第17話 夏祭り
夏祭り当日、俺は待ち合わせ場所で萌笑を待っていた。
期待と、初めて二人で出かける不安が胸を渦巻いていた。一緒に帰ることはあっても、どこかに出かけるというのは初めてだ。
でもやっぱり、楽しみだ。
今日、萌笑は浴衣で来るのだ。俺も一応着ているけど、萌笑の浴衣姿に釣り合うかどうかが不安だ。
今日の予定について思いを馳せる。
「………楽しみだな……」
行きたいところ、やりたいことはいくつもある。
期待に胸を高鳴らせた。
「お待たせっ!!」
後ろから萌笑の元気な声が聞こえる。
ゆっくりと振り向くと、そこには桜色の浴衣姿の萌笑がいた。その綺麗な黒髪が淡い色の浴衣に綺麗に映える。
「……すっごい似合ってる」
「そう?ありがと!」
嬉しそうに萌笑が飛び跳ねる。綺麗なグラデーションは萌笑のイメージにぴったりと合っていて、いつものかわいいイメージよりも「可憐」という言葉が似合いそうだ。
「…柊人君の浴衣姿もかっこいいよ」
俺に向けて笑いかけながら小さくつぶやく。
胸の奥がつかまれたような感覚がして、顔に熱が集まってきた。
「………よかった。萌笑と釣り合わないんじゃないかって心配だったんだけど……」
「そんなことないよ。私の自慢の……か、彼氏さんだもん……」
頬を薄く染めて萌笑が小さく言う。
「じゃあ、萌笑は俺の自慢の彼女さんだな」
「えへへ……おそろいだね……」
萌笑が俺が差し出した手に自分の指を絡ませる。ちょっと恥ずかしいけど萌笑と一緒に居る幸せのほうが上回る。
「じゃあ、行こうか」
「うん!!どこ行く?」
「どこ行こっかねえ……とりあえずぶらぶら歩こうか」
「そうだね…」
少し抜けそうになった萌笑の手を優しく握りなおして、歩き出した。
祭りはにぎわっていて、人が多い。はぐれないか心配なので、萌笑を少し抱き寄せる。
「……はぅ…………」
やっぱり恥ずかしいのか頬を鮮やかに染める萌笑を連れて祭りの中を歩いていく。
「……あ、楽しそうじゃない?あれ」
「ほんとだ……ちょっとやってみたいかも」
俺が指をさす先には射的がある。祭りにはよくあるけど、その店では商品が充実してそうだった。
店の前につくと、店員に話しかけられる。
「おお、兄ちゃんたち、やってきな。初々しいカップルは大歓迎だよ」
「ありがとうございます」
「………あ、ありがとう……ございます…」
カップルと言われることにまだ慣れていない萌笑が恥ずかしそうに小さくお礼をする。
「萌笑は何が欲しい?」
「……あれ……」
萌笑がその細い指で示しているのは小さな一組のストラップだった。
「ちょっとやってみるかな…」
「おう、百円でできるぞ。ただ、彼女さんの前で恥かかないようにがんばれよ」
「……分かりました」
財布から百円をとりだして店員に渡す。
「ほれ、三発な」
射的や特有のあの銃みたいなものを渡される。
「ありがとうございます」
萌笑が指さしたストラップのほうに銃を向ける。ちょっと緊張するけど、せっかくだからとってあげたい。
──ポンッ!
「あぁ…」
一発目は少し左だった。狙ってたところよりも左に行くらしい。次は的よりも少し右側をねらって打つ。
──ポンッ!
「………おしい……」
次は当たったけど少し動いただけで後ろに落ちなかった。
ただ、さっきよりは後ろに行っているはずなのでまた同じものを狙う。
──ポンッ!!
「おおお!!」
ことり、と音がしてストラップが後ろに落ちた。
「柊人君!!ありがと!!」
「……よかった。何とかなったな」
店員さんに銃を返す。祝福の言葉をかけられ、少し照れ臭くなったがお礼を言ってから店を去った。
「……嬉しいな……」
「なんでそれ選んだんだ?」
「かわいいのと………これなら……しゅ、柊人君とおそろいにできるから……」
確かに萌笑が選んだのは一組になっているストラップだった。
「…おお、そうか。じゃあバックにでもつけような」
「うん!」
久しぶりに射的なんてやったけど案外に楽しかった。
萌笑が選んだやつもとれたし、結構楽しめたからほんとによかった。といってもこれで終わりではないけど。
まだまだ祭りは終わる時間帯ではない。
日は傾き始めたばっかりで、喧騒は夕焼けに照らされていた。俺たちはおそろいのストラップをもって人々の間を通り抜けた。
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