9.転性聖女と冒険者ギルド

 大きな入り口をくぐり冒険者ギルドの建物に入ると、

そこには想像以上に広い空間が広がっていた。

 建物内は複数のエリアに分かれている様で、

各所で依頼の受注や物品の購買、買取など様々なことが出来るらしい。

 アルフが言うには、それらの施設も買取と同様に冒険者ギルドに

登録された者のみが利用できるらしいので、

まずは、アルフのクランメンバーに登録するために総合受付に向かう。


「あら、アルフくん、ベルちゃん、こんにちは」

「ルシルさん、こんにちは」


 総合受付に向かうと金髪が素敵な受付嬢に声を掛けられ、

ベルが元気良く返事を返す。

 ザ・受付嬢といった感じのスカートが可愛い制服を

身に着けた女性はルシルさんと言うらしい。

 彼女は私とアキが二人の連れであることを察したのか、

此方をチラチラと見て気にしている事が伺える。


「こいつ等もギルドに買取をお願いしたいらしくて」

「あら、この子達は新しい孤児の子?

 この子達もアルフくんのクランメンバーに登録ってことでいいかな?」


 アルフがエイスの町に残った孤児をまとめている事は周知の事実であり、

他の子たちもクランメンバーに登録されているようだ。


「じゃあ、二人にまずは冒険者ギルドについて説明するね」

「お願いします」


 ルシルさんの説明によると、冒険者ギルドは端的に言うと便利屋の集まりらしい。

 依頼の内容は迷子の子猫探しから、魔物の討伐やダンジョン探索など

大小様々で多岐に渡る。

 冒険者ギルドの名は、昔は討伐や探索などの正に冒険といった

依頼ばかりだった頃の名残だそうだ。


 冒険者は上から順にS,A,B,C,D,Eの6つのランクに分けられており、

受領が可能な依頼やギルドのサービスに差がある様だ。

 実力の無い人間が高難度の依頼を失敗してギルドの信用を落としたり、

貴重なリソースを浪費しない様にということだろう。

 依頼達成などの実績によってランクが上がるから

冒険者になったら頑張ってねとのことだ。


 施設やサービスについては、冒険者資格は全ての支部で共通なので、

何処の支部でも利用可能とのことだ。

 この支部で行っているサービスに関しては実際に利用した方が

早いとのことなので、クランの先輩であるベルにお願いするとしよう。

 よろしくね、ベル。


「はい、簡単になりますが説明は以上です。ご清聴有難う御座いました。

 じゃあ、二人ともクランメンバーに登録するね」


 説明を聞いて思うのだが、アルフのクランメンバーになるのも良いが、

この町にずっと留まるかも分からないし、可能ならば冒険者の資格が欲しい所だ。

 採取品の買取価格は分からないが、お金を稼ぐ手段が採取だけでは心もとない。

 生計を立てる選択肢は多いほうが良いだろう。


「あの、もし冒険者登録したい場合は、どんな試験を受けるんですか?」

「最低限は身を守れるか見るために、Dランク冒険者と試合をして貰うことになるよ」


 ルシルさんは危ないよと少し強めに念を押す。

 登録試験は現役冒険者との試合形式か……確かに怖いなぁ。

 私はナイフを投げたら後は殴られるだけになってしまいそうだ。

 どうすべきか逡巡していると、何かを察したのか、アキが口を開く。


「私たちは試験うける」

「え、あなた達、登録試験を受けるの?

 アルフくんのクランでも冒険者資格を持っているの、男の子数人だけだよ?

 貴方たちみたいな可愛い子には難しいかなぁ」


 ルシルさんが困った顔で此方を見ている。

 まぁ、ベルよりも華奢な二人が登録試験を受けたいと言ったら心配になるか。

 普通に考えたら子供が分不相応な無茶を言っている様に映るに違いない。

 でも、私は駄目でもアキなら試験突破も可能かも知れないし、

アキだけ受けさせて貰っても良いかも知れない。


「甘く見ない方が良い」

「二人はナイフを遠くまで投げれるんだよ!」

「うーん」


 アキが息巻いており、ベルもそれをフォローする構図となっている。

 やる気に満ち溢れた子供を説得するのは非常に大変だ。

 ルシルさんの額には皺が刻まれ、

どうしたものかと頭を悩ませているのが伺える。

 そんな中、ルシルさんが困っている事に気が付いたのか、

奥から一人の大男が現れた。


「どうしたんだ」

「あ、支部長。実は……」


 支部長と呼ばれる顔に大きな傷を持つ大男は、

見るからに威圧感のある筋骨隆々な初老のおじ様だ。

 ルシルさんから事情を聞くと、私たち二人に向き直る。


「お嬢ちゃんたち、登録試験を受けたいのか?」

「そう」


 アキが応えると、支部長は目を細めて私たちを凝視してくる。

 その瞬間、周囲のザワメキと共に空気が変わった感じがする。

 この視線が肌に突き刺さり、ひりつく感覚、過去にも感じた覚えが……

 そうだ、詳細は覚えていないが、あの戦場に居た頃に頻繁に感じた覚えがある。


 多分これは……エッチな視線だ!

 戦場で私が凝視される理由なんて、圧倒的に男性が多くむさ苦しい中、

貴重な女性としてジロジロ見られる位しか思いつかないし、間違いない。

 そんな視線を向けられ、アキは珍しく表情を歪めて睨み返しているし、

ベルは恐怖のあまり声も出せずに泣いてしまっている。可愛そうに。


 しかし、ルシルさんという美人を見慣れているのに、

私の様な少女をジロジロ見るとは、とんだ助平親父である。

 もしかしたら、私みたいにプラチナブロンドの女の子が好きなのかも知れない。

 そう思うと、同好の志として少し優しくしても良いかなと思えてくる。

 育ち盛りの胸を張って、微笑み返してあげよう。

 同好の志として今日だけはジロジロ見ても良いですよ?


「ほぅ……良いじゃねぇか」


 私が微笑み返すと支部長がニカッっと笑みを浮かべ賞賛する。

 どうやら満足したようだ。


「へぇ、ダグラスさんのアレを受けて、微笑み返すとはね。

 男でも泣き出す子も多いんだがな……」


 何処から湧いてきたのか、飄々とした優男が口を挟んできた。

 男でも泣き出す子が居ると言うが、おっさんからエッチな視線を

向けられることを考えると、男の子の方が恐怖を感じて泣くのでは無いだろうか。

 と言うか、支部長はバイセクシャルなのか。違う世界の住人だ。


「ルシル、この二人に試験を受けさせてやれ。実力は俺が保障する」


 そんな事を考えていると、支部長から登録試験の許可が下りた。

 見た目が好みだからとか、支部長さん、公私混同では無いですか?


「では、誰を対戦相手にしましょうか?」

「ダグラスさんの殺気で泣かず、あの反応ですからね」

「そうだな……」


 良く聞こえないが、ひそひそと優男を含めた3人で会議が始まった様だ。

 試験を受けるのはアキだけでも良かったんだけどな……

 どうか優しい女性が相手でありますように。

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