25.転性聖女の農地改良

「えーと、本題に戻りましょう。

 ロロ、野菜を作る準備は、どれ位進んでいたんですか?」


 先程は話が脱線した所為で微妙な空気になってしまったが、もともと野菜作りのための現状確認をしたくてロロには残ってもらっていたのだ。

 折角の農地を無駄にする理由はありませんからね。


「前にハルママに耕してもらうまでは、何も出来てませんでした・・・・・・

 地面が硬くて、私達じゃどうにも。

 あ、でもでも!ちゃんと野菜の種は買ってありますよ!」


 流石に荒れた畑を耕すのは子供には難しいか。

 でも、種が用意されているのは僥倖だ。

 ロロ達でも野菜の世話が出来る環境を整えれば農業をはじめる事が出来るな。


「後で野菜の種を取りに行きましょうか。

 でも、先ずは一緒に畑の整備をしましょう」

「はい!」


 元々私の土地だった領域の畑は、先日、アキに地均しされてしまっているので、今回はロロ達に貰った土地にある畑を整備するとしよう。

 こっちは私が岩を集める際に耕したままになっているし丁度良い。


 そうと決まれば、先ずは畑の区画整理と川からの用水路の作成をしたい所だが、作るからには綺麗な直線を引いて作りたい。

 生前からの性分なのだが、ビシッと区画が分けられているのが好きで、四角く空間を使うことを美しいと感じてしまう。

 箱庭ゲームなどをする際は、何でもかんでも直線的に並べてしまうタイプだ。

 変な形にスペースが余っているのを見るとどうもモヤモヤしてしまうのだ。

 そんな性分の所為で先日造った家はセンスの欠片もない真四角な形になってしまっているので良し悪しはあるのだが。


 そういった訳で、兎に角、地面に直線を引きたい。

 ロロと二人で紐を張って直線を出しても良いけれど、紐に沿って地面に印を付けるのも面倒くさい。

 魔法を使って一気に地面に切り込みを入れたほうが楽かな。

 前にアキから貰った宝石の中に溜め込んであったマナを使って、水晶ナイフを生成する。

 そして水晶ナイフを構成する酸化ケイ素のマナに風のマナを練り込んで馴染ませれば、アイテムスキルの付与されたナイフの完成だ。

 何度も繰り返した作業なだけあって私も慣れたもので、初歩的な魔法であれば狙って付与する事が出来る。


「わー、ハルママ、凄いですね!

 魔剣とか魔道具も簡単に作れるんですね!」


 私がナイフを生成する姿を眺めていたロロが感嘆の声をあげる。

 魔剣か。そんなに大層な呼び方をする様なものは作った事は無いけれど、子供から見たらスキルが付いた道具というだけで凄いのだろう。

 魔剣や魔道具と言う呼び方は良いな、男の子のハートをくすぐる響きだ。

 今後使わせてもらおう。


「そんなに凄いものは作れませんけどね。

 あと、この事は秘密でお願いします」


 作れるとなると、要らぬ輩を呼び寄せる事に繋がりかねないので秘密にしておきたい。

 なので冒険者ギルドの面々にも、昔手に入れた品だという話にしている。


「さてさて、畑はここら辺に作りましょうかね」


 風のマナを込めたナイフ、エアナイフと名付けるそれにマナを流すと、剣先で風のマナに変換され風の刃を生み出し、風切り音と共に一直線に飛んでいく。

 風の刃が通った後には、地面に綺麗な一本の切れ込みが走っている。成功だ。


「わ、凄い凄い!

 ナイフの先端がキラキラ光ったと思ったら、風がピュ―ッって。

 魔法って凄いですね!」


 あまり魔法を見る機会が無いのか、ロロが興奮気味に此方を見てくる。

 ナイフの先端がキラキラ光ったって言ってるけど、もしかしたら風のマナが見えている?

 ロロは風のマナを扱うタレントを持っているのかも。

 それならば、エアナイフとも相性が良いだろうし、線引き作業はロロに任せようか。

 私はナイフのホルダーを生成し、ナイフとセットにしてロロに渡す。


「このナイフはロロにプレゼントするので、地面に線を引く作業はお任せしますね。

 使い方は、お風呂にお湯を入れるときと同じ感じでマナを込めてください」

「え!?良いんですか!?

 ハルママ、ありがとう!」

「いえいえ、お気になさらず。

 指示した方向に風を飛ばしてくださいね」

「はーい」


 ロロは始めは慣れない魔法ナイフの扱いに四苦八苦していたものの、ものの数分で風の刃を飛ばす事が出来るようになった様だ。

 やっぱり適正があるのかな。

 ロロに指示を出しながら、20メートル四方程度の畑予定地をマーキングし、そこから川へと続く直線も引いてもらう。


「まぁ、これくらいの広さで良いですかね」

「まだまだこんなに土地があるのに、これだけにするんですか?」

「先ずはこれ位で様子を見ましょう。

 これをちゃんと育てれそうだったら増やしましょうか」


 これでもテニスコート2面分程度の広さはあるのだが、確かに持っている土地全体の広さからすると狭く感じるかもしれない。

 だが、子供が面倒を見ることが出来る範囲なんてたかが知れている。

 いくら水路を整え、綺麗な畑を整えたとしても、相手は生き物なのだ。

 どうしても日々手を入れてやる必要があり、不必要な芽を摘んだり、肥料の管理や害虫対策など、その手間は馬鹿にならない。

 それに専業農家になるつもりも無いので尚更だ。

 設備さえ整えば楽勝だなんて思うのは、やった事が無い人間だけで、生前は貧乏農家出身の私は痛いほど理解している・・・・・・つもりだ。


「あとは私が整えますので、ロロは草でも刈っていてください」

「分かりました!」


 私は地面に引いた線に沿って、以前と同様に魔法で土を操って畑を耕していく。

 少し形を整えて畝でも作れば、畑としての体裁は保てるだろう。

 後は川までの線に沿って土を掘り起こし、家を建てる時に余ったマナでコンクリートのU字側溝を生成して繋げて行けば、用水路も一旦完成だ。

 流れなどの作りこみは後日頑張ろう。

 最後に、マナから生成しておいたゴムホースとセラミック製のスプリンクラー、そしてマナで駆動する簡易ポンプを繋げて、用水路から畑用地まで這わせれば、今日の作業は終了だ。

 水遣りの手間が、桶で汲んで撒くのに比べて大幅に削減できるだろう。

 ここまでやれば、子供でも野菜の面倒を見ることが出来るかな?


ヒュン!

「んひっ!?」


 作業を終えて一息ついた私の耳元を、甲高い風切音が一瞬で通り過ぎる。

 何か変な声が出てしまった。

 良く見ると目の前で細い糸の様なものが何本も宙を舞っている・・・・・・私の髪の毛!?

 慌てて自分の頭をワチャワチャと触ってみると、スパッと綺麗に髪の毛が切れている部分があるではないか。


 慌てて周囲の様子を見渡してみると、ロロが楽しそうに風の刃で辺りの草刈をしている。

 あの様子だと、地面に線を引いたり、草を刈る程度の魔法だと思ってそうだけれど、その風の刃、細い木くらいなら簡単に切り倒せるものですからね。

 もちろん、私の髪の毛も!!

 後でしっかりと安全教育をしないと。

 慌てて駆け寄っている内に、疲れたのだろうか、ロロはへたり込んでしまった。


「ハルママ、頭がグラグラします・・・・・・」

「あわわ、もうエアナイフを使っちゃ駄目ですよ!」


 そういえば、マナの取り扱い、特にマナの生成には多大な精神力が必要だった。

 最近、自分が昏倒することが無かったので、その感覚を忘れてしまっていたよ。

 ロロには今後訓練でもして慣れてもらうこととして、今日は休憩してもらうとしよう。

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