第22話食いしん坊 ボア

 5月 6日




「ワンワン!」

「ほら、ボアいくよー」

 まいちゃんがボールを投げる。ボアはそれを追いかける。


「ワン!」

「ボア、頑張れー!」

 程なく、ボアはボールを加えこちらに近づいてきた。


「よく頑張ったねー。えらいえらい」

「ワン!」

 まいちゃんがボアの頭を撫でるとボアはくすぐったそうにしていた。


「まいちゃん貸して」

「うん」

 俺は、まいちゃんからボールを受け取る。


「ほら、いくぞ、ボア!」

「ワン!」

 僕が投げたボールをボアが追いかけていく。朝の宗堂桜の山の上の出来事だった。




 ボアと、遊んで一息ついて、俺たちはベンチで休んでいた。ボアは走り回って今は疲れたのか、今はぐったりしている。

 俺も、買ってきたミルクティ―のペットボトルに口をつける。

 それになぜかは知らないが、まいちゃんがクスクス笑う。


「どした?」

「いやだって、ミルクティーだもん。なんか、女子みたい」

 ああ、と俺は呟いた。


「おとんが、よくコーヒーや紅茶やら緑茶、ウーロン茶を飲んでいたんだ。実はさ、子供の頃、俺たち飲みたかったんだけどさ、子供にはダメ!とおとんに言われてさ、飲ませてもらえなかったんだよね。今はそんなことはないけど。だから、俺たち家族はみんなお茶が好きなんだ」


「ふーん、そうなんだー」

 まいちゃんは俺の話を和やかに聞いていた。前にあった鎮痛な表情が嘘のようだ。


 しかし、俺は知っている。今は朗らかそうに見えても、まいちゃんは自分な悩みを抱えていることを。

 俺ができることと言えばその悩みを少し間際ラスことしかできない。


「そうだ、まいちゃん。俺の絵見てくれる?」

 それにまいちゃんは一も二もなくうなずいた。


「うん!みたい!」

「ほら、これだ」

 俺はリュックサックに入れていた。絵を取り出した。


「あ、なら私も」

 まいちゃんは今日は黄色のブラウスと白のミニスカートを着ている。そして、珍しいことに今日はリュックサックを持っていた。


「よいしょ、っと」

 そして、リュックサックから御重の箱が現れた。


「お?サンドイッチか?」

「すごーい!なんでわかったの!?」


「いや、外で食べるものといえばサンドイッチかな?と」

 それにまいちゃんはホクホク顔で言う。


「そう!まさにビンゴ!じゃあ開けるねー」

「おお」


 御重の箱の中のサンドイッチはオードソックスなものばかりだった。タマゴサンド、ハムサンド、ツナサンド、そしてイチゴジャムサンド。どれも定番。いや、いちごジャムサンドはどうなんだろう?うちのおかんがよく作ってくれるけど、あんまりコンビニとかでは見かけないな。


 ともかく、美味しそうなサンドイッチだ。

 そして、ボアがサンドイッチに気づいたのか、のそりのそりとこちらに向かって歩いてくる。


「ボア、お前も食べたいのか?」

「ワン!」


「なら、待て!」

 ピタッと、マテの姿勢をするボア。俺はリュックからボア用のミネラルをーターを出す。

「お前もサンドイッチが出るや否や、来るとは厳禁なやっちゃ」


 ボアが体勢を崩す。

「まて!」

 ピタッ。

「よしよし、いいぞ」

 クスクス、笑うまいちゃん。

「すごい、もう完全に躾けて(しつけて)いるね」


「ま、ある程度はね」

 俺はじっと、ボアを見つめる。

 最初は姿勢が良かったものの、徐々に体を揺らし始めた。


「まて!」

 また良い姿勢をする。そして。

「いいぞ、おいで」


 すぐに飛んでくるボア。俺はミネラルウォーターを少しずつ飲ませた。


「よしよし、いい子だ!」

 思いっきり頭を撫でる。そして、適当にハムサンドを持ってボアの前にやった。

「ほら食べな」

 言うなや否やむさぶった。すぐにボアの胃袋に収まった。

「ほら、まいちゃんも」


「あ、うん。ほら、お食べ、ボア」

 まいちゃんはタマゴサンドをボアに渡した。ボアはタマゴサンドの端を噛むと、次の瞬間にはサンドイッチを口の中に丸呑みした。


「もう、ボアったら」

「はは、いいじゃないか。可愛くて」

 

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