第9話 助けるということ

 宿に戻ってもシェーラは静かに泣き続けていた。割れた窓ガラスを掃除している間も、壁にもたれて座ってそうしていた。


「とりあえず、今日は寝よう」


 ベッドに連れていくと、シェーラは徐に服を脱ぎ始めた。寝る前に着替えようとしているようだが、アリスがいるのに構う様子がない。それほどショックだったのだろう。


 仕方なくアリスは大急ぎで部屋を出た。頃合いを見計らって戻ると、彼女はすでにベッドの中に潜り込んでいた。


 アリスは安堵して腰を下ろす。刀を肩に立てかけ、いつでも臨戦態勢を取れるようにして瞼を閉じた。


 しばらくて、シェーラが身じろぎした。


「ねえ……アリス、起きてる?」


 アリスは浅い眠りから覚醒したが、応えない。


 無言を受けて、彼女は言葉を続けた。


「私、間違ってたのかな」


 彼女の声は徐々に湿り気を帯びていく。


「助けた、つもりだったの。でも、間違っていた。私が余計なことをしたから、ナルちゃんは攫われた。すごく怖い思いをさせた」


 鼻をすする音だけが静寂の中にある。


「アリスの言うとおりだったわ。見捨てるべきだった。そうしたら、ナルちゃんは――」


 アリスは応えない。ただ彼女の言葉を待つ。


 だが、その先をシェーラは続けなかった。


「ごめんなさい。もう寝るわね。おやすみ」


 しばらくしてシェーラの静かな寝息を聞こえた。アリスは目を開いて彼女の小さな背中を見つめる。


 明日の行き先が決まった。

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