僕の愛しい子

桜城一華

1

蜂須賀有栖は全国ツアーの最中、突如として舞台から姿を晦ませた。


早急に後を追い掛けたレンズの先には、トレードマークである赤色の伊達メガネを外して、涙を拭う彼女の姿。


過呼吸を起こしたように肩を上下させて、いつもの彼女からは想像できない程顔を青くして。

僕は、少しの間それが愛する有栖だと認識することができなかった。


しかし、それは僕に限ったことではなく、周りのファンも同様に混乱していたのだと思う。


他の誰よりも理知的で、ファンのことを第一に考えてくれるアイドルの鑑のような人。

そんな有栖が、僕達を置いていくような真似をする筈がない。


何より、僕の大好きな有栖が間違ったことをするなんて、そんなの石が流れて木の葉が沈むようなもの。


明日のライブが始まれば結局、いつも通りの美しい笑顔で僕達を迎えてくれるのだ。


有栖は必ず、この場所に帰ってくる。

もしも帰ってこないのならば。

悪い子には、お仕置きをしてあげないと。


「有栖、君は良い子だって信じてるよ?」

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