1章 8話 太陽が撃ち落とされたのを私は見た

 


 9月はじめの朝アンドリューは自室でラジオを聞きながら、バターをたっぷりと塗ったトースターと熱々のブラックコーヒーをすすっていた。

コーヒーの香ばしい香りが鼻をくすぐる。

温かい湯気が心地よい。

トースターのバターの塩気とコクは、永遠に味わっていたいほど素晴らしく。


こんな時に生を感じる。

クソッタレな人生だが、生きていて良かったと思ってしまう。


「ゴミ箱のご飯は冷たいからァ……」


湯気が出てる料理を見ながらアンドリューは、そう呟いた。



『……マギ王国では新型の寒冒かんぼうが流行しており、現在死者数200人を超えており……』


 ラジオで最近のニュースが流れる。

隣国のマギ王国では、新型の風邪が流行っているようだ。

アンドリューはここ最近寒くなっているから気をつけなきゃなと思いながら、くしゃみを一つした。


「アンサンくシゃみしたネ!気をつけてネ!」


「ああ、気をつけなきゃな。ネロも温かい格好して寝るんだぞ」


 アンドリューは傍でご飯を食べていたネロを優しく見つめながら、食べ終わった食器を片付けると、分厚い本を革カバンに入れた。


「ネロ!じゃあ行ってくるからいい子でお留守番していろよ!」


「あいあいサー!!いってらっちやい」


 アンドリューは一瞬、振り返り頬を緩めると、部屋のドアを閉めた。


 アンドリュー達がいるレヴァン帝国軍ロスト基地には、寄宿舎や病院、食堂、体育館などまるで一つの街のように様々な施設がある。士官学校もそのうちの1つだ。

 士官学校は軍に入隊出来る14歳以上の全てのが入る軍の学校で、約6ヶ月から2年程勉強をする。

その名の通り軍事に関することが主だが、16歳以下または中学卒業程度学力の者達は一般常識、歴史、数学、法律なども習う。


そして少佐以上の階級の軍人は年に数回教官を務めなければいけない。


「起立!」


 教室のドアを空けると、まだあどけなさが残る少年達が直立不動で立っていた。


「礼!」


「着席!」


 アンドリューは一呼吸した。人に教えるのは久しぶりだ。

学がない自分は上手く教えられるだろうか?

そんな思いを胸に抱きながら、それを表情に出さないように務めた。



「本日の授業を務めるアンドリュー=アノニマスだ!ワタシを苗字で呼ぶな!以上!」


「本日の授業は歴史。この戦争が悪化した原因の一つである『血の土曜日』についてだ!かなり重要なので覚えて欲しい!」


 アンドリューはそう言うと黒板に書き始めた。


 血の土曜日はレヴァン南部デンメンク州のゾンネ村という小さな村で起きた事件だ。

 1880年3月16日。住民353人は州知事から「村の中央広場に集合するように」との命令が下された。


住民は村の中央広場に集合させられた後、女性や子供は教会へ、男性は村内の6つの農機具小屋に分けて連れて行かれた。


 農機具小屋では、隠れて待ち構えていたアルキュミア軍によって、逃げられないように足を。その後、首や心臓などの急所を機関銃で狙われその場にいた全員死亡。


 教会でもアルキュミア軍は同じように始めに足をそれから急所へ撃ち、それでも生き残った人を殺す為、教会の扉に鍵を閉めて藁と共に火を放った。


 それから指示に従わずに来なかった者を徹底的探し出し、発見次第同様の方法で殺害すると、井戸の中に遺体を放り投げた。

その後村全体に火を放ち、村は以前の面影がない程徹底的に破壊された。


 死者数350名以上。空襲を除けば一般人が巻き込まれた最も死亡数が出来事になった。


 そして村が焼かれた原因は、ゾンネ村は先々の大戦でアルキュミアの土地になったが、前の大戦でまたレヴァンの土地に戻ったという経歴を持つ土地だ。


その奪い返した土地を徹底的焼くことによって「お前らが天まで届くほどの犠牲を払ってまでやったことは無意味だった」という挑発と東部戦線で負けたので報復を兼ねて焼いたといわれている。


「教官!質問です!」


 真ん中にいた少年が手を直立に挙げた。


「質問を許可する」


「これは教科書を見る限り、アルキュミア軍の仕業とかかていますが、では何故州知事が広場に集合されるように命令をかけているのですか?」


「良い質問だ。後の調査によると実際に州知事が関わっていた訳では無い。州知事にアルキュミア軍がなりすましていたのだ」


 アンドリューは、苦虫を踏み潰した顔で喋る。


そして、あくまでも噂の範囲に過ぎないのだが、なりすましたというのは、その人のすべてをコピーする異能で行われていたらしい。

度々見分けられなかった村民を非難する声が聞こえるが、そうだったとすれば見分けられなくて当然だろう。



「質問です」


 教室の端にいる気弱そうな少年が手を上げる。その手はゆらゆらと揺れている。


「許可する」


「生存者はいるのですか?」


「そこら辺の資料は非公開の為ワタシは知らない」


「もし、居たとしたらどんな見た目だったり名前なの〜?あっもしかしてそういう人ってブサイク?!だったりする?だったらウケるわ」


 1番後ろの席の少年が怠そうにこちらを見ながら叫ぶ。何故か不気味にケタケタと笑った。


「許可ない不用意な発言は控えろ!」


「きょうかん〜!そういったのって知りたくないのですか?俺は面白そうだから知りたい。それに、新聞社とかに売ったら金になるじゃん!」


「そういったのっていいゴシップじゃないですか?知りたいと思うし」


 アンドリューは一瞬、唇を噛んだ。そういった自分勝手な人間がいるから、幸せになろうとしても、幸せになれない人が大勢いるんだ。


「知って何になる?の人生で……生きていく上でなんにも役立ちはしない」


「くだらん理由で、そういった人達探ろうとするな!放っておいてやれ!次にそういったことを言ったら、教室から出ていってもらう!」


 アンドリューは教卓を叩くと、少年を睨みつけた。

少年は怯むわけでもなく、ただニヤニヤと笑っていた。

アンドリューにとってそれは気持ち悪く、それと同時に激しい怒りを感じた。

そして、脳内に例のクソ大佐の顔も通り過ぎって余計腹立たしく感じた。



「では、次もう1つの事件についてだ。これもきちんと聞いて欲しい」


 深呼吸をして気分を切り替えてからアンドリューは教科書を見てから、凛とした声で言う


「アマデウス人の迫害事件。クリスタルアハトについてだ」


「が、その前に改めてこの周辺宗教について話そう」



 レヴァン帝国はコラン教という多神教を信仰している人が9割を締めている。コラン教は様々なものに神や妖精がいるという考え方があり、例をあげるとトイレなどにも神様がいると考えられている。死後は月の世界Paradiesに行くか、残された人の傍で見守っていて、悪人は冥界Hölleへ行くと考えられている。


 アルキュミアはメンセと呼ばれている万物の創造主である神が世界を治めており、全てのものはメンセが作ったと考えられている。つまり、全てはメンセが作ったもので、神とはメンセただ1人だけだ。という考え方の為、レヴァンの宗教とは相性が悪い。


 コラン教には主に2つの派閥がある。

 聖女アラハトー派と真理ダンマン派だ。この2つの派閥も相性が悪い。


 理由は教義の解釈の違いと、信仰している人の人種の違いだ。

 聖女派は伝道師であり、神の言葉を伝えたコランとその功績や力を拝むに対して、真理派はコランが説いた言葉や行動を拝み、実践するのだ。そして、聖女派はどちらかと言うとアマデウス人が多く、真理派はレヴァン人が多い。



「コラン派の最初に神に忠誠を誓う言葉は自ら 聖者 の力を信じ奉ります』に対して真理派は『自ら 真理を信じ 奉ります』なんだ」



「なんか色々と殺伐としていている……」


 1番前にいた少年が小さな声で呟いた。


「まあ、宗教って言うのは人間の欲望だからな……衆生済度とかいいながら、結局自分だけ救われたいなんて……そんな行動しか出来ないなんて、それの象徴じゃないか」


「所詮、神なんか存在するもんか……」


アンドリューは俯きそう呟くと、ため息を吐いた。



「さて、本題のクリスタルアハトについてだ」


気を取り直し、前を向くとアンドリューは説明し始めた。


 クリスタルアハトは1867年(今から19年前)8月8日に全国的に起きた聖女派教会襲撃並びに商店破壊事件だ。


何故この事件が起こった理由は、アマデウスは元々ウェット王国という国をもっていたが、レヴァンが吸収。

そこから差別などの様々な不満が溜まり、1800年8月にアマデウス人青年誤射事件をきっかけに不満が爆発。

魔法を使って、国に大抗議しようとしたが失敗。

そこから『魔女狩り』という名の民族浄化が度々行われ、その中で1番激しかったのが、上記の『クリスタルアハト』だ。


死者数全国で約3000人。破壊された建物は1万を超える。



「おかげでアマデウス人の5分の1がこの虐殺で殺されてる」


「軍でもアマデウス人の数は少なく、少佐以上が1人。大尉が1人。中尉が5人。少尉が10人ほどしか在籍してない」

 

アンドリューは心の中で少ねえなと思いながら、指を軽くテーブルをなぞる。

それと同時にミカエラの顔が思い浮かぶ。


「クリスタルアハトの3年後。国はアマデウス人の差別を禁止を発表したが……長年染み付いたものはとれはしない。それに差別しても特に罰則も無く、国も見て見ぬふりをしている」


アンドリューはずっと前に街中で見かけたミカエラを思い出す。何か個人商店で買おうとしていたが、買い物を拒否されていた。


アマデウス人だから……たったそれだけで。


差別が無くなるのはいつになるのだろうか?


いいや、差別は無くならない。人がいる限り。


差別をされる悲しさを知ったとしても、人間は差別をし続ける。

差別が憎しみとなり、また差別を産む。

人は自分より下の人間が居ないと安心出来ない。

だから私達は自ずと肌の色や知能など、色々な理由をつけて下を決めて安心してる。



ーー嗚呼、どうして私達はこんな娑婆に産まれてきてしまったんだろうか?






「アンさん!アンさん!忘れてませんか?今日哨戒の日ですよ!」


その日の夜。書類整理をしていると、ドアを叩きながらソフィーの話しかけるような声が聴こえた。


「おう!ソフィーそうだったな。忘れてた。今、準備する」


アンドリューは古めの軍外套を羽織り、ランプとサーベル、小さなナイフと無線を持つと、ぬいぐるみで遊んでいるネロの目線と同じくくらいに屈み声をかける。


「ネロ。街へ行ってくる。ここ最近寂しい思いをさせて済まないね。いい子に待っていたらお土産買ってくるからな」


「だいジょうぶ!ネロいい子にまってるね!」


「よし、いい子だ!」


アンドリューはわしゃわしゃと頭を撫でた。ネロはアンドリューの方へ向くと、ニコニコと笑みを浮かべ、「お仕事頑張ってね!」と言った。


急いで寄宿舎前の玄関に行くと、ソフィー、ミカエラが先に待っていた。

松葉杖も持ってないことから、足は治ったようだ。


口には出さないが、良かった……と、心の底から思った。


「待たせたな!すまない……」


「いやー大丈夫ですよ!私もミカエラに言われるまで忘れてました」


水色のフード付きのポンチョを着ているソフィーはいつも通りカラカラと笑う。


ミカエラは頷いたが、茶色フードを被り顔は伺えない。


3人は帝都を哨戒する為に治安が悪い地域である路地裏に来た。

下水道から臭うドブと生ゴミでさえ鼻がもぎ取れそうなほど臭いのに、人の死体の腐乱臭まで香るのだから、もう鼻をもぎ取りたくなる。耳や頭をの周りを大きなハエがぐるぐると飛び回っていて、五月蝿くて鬱陶しい。


「うぇ……臭い〜!うんこと下水と土の匂い〜酷い〜!」


歩く度に泥がズボンにかかり、頭上に虫が飛び回る。

道端に倒れている遺体の髪からはピョンピョンと虱や蛆、ハエが飛び回り死体を食い尽くしている。


「あっ!」


後ろでソフィーの息が止まったような声が聞こえた。


振り返ると倒れた遺体を踏みかけたようだ。


「ここら辺は死体がざらんにある。踏まないように気をつけろよ」


そう言いながらアンドリューが横を向くと、べっとりと媚びり付いた血がある。

下には錆びた弾が数弾落ちている事を考えれば、ここで恐らく銃撃戦が起きたのだろう。


アンドリューにとっては、よくあること過ぎるが、2人には刺激が強かったかもしれない。


しばらく歩いて、大通りに出た。

夜中だからか、お店は大半が閉まり、電気がついている家も少ない。


「ソフィー能力でここら辺一体を視ろ!」


ソフィーは返事の代わりに敬礼をすると詠唱を唱え始めた


Hinter dem 人のLächeln einer Person笑顔の裏には verbirgt 剣がsich ein Schwert.隠されている


しばらく経った頃だろうか?ソフィーが少し声を荒らげた。


「……アンさん!戦車が時速20キロ程のスピードでこっちに来てます!その数1、2……台!」


アンドリューは「はぁ?」という言葉を言いかけたが飲み込んだ。戦車で帝都に来るなんて聞いたことない!しかし、戦闘に関することは決して嘘をつかないソフィーがそう言うならそれは事実だろう。


「了解!私が戦車を人がいないところまでおびき寄せる!」


「お前達は離れてろ!能力を使う!」


アンドリューは純白の手袋を脱くと、使いすぎたスポンジのようにズタボロで茶色く変色した手が現れる。

そしてアンドリューはポッケからナイフを取り出すとそのナイフで自分の手の中心を目掛けて刺した。


血しぶきと共に、鋭い痛みが全身を走る。

それと同時に生ぬるい液体が肌を這う。

何回も刺しているはずなのに、慣れぬ痛みに思わず唇を噛んだ。


そして数秒経った頃にナイフを引き抜くと、ナイフから再び鮮血が飛び散り、夜空に一瞬花を咲かす。


真っ赤に染った手からは爪の先まで血が滴り、タイルを紅く染める。


そしてアンドリューは息をつく暇もなく暗唱を唱える。


Wer mit 怪物と戦う時はUngeheuern kämpft, mag zusehn, 自らも怪物にならないようにdass er 気をつけるべきだろう。nicht dabei zum 深淵を覗く時Ungeheuer wird深淵もまたこちらを覗いている


その瞬間床に滴り落ちていた血がアンドリューの手の方向へ逆再生するように戻り、一瞬で血は銃の形になりアンドリューの手に握られていた。


アンドリューの能力は自分の血を武器にすること。

そしてその血は腐食性で血に触れると、肌のタンパク質を分解して溶かす。


(水酸化ナトリウムを素手で触れた後ヌメヌメするあれ……と言えば簡単で分かりやすいだろうか?)


おかげでよく切る手のひらにもその腐食性が移ったらしく、手袋をしないとまともに過ごせない。


自分の娘の頭でさえ手袋が無ければ撫でられない……害を及ぼしていまう。


そんな厄介な能力だ。


少し走った所で黒く重い音でゆっくりと走る戦車が見えた。

アンドリューは驚く声を飲み込み急いで物陰に隠れると、戦車は気づかなかったのか、そのまま凄い音で走り去っていた。


アンドリューは急いで基地に連絡をすると、これからどうするか考え始めた。


ふと、腰に着けた無線から声が聞こえた。


『こちらsirotume03160!こちらsirotume03160!noraneko05290応答願います!』


相変わらずソフィーのコールサインは分かりやすい。


コールサインとは無線時に敵方に個人の特定を防ぐ為の愛称であり、仲間内では誰が誰に向けて話しているか特定する役割も兼ねている。


自分でつける場合もあるが、大体は上官からつけられる為、その人の特徴や出身などが名前になる。ミカエラだったら、髪の色が黄緑だった為kuroubarクローバー06010というコールサインだ。



「こちらnoraneko05290!アンドリュー応答した!sirotume03160ソフィー要件どうぞ」


『こちらsirotume03160ソフィー。そちらから500メートル離れたところに敵発見!警戒お願いします』


「こちらnoraneko05290アンドリュー。了解!」


アンドリューは銃をギュッと握りしめると、物陰から飛び出した。



隠れながら戦車を追いかけるが、戦車はこちらに気がついたらしく、弾を撃ち込んでくる。

その度に剣の形から大きな盾に変え、弾を防ぐせいで攻撃をする暇がない。

ちくしょう……


sirotsume03160!ソフィー応答せよ!Bitte melden応答せよ!Bitte melden


sirotsume03160ソフィー応答しました!noraneko05290アンドリュー。要件どうぞ!』


sirotsume03160。ソフィーこちらnoraneko05290!アンドリュー

kuroubar06010ミカエラと共に援護お願いする!」


『こちらsirotsume03160ソフィー!了解』


しばらくしてミカエラとソフィーが走って来た。


「急に呼んですまない。攻撃が進まないから……ミカエラお願いしたい……本当にすまない」


アンドリューは盾を展開した状態で話す。


本当ならばミカエラを使いたくない。トラウマの件もあるが、松葉杖を使わなくて良くなったからといって数ヶ月前まではベットの上で寝ていた人をこき使いなくない。


『了解』


そう書いた紙をアンドリューに見せると、ソフィーと顔を見合わせてから、目をつぶった。


「北西200メートル。横角度34度。高さ角度90度に敵あり!」


ソフィーがそう叫ぶとミカエラは片手で大きくネジ巻くような仕草をした瞬間に炎の小さな群れが戦車に向かって戦車に当たった瞬間戦車は爆発した。


「お見事!」


アンドリューは思わず叫ぶと、ソフィーもそれに続けて「っしゃー!!!」と満面の笑みの花を咲かせて、ミカエラとハイタッチした。


「といってもあと一体あるから、気をゆるめるな!」


「了解!ミカエラ!引きづづきやるよ!」


アンドリューも盾から銃へ持ち変えると、戦車に向けて発砲するが、弾はゼリーに指を突っ込んだように中途半端に戦車めり込む。


ミカエラとソフィーも先程と同じような方法でやるが、横に数センチズレた。


「300……350に変更。横角度24度高さ86度!」


大きな炎が地面を這うように戦車を包み込み爆発する!


「ミカ!流石だ!」


ミカエラは頷くと、少し戸惑ったような仕草をしてから目を細めた。



「さて、後処理は後方支援に任せよう。」


真っ赤に燃える戦車を見ながら、アンドリューは手袋をはめた。



「一応、これは攻撃はは止められたのですかね……」


帰り道ソフィーは少し不安そうな目でこちらを見つめた。


「そうと思いたいな」


そう言いながら、アンドリューは静かになったはずの街を見下ろすと、街がの北西部がオレンジ色に包まれていた。ミカエラが震える指で指さす先を見ると、戦闘機からいくつもの焼夷弾がばらまかれていた。


そう。あれは空から攻めることに気づかせない為の囮だったんだ。と瞬時に理解した。


「…………」


「………………」


夜の帝都に空襲のサイレンが響く。

アンドリューの猫のような瞳には、赤い焔が煌々と街を燃やしているのが映し出されていた。


そしてアンドリューは「また、救えなかった……」と言うと悔しそうに唇を噛み締めた。

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