第23話

 天界モルンへと戻る雲の上で、私は地上の様子を思い出していた。いや、意図的に思い出すというより、自然と頭の中にあの景色がぐりぐりとねじ込んでくる。十六年しか生きていない私にもあの状況が、極めて異常なことは理解出来た。私が、元の世界にいた時にも毎年のように『記録的豪雨』をマスコミは連呼していたが、先程の雨はそんなものを遥かに超える何千年に一度なのではと思えるほどだった。



「ふたりともおちこんでるけど、だいじょうぶもく? 」


 普段ならクルムの心配が嬉しいところだけど、今回ばかりは悲しかった。やはり天界モルンの人(雲)とは感覚が全然違うんだ、と思いしらされた気がするから。



「茜、大丈夫? 顔色悪いけど」


「う、うん。ちょっと酔っちゃったのかも」



 茜の顔色が見てられない程に悪くなっていた。そして酔ったのはきっと嘘だろう。なんとなくそう感じるも、言葉にできなかった。


 人のことをとやかく言えるほど自分の顔色も綺麗なものでは無いだろうなと苦笑する。天界モルンに近づくにつれて焦りが込み上げてきた。私は、元の世界の人に対して何も出来ないのだろうか。報告をして、あとは神様に丸投げ、そんなことでいいのだろうか。



「あとすこしでつくもく、はやくねたいもく……」


 私の想いは、露知らず天界モルンとクルムの眠気は近づいてくる。着いたらなんて説明すればいいのだろう。普段は頼りになる茜だけれど、今回は私もそれなりに話さなければ。胃がキリキリと痛む。緊張なのか、それともあの衝撃的な地上の様子を見たからか。


 気がつけば、もう天界モルンには入っていた。地上での雨が嘘のようにどこまでも青い空だ。


 私は、一人覚悟を決める。自分の言葉で、あの状況を説明すること。そして、自分に何か出来ることはないかと尋ねること。人見知りな私にとって、決して簡単なことでは無い。



「湊月は、あれを見てどう思った? 」


「言葉では表せないかな。いつもの私なら話せないことの言い訳でよく使うけど。今回は、本当に、なんて言ったらいいのか……」


「やっぱり、そうだよね。私、あれを上手く伝えられる自信がない」


「私が言うよ。いつまでも茜に甘えてたらだめだと思うし、これが私の成長するチャンスなんだと思う。支え合うのが友達なら、頼り合うのも友達だよ」



 茜はありがとう、と照れ笑いをした。そこに小さな涙が光っているのも私は見落とさない。こんなに茜が心を乱しているということは茜には、何か私の知らない大事な過去があったのだろう。


「ふー、ついたもくよ」

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