第7話 小野和泉の話④ 武士の大事 P10~111

「そういえば小野なら、こんな話もあったな」


【ある時、(清正公が)関東からお求めになった秘蔵の『嵐鹿毛』という馬をご覧になっておられた時の事じゃった。小野が出てきて…】


「また何か難癖をつけたの?」

「ご意見番って、口うるさい小姑みたいな感じがするよねー」

「そこ、これから良い話をするのだから黙って聞きなさい」


【馬をみた小野は「天晴れな馬ですなぁ。ワシも年若ければお願いして一鞍乗りたいものです」と申し上げたのじゃ。それで清正公は

」と仰られた。】


「え?右手が叶わない?」


「あれ?知らんかったのか?なにしろ、この次に」


【「荒馬をこなすのはできませんが、乗り方を習ったので、このような良い馬なら乗ります」と申し上げた】位じゃからな。(事実かは不明ですが聞書ではそうなってます)

「でもWIKIにはそんな話載ってないよ?」

「事実か怪しいねー」

「おぬしら、どれだけ『うぃきぺでぃあ』好きなの?」


 呆れたように浅川は言うと、話を続ける。


【「ならば」と申されて(小野を)馬に乗せられると(小野は)一返し道を走らせ(清正公の)御前にて「」と申し上げ、そのまま直接宿所の様に乗り帰った。】


「借りパクっていうか、泥棒じゃん!」


「これを見て清正公は【「あの年寄りに出し抜かれた」と言って、そのまま拝領させた。】らしい。」

「え?そのままあげちゃったの!犯罪者なのに!」

「大友興廃記の志賀道易のお話の真似?」

「いやいや、これはもっともな理由があるんじゃよ」


【清正は和泉へ「武辺(者)にとって何事がなりにくい(難しい)ものか?」と尋ねたときに「特別なことはありません。」と申し上げた。これを清正公はことのほか感心されたという】


「え?馬とそれどういう関係があるの?」

「馬と言うのは戦場に出て戦う人間の道具じゃ。だから本陣で指示を出す大将より先陣で動く武将の方にこそ渡すべきものじゃろ?」

「たしかに、会社の金で高級車買うような社長より、設備投資して良い道具を支給する方が好感はもてるね」

「高級車?…そして、小野は高齢で そのうえ右手が不自由でも馬を欲しがった。この意味がわかるか?」

「さあ?」

「正解は?」

「クイズやっとるんじゃないんだけどな…」


 小野は余所から来た武将で、その上戦争に行くには年を取り過ぎてるし、身体も不自由である。

「それでも馬を欲しがり、武辺物にとって難しい事は『良く死ぬ事だ』と言った。これは『自分はいつでも戦乱になれば清正公のために戦場に出向いて、必要とあらば華々しく戦って死ぬ覚悟がある』と言ったわけじゃ」

「小野さん、大阪冬の陣に出るつもりだったのかな?」

「そこまで予測できてたかはわからん。ただ『武士は主君のために命をかけるのは当然』と言った小野の心意気に感じる所があったのではないかな?」

 心と言うのは行動に現れる。清正公が小野を特に優遇し話し相手に選んだのは、こうした覚悟が普段から感じられたのではないだろうかのう。と浅川は締めくくった。

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 大友興廃記では岡城に籠城して島津軍を追い払った志賀親次の父親の道易が『この馬は自分が宗麟公から拝領した馬だ』と嘘をついてだまし取ったのを「良い武将ほど良い馬を求めるものだ」といって許した話に似て言います。

 ただ一つ違うのは、小野は最後まで清正に仕えますが、志賀は宗麟を裏切って島津に内通し処刑された事です。

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本当に片腕が不自由だったのかは不明。

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