第4話 午前零時の百合ゲー

出来たミルクティーをカップに注ぎ終わった時「あー」と言う繭の声がした。

「山田さんこんなエッチなゲームやっていたんですか? 『百合のお医者んごっこ』なんてタイトル出てますよ」


「ああ、更新もう終わったんだ……って! おい」


あわてて、ミルクティーをカップに注いだ。

「あちぃ!」手に少し零れ落ちた液体が熱さを伝える。


「ふぅ―ン、結構進んでるんじゃないですかぁ。ああ、次に女医さんとナースが付き合う場面になっていくんですね」


繭は特に嫌がる様子もなくゲームを眺めている。


「ほれ、熱いから気をつけろ」

「ありがとう、山田さんて案外いい人なんですね」

「その案外って言うのはなんだ?」

「だってこんなエッチなゲームやってるんですもの」

そう言いながら温まるようにカップを両手で持ち、”ふうふう”と息をかけミルクティーを冷ましている。


「お前、猫舌か?」

こくんと繭は頷く。

「超猫舌です」そう言いながらにヘラと笑う。


「なら言ってくれればもう少しぬるくしてやったのに」

「今日はいいですよ。これから覚えておいてくだされば」

これから覚えてくれればいい?

ん? まぁお隣同士になるんだから、お茶くらい飲むこともあるかもしれないしな。


それはそうと、更新せっかく終わったようだが今日は出来ないな。ダウンさせよう。


ゲーム機のコントローラーを手にすると

「消しちゃうんですか? やらないんですかこのゲーム」

「さ、さすがにまずいっしょ。こんな百合ゲーなんか繭の前でやったら」

「私は別に気にしませんわよ。ただのゲームじゃないですか」

ただのゲームねぇ……いやぁ、このシリーズかなぁーりエグイんですけどねぇ。


「これかなりエッチだよ」

「へぇーそうなんですか」

「そうだ! だから今日はやらない」

「それじゃ私がやります。いいですか?」


「へっ?」


「ダメですか?」

「ダメって言う訳じゃないけど、こういうの嫌いじゃないの?」

「まったく受け付けない訳じゃないです。正直興味はあります」

「でもさぁ、もし、俺が欲情しちゃったら……、まずいっしょ!」

「まずいですね。もし私を押し倒して”やろう”としたら、舌噛み切ってこの場で死にますけど」


「だろう」


「でも大丈夫です。山田さんは多分私には手は付けないと思います」

「どうしてそう言い切れる?」


「山田さんは生身の女性が苦手のようですから」


「ま、まぁそうなんだけど」


繭はコントローラーをよこせと言わんばかりに、俺の方に手を差し伸べた。

今の時間、ちょうど午前零時を過ぎたところだ。


深夜、女子高生と二人っきりの俺の部屋でかなりエグイ百合ゲーを、これから始めようとしている俺たち。

正直かなりやばい。こんな状況なんかアニメとかゲームの世界にしかありえない事だ。


多分これは犯罪に近い……いや、事情はどうあれ、世間様からはきついご指摘を受けることは間違いない。

まして繭がどういう反応をするかだ。

始めに言われた様に27にもなるいい大人が、こんな百合ゲーにはまっていること自体問題なのかもしれない。



「あうっ、いやぁぁん。駄目です先生……いや、誰か来ちゃいますよ」

「大丈夫よ。今日はこの診療室貸し切りにしてあるんだから」

「診療室の貸し切りって何ですか? あうっ…」



「ほへぇー、エグイですねぇ。でもこのゲーム物凄くリアリティあるじゃないですか」


「だろう、ソフトの中じゃ値段も上位ランクだったからな」


正直この百合ゲーソフトは高かった。でもこのクオリティならそれも許せる。

と、感心している場合じゃねぇ。

繭ははまっている様子だ。


このゲームは18禁。確か俺と10は違うと言っていたから繭は17歳かぁ。

あかんなぁ……。


「なぁなぁ繭さん。このゲーム18禁なんだけど、17歳じゃ年齢制限引っかかるんじゃないのか」


「そうだねぇ、17歳だったら引っかかるよねぇ」

「だろう、確か10歳は違うって言っていたよな」


「うん、あの時はね」


「あの時って、ついさっきじゃねぇか」

「だからさぁ、もう午前零時過ぎてるから大丈夫だよ」


「零時過ぎてるから大丈夫だよって……まさか」


「ほい」


繭が上着のポケットから俺に手渡した学生証

「それ、前の学校のだけど」


生年月日の欄に目をやると5月……? ん? 今日か。

「あーお前今日誕生日なんだ」

「うん、だからもう18歳。18禁、解禁だよ」


「でもちょっと待て、2学年て書いてあるぞ。18歳なら3年じゃないのか」


繭の顔が少し曇った。

「私、1年だぶってるんだぁ」


1年だぶってるって留年か、それとも中学浪人だったのか?

それにだ、話し方も初めからすれば大分砕けて来たぞ。


「だぶってるって留年か?」

「ま、そんなこと。それで、18歳になったから自分の中でもいろんな事解禁することにしてたんだ」

「いろんな事解禁って、何を解禁するんだいったい」


繭はコントローラーをテーブルに置いて

「自分自身を解禁させた」

「意味わかんねぇ」


「だろうね。だって私の事山田さんは何もまだ知らないんだもん。これで知ってたら超能力者だよ、私の心の全部中見通しちゃう超能力者……だとよかったのにね」


「そんな能力があったら、今頃こんなとこでのうのうと暮らしてなんかいねぇよ」


「あはは、確かに」

ニマッと笑い、繭はまたコントローラーを手に取りゲームを再開させた。


そして俺は繭の学生証に目を落とした。

繭の住所と学校名が記載されている。


神奈川……

「お前神奈川から越してきたのか」

「うん、神奈川のはずれの方、結構田舎だよ」


「フーン、何で神奈川から東京に一人で引っ越してきたんだよ」

思わず俺は地雷を踏んだようだ。


繭の顔が見る見るうちに曇っていくのが分かる。


そして……繭は一言言った。


「ねぇ、山田さん。私とセックスしない?」

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