嫌い。

2人は1時間目が終わる前に席に戻ってきた。


加藤のやつ、だいぶ思いっきり叩いたみたいで

佐倉は頬に厚みのあるタオルを当てていた。

保冷剤でも中にあるのだろうか。


「ねぇ、教科書何ページ?」


「あっ、えと、64…。」


「ありがとう。」


佐倉はいつも通りの笑顔を見せた。


頬がまだ赤いのが目立ったのでつい大丈夫か

聞こうとしてしまった。


危ない危ない。隣は加藤なんだぞ。


そういえば加藤も教科書のページ分からないはず

だから聞いてくるかなと思ってたけどそんな事は

なかった。


ちらっと加藤の方を見てみると教科書のページを

一生懸命めくっていた。


なるほど、自力で探す気か。


そう思うと加藤が俺の方…というか机を見た。


俺が見ているのに気づいてすぐに目を逸らされたけど。


なんか加藤らしくないなぁ…。

ページがわからないなら素直に聞けばいいのに…。


「おい、加藤。」


「なっ、なによ!私別にあんたに教科書のペー…」


自分の言おうとしたことに気づいたようで

頬を赤らめて必死に口を塞いだ。


「そんなこと、俺一言も言ってないけど…。」


「うっ…ばかぁ!」


なっ、なんだよ馬鹿って…笑


でも加藤の顔を見ると涙ぐんでいた。


少し意地悪しちゃったかな…。


その後結局6時間目までは加藤と一言も話さなかった。


佐倉からはノート見せてとか言われて色々話したけど。


でも俺には叩かれた佐倉より加藤の方が心配だった。


あぁ見えてあいつ繊細なやつだからな…。


こんなこと言いながら俺はどうすることも

出来ないんだけどね笑



キーンコーンカーンコーン



「おーし、ホームルーム終わるぞー。」


「きりーつ、れーい、さよーならーー。」


俺が礼をして顔を上げると佐倉が笑っていた。


うん。正直言うとめっちゃびびった。ほんとに。


でも人の顔を見てビックリしたなんて

失礼極まりないからそれは必死で隠して言った。


「どっ、ど、ど、どうしたの!?」


あ、やばいミスった。全然隠れてなかったわこれ。


「ふふっ。なに、そんなにびっくりしたの~笑」


「あっ、うん…ごめん…。」


「まぁ近過ぎたよね、私こそごめん笑」


「あっ、あはは…笑」


「いつも誰かさんが佐藤くんを誘拐しちゃうから

誘拐される前にーって思ったらさー笑」


「あっは…」


うん?それって冗談ですよね…?冗談って言って。


「ほんとに…しつこいんだから笑」


そう言いながら佐倉の視線は加藤の方に向いた。


まぁそんな気しましたよ。うん。


「何よ、言いたいことあるんだったら言ったら!?

でも私は絶対謝らないから!」


「別に謝んなくていいわよ。私の邪魔さえしなければね。佐藤くん、今日は私と一緒に帰ろ?」


「うん…あっ、でも…。」


「頬が痛くてたまにめまい起こすの…!お願い…。」


「うん…。」


そうして佐倉が俺の腕を引っ掴んで教室から出た。


…出る瞬間に加藤が小さい声で喋った気がした。


「…嫌い。」


その言葉は俺の中で印象に残った言葉だった。

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