第5話 おばあちゃんとの思い出

 あの後、睡魔に急襲された私は泥のように眠った。あまり深く考えるのは良くないな。ネガティブになると心身ともにすり減ってしまう。今日は土曜日、平日より遥かに少ないストレス。うーんと伸びをして時計を見ると、9時を過ぎていた。私にしてはよく寝たほうだ。リビングに向かうとふんわり甘い香りがした。匂いだけで朝食を察した私の足取りは、昨日より何倍も軽い。


『冷めていたら、レンジでチンして食べてね♡ 』


 と書かれたメモと共にお皿に乗っていたのは予想通りのフレンチトースト。母の焼いたフレンチトーストが小さな頃から大好きだった。


「いただきます!」


 甘い香りサクッとした音。私にとってこれ以上ない至福の時間だった。そういえば、おばあちゃんも言ってたっけ。悩んでる時は、美味しいものを食べなさいって。


『なんで美味しいものなの? 』


『人間はね、考えないようにしようって思うと逆にもっと考えちゃうのよ。でも、食べているときは食べ物に脳を支配されるからね。悲しことなんておいしさには勝てないわ。』


 おばあちゃんは、私が泣くとすぐに飴玉をくれたっけ。懐かしいなー。フレンチトーストを食べて気力が回復した私は、もう少しおばあちゃんとの思い出。特に、虹の話について思い出すことにした。


『神さまっておばあちゃん見たことあるの?』


『おばあちゃんはないのう。おばあちゃんのお友達は呼ばれていなくなった…。』


 その時のおばあちゃんは、いつもとは全然違う様子だったのを覚えている。


『おばあちゃんもほんとは呼ばれていた。でも、断ったんじゃそんな話怪しすぎると。誰かに騙されていると。でも、友達は本当にいなくなった。』


『お友達帰って来なかったの?』


『人間という形では帰って来なかったよ。その時、世界は彼女がいないものとして回っていたからの。でも、三日前に夢であったんじゃよ。もうすぐで、きっとこっちに来ることになると。』


 その後のおばあちゃんは、珍しくしょぼんとしていて私はこっそり部屋を出た。呼ばれている人は生きているときに断っても死んだ後天界に行くものだと何となくわかった。いつものファンタジーな世界と違い若干ホラーな話だったなと苦笑する。


『この世界にいるか、向こうへ行くか、 好きな方を選びなさい。ただ、どんな人と一緒か。誰が自分を大切にしてくれるかよーく考えて選ぶこと。最後のおばあちゃんとの約束じゃ』


 にっこり笑ったおばあちゃんの顔が離れない。私はいそいそと仏壇に向かってがんばるねと手を合わせた。丁度その時、電話のなる音が聞こえた。急いで電話のもとへ向かう


「もしもし」

「もしもし、湊月ちゃん? 」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る