不可能なことなんだけどさ。



 ◆◇◆◇◆



「おい、落ちこぼれ。そのゴミ落とすんじゃねーぞ」

「はい、分かっています」


 魔王様に注意されてしまった。でもこの廃棄物結構重いし臭いんだから、俺の事も少しは気遣って欲しい。


 そして、これから共生しているダンジョンに献上する物を堂々とゴミと言ってしまっていいのだろうか。


「落とすなよー、落ちこぼれ。いくら自分が落ちこぼれだからって、落としたり、零したりしちゃだめだぞー?」

「ぷぷっ、何それ兄さん!めちゃめちゃ面白いんだけど!」


 全然面白くねーよ。まあ口に出しては言えないんだけど。殴られるし。


 このうるさい二人組は兄のディオと弟のディンだ。非常にやかましい。



 俺、魔王様、兄弟二人の計四人は今、ダンジョン最下層の、最奥、最深部へと向かっている。



「おし、着いたぞ。んじゃ、始めるか。」


 ダンジョンマスターは主にこの最深部でダンジョンとやり取りをする。


 ダンジョンはこの場所で廃棄物や排泄物をエネルギーとして取り込むことができる。


 だから、俺たち魔族は生活の中で出た廃棄物をこの場所まで持ってくる必要があるのだ。


 ダンジョンはこのエネルギーの一部を変換して、人間種族が最下層に侵入しようとするのを拒むための魔物を創造したり、布や資材、家畜等の生活必需品や武器、防具を提供したりする。


 魔族にとって、ダンジョンから恵まれる物は生きるための生命線。だからこそ、ダンジョンとのここでのやり取りはとても大切なものなのである。


「エネルギーの糧になる物を持ってきたぞ。こちらとしてはダンジョンを守護する新たな魔物が欲しい」

『確認シマシタ。了承シマス。ドノヨウナ魔物ヲ希望シマスカ?』


 後者の機械じみた声の主がダンジョンだ。


 ダンジョン側がダンジョンマスターへ話しかける事はほとんど無いらしいが、ダンジョンマスターがダンジョンに声をかけると必要に応じて返答してくれるらしい。


「そうだな、ゴブリンとかクラウドウルフはもうかなり数がいるから、なるべく個として強いやつがいいな」

『把握シマシタ。核トナル素材ヲ置イテクダサイ』



 ちなみに、魔物というのはダンジョンが創造するダンジョンを守る役割を担う生命体のことだ。

 侵入者には容赦なく襲いかかるが、魔族に対してはダンジョンマスターの指示がある場合を除いて攻撃しない。


 また、魔物も食事や排泄をするが、俺達ほど頻繁にする必要はない。

 ダンジョン内では強い魔物が弱い魔物を喰らっていたり、同族同士で殺しあったりしている場面を見かけることがある。

 俺もゴブリンの同族喰いの場面に偶然遭遇してしまった時は吐き気を催した。


 そして生殖行為も行うため、繁殖能力の強い魔物はある程度の数がいると勝手に増える。

 最も、魔族側からすると無給金のボディガードが増えるだけなので何も問題はない。


 つまるところ、普通の生き物と大した違いは無い。



 この魔物を創造するためには、核となる素材が必要だ。


 ここでいう素材とは、生きた人間種族か魔族の身体の一部である。

 身体の一部といっても手や足を切り落とす訳ではなく、毛髪や切った爪の先などで充分だ。


 この素材提供は基本的にダンジョンマスターが行う。


 今回は髪の毛にしたようだ。


「んじゃ、いっちょ強力なの頼むわ」


 ダンジョン最深部が一瞬にして眩い光に包まれる。



 ――ゴトッ



 何やら硬いものが落ちたような音と共に、強い光が自己主張を落ち着けた時、そこにいたのは二足歩行の牛型の魔物だった。


「貴方ガ我ガ主デスカ。私ハミノタウロスデゴザイマス。以後オ見知リオキヲ」

「おい!お前喋れるのか!?」


 驚きの声をあげる魔王様。


 それもそのはず。強力な魔物は高い知能を有すると言われているが、そんな魔物、ましてや人語を喋る魔物なんてこのダンジョンには存在しない。


 これは相当に強力な魔物が創造されたと期待できるのではないだろうか。


「どれどれ……なにっ!Bランクだと!?こいつはすげぇ!!」

「すごいですね!村長!」

「やりましたね!村長!」

「誰が村長だゴラ!魔王様と呼ばんかい!」


 皆驚きすぎて変なテンションになっている。


 でも、それもしょうがないと思う。


 ダンジョンマスターは、自分のダンジョンの魔物の能力を見ることができるという。


 魔物のランクは基本的に最低がE、最高がAと表されるとされている。

 噂ではAを超えるランクもあるらしいのだが、そんな魔物が本当に存在するのかは分からない。


 ちなみに、このランクの存在は人間種族の間でも知られていて、ほとんどの魔物のランクは人間種族側も把握しているらしい。そして、その情報は戦況判断に利用しているようだ。


 今回創造されたミノタウロスのランクBだが、これは非常に強力な部類に入る。


 参考までに、今までのうちのダンジョンの魔物の最高ランクはDだ。


 Cランクを飛ばして一気にBランクの魔物の登場という訳である。

 それはもう皆変なテンションになるのも当然だ。


「ん……?」


 俺はミノタウロスの後ろに四角い箱の様なものを見つけた。

 先程の何かが落ちたような音の正体はこれだろうか。


「あのー、これ、落ちてました」

「ん?なんだよこれ、人間共の文字じゃねーか。なんでこんなもんダンジョンの最深部に落ちてんだよ。そんなもん捨てておけ」

「えっと……捨ててしまうんですか?なら、貰っても構いませんか?」

「兄さん、アイツ人間共の物なんかが欲しいって言ってるよ?」

「放っておけ。友達もおらず、一人で人間共の本なんか拾ってきて読んでいる奇特な奴にはお似合いだろう」

「それもそうだね!むしろこれ以上無いくらいに持ち主に相応しいかもね!」

「ふっ、あまり言ってやるなよ」


 我が兄弟ながら激しくムカつく野郎どもだ。だが、ここは耐える。


「あー、いいぞいいぞ。そんなもんくれてやる。持ってけ持ってけ」


 早くミノタウロスの力を見たいのか投げやりな態度でそう言い残して魔王様は去っていった。そしてそれを追うように兄弟達もだ。


 さて、なんで俺はこの箱に興味を示したのか。


 それはこの箱の表面に、この集落で俺しか読めない人間種族の文字でこう書いてあったからだ。




『魔物育成キット』




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連載始めました!武介と申します。


拙い文章であったとは思いますが、読んでくださりありがとうございました。


この作品は午後8時に、第一章終了までは毎日、それ以降は3日に1度、更新していこうと考えています。


一応そこそこ書き溜めはしてあるので、しばらくは問題なく更新できるかと思います。応援よろしくお願いします。


また、この作品は「小説家になろう」様の方で先行して公開させていただいております。そちらの方でも応援いただけると嬉しいです。


ではでは!

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