7:世界征服

「がーはっはっはー!! 動くな! この子がどうなってもいいのかー!!」


夕刻。夕ご飯の買い物で主婦たちで賑わう商店街に、怪しい声が響いた。あらまた何か始まったわ、と主婦たちは買い物の手を止めると、声の方へちらほらと振り返り始める。


黒服にサングラスの怪しい男二人組が、金髪の子供を人質に取る形で、道路の中心で叫んでいる。


「いいかよーく聞くんだ市民のみなさん! 手荒な真似はしない!! この子のこの綺麗な金髪が丸刈りになるところを見たくなければ、今すぐここに超能力者を連れてこーい!!」


子供を捕まえているモブキャラ1が言う。


「そうだー! 連れてこーい!!」


隣で猥褻に手を動かすモーションを続ける、モブキャラ2が続けた。


平日の昼下がりから何をわけのわからないことを言っているのかしら?と主婦たちはざわつき始めた。


「なにかの撮影かしら?」「妄想かもしれないわよー」「超能力だって!かっこいいー!!」


「こらー! そこの変態二人組ー! バカなことしてないでその子を離しなさーい!!」


盛り上がる主婦の壁を何とか乗り越え、交番勤務の警察官はようやく騒ぎの中心部にたどり着いた。


「まったく、なんだってこうこの町は次から次と変態が湧くんだ・・・」


警官はやれやれ、と先日捕まえた変質者の男を思い浮かべながら呟いた。


「ちいっ! もうポリ公がきやがった!」


「大丈夫だモブ1! あいつらが来るよりはましだぜ・・・。そーれっ!」


モブキャラ2が猥褻に動かしていた手を八百屋の店先に向けると、一つ、また一つと野菜たちが浮かびだした。ポルターガイスト、一般的な超能力だ。


モブキャラ2がそのまま手を警察官の方に向けると、野菜たちは宙を舞い、警察官に襲い掛かった。リンゴやキュウリはまだしも、カボチャや大根は非常に痛い。


「どわーっ!! なんだなんだ!? いてっ! いでーっ!!」


見る間に、警官は野菜の山に沈んだ。


「はーっはっは! まいったかポリ公めー!!」「ざまーみろ! 早く超能力者を連れてこーい!!」


「おい。いい加減離せよてめーら」


意気揚々と笑うモブコンビに、人質のレイは言った。


「大丈夫だよお嬢ちゃまー? 痛いことはしないからねー?」


警官の無様な状況を笑いながら、モブ1は笑った。わなわなと、腕の中にいるレイが肩を震わせているのに気付かずに。


レイは両の手を握りしめ、力いっぱい叫んだ。


「だ・れ・が、お嬢様だこらー!!!!」


バシャーン!!!!


と、耳をつんざくような稲妻音とともに、レイの体から目に見えるほどの光が飛び出し、あっという間にモブ1は黒こげになった。電気だ。


「・・・」


モブ1は目を点にし、口から3、4つの煙をはくとその場にへなへなと座り込んだ。


モブ2は後ろに一歩後ずさりすると、ファイティングポーズをとりながら叫ぶ。


「どぅわー! きききっ、君が超能力者だったんかーい!!! わ、悪いことは言わない。毎月30万+歩合制の上、家賃手当などの福利厚生も抜群!我らが『ウーロン茶』とともに世界征服を目指そうではないかー!!!」


「ばかやろー! この佐久間レイ様がそんな悪役みたいなまねできるかー!! 正義の味方として、ここで成敗してくれるわー!!」


「どーでもいいけど野菜弁償しろよお前らぶっ殺すぞー!!」


今ここに、世界征服を目論む変態、謎のサイキックチャイルド、怒れる八百屋親父の三つ巴の戦いが始まったり始まらなかったりするのだった・・・!!

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