第4話朝の散歩にて


4月 29日




「うんっ!」

 俺は喝(かつ)を入れて起き上がる。それから服を着替え、朝食を食べ、歯磨きをして髭(ひげ)を剃る(そる)。


 今は8時半だ。散歩をするようになってから見違えるように生活習慣が整ってきた。

そして、スマホでクロスを見る。

あれから、舞花さんとは2、3回クロスで会話をした。会話といっても、おはよう、というぐらいなものだったが、今日もおはようございます、と打って、すぐに返信が返ってきた。やはりそれは、おはようございます、だった。


 味気がないと言えばそうなのだが、別にこれからお茶しましょうというわけにはいかないし、いきなり相手の家に上がり込むのも、な。


 だから、俺たちは知り合おうといっている割には手詰まりだった。

 このままだと、あっちの側から愛想がつかされる。一体何かいい方法がないのか?こう自然に話ができるいい方法が。


 ま、考えても仕方ないので、玄関を開けて靴を履く。今日も散歩をしようか。

 そうして外を出た直後だった。一つの声が聞こえた。

「待って!ちょっと待ってよ、ボア!」

 この声は・・・・・・

俺は千種学校区とは反対側の本田家の方に足を向けた。本田家に伸びる坂道の麓(ふもと)に、果たせるかな、ばったり犬に引きずられている舞花さんと出会した。


「おはよう」

「あ、おはようございます」

 舞花さんはおずおずといった様子だった。

 しかし、犬、ボアは俺たちのことを気にせずに走り出そうとしている。


「あ、ちょっとま・・・・」

 ガシ。

 俺も、リードの綱を持つ。流石に二人がかりだとボアも動きが止まった。

 ゴールデンレトリーパーでよかった。もうちょっと大きなものだったら、どうなっていたか。・・・・・・・・

「あ、ありがとうございます」

 舞花さんはお辞儀をする。

「いえいえ、どういたしまして」


 するとボアがこちらに目掛けて(めがけて)突撃してくる。

「ワン!」

「ボア!」

「ワン!ワン!」

 俺の周りにきたら吠えまくっていた。


「はは、まじ、こいつのしつけからなんとかしないとな」

「すみません」

 それに縮こまる(ちぢこまる)舞花さん。

 そんな舞花さんに俺はウィンクをした。

「ちょっと俺ん家の庭で待ってくれる?ここだと時々自動車が通るから危ないから」


「はい?」

舞花さんは素っ頓狂(すっとんきょう)な声で言った。

うーむ、微妙に傷つくな。

気を取り直して俺は言った。


「とりあえずこいつを調教するために俺はある物をコンビニで買ってくるから。俺の庭で待っていてくれよ。ここは自動車が通るから待っていたら危ないから」

「あ、はい」

 今度は舞花さんは素直にうなずいた。

 そして、俺はもうダッシュでコンビニへ向かった。




「はい、お待たせ」

 舞花さんはガラスの目で俺を見て、ボアは叫びまくっていた。


 俺はそんなボアの前に来る。当然、ボアは俺に叫びまくる。

「まて!」

 俺はボアに一喝する。ボアはシュッと叫ぶのをやめて、マテの姿勢に入った。


 俺はポケットからソーセージを取り出す。ボアはすぐに体勢を崩すがそんなボアに俺は言った。


「まて!」

 また、ボアはまての姿勢をとった。

 俺はソーセージの封を切って、ソーセージを剥き出し(むきだし)にする。そうしたら、またもやボアがそれを欲しがりそうにしっぽを振ったが、俺が睨め(にらめ)つけると、しゅんとなった。


「はい、お食べ」

 そう言って笑顔で言うとボアは飛びついた。


「よしよし、いい子だね。よく我慢したねえ」

 俺はボアを抱きしめると思いっきり頭を撫でてやった。ボアも、嬉しそうにソーセージを頬張っている。


 俺はボアから離れると舞花さんに一つソーセージを出した。

「舞花さんもやってみる?」

「え?」

 それに、舞花さんは驚いた様子だったが、おずおずとソーセージを受け取る。


「ボア」

 ソーセージを食べ終えたボアがこちらをみる。

「まて」

 ボアはまての姿勢をとる。舞花さんはソーセージの封を切った、すると………。


「ワン!」

「キャ!」

 ボアは舞花さんに襲いかかりソーセージを奪った。

 それに俺は一頻り(ひとしきり)笑った。


「はっはっは。舞花さんて優しいんだね」

 それに舞花さんは軽く不機嫌になる。

「威厳がなくて悪かったね」

「はっはっは!」

「ちょっと!笑いすぎー!」

 朝のほのぼのとしたエピソードだった。




「で、これから舞花さんは朝の散歩をしようと思っていたのか?」

 それに舞花さんはコクリと頷いた。

「ボアを散歩に連れ出さないといけないし」

「俺も散歩をしようと思ったんだけど、どうかな、二人で散歩しない?」


「あ、うん、いいよ」

 それに舞花さんは素直に頷いた。

「よし、じゃあ二人で散歩をしようか」

「ワン!」

 ボアが吠えた。


「わかってるって。お前も一緒だ」

 ボアの頭を撫でる。ボアはくすぐったようにしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る