第28話

 


 


「・・・まあ、よいじゃろう。だが、簡単に情報を得られるとは思わない方がよい。」


「はい。わかりました。トリードット先生。」


「はあ。まったくお人よしね。エメロードちゃんは。でも、そんなところが可愛くて好きなんだけどね。」


「では、俺が案内しよう。」


そんなこんなで私たちはメリードット先生の案内で職員棟の地下にいるというシルヴィアさんに会いに行くことになったのだった。


 


 


 


 


 


 


 


 


「職員棟に地下があったなんて知りませんでした。」


「ええ。私も知らなかったわ。」


乙女ゲームの中でさえ、職員棟に地下があったなんて描写はでてこなかった。


「そりゃそうだ。教師でも一部の人間しか知らないからな。生徒なんて生徒会長以外は知らないはずだ。」


「・・・ランティス様は知ってらっしゃったんですね。」


メリードット先生が職員棟の下に地下室があることを知っているのは限られた人物だけだということを教えてくれた。


それも信頼できる人ばかりだと。


だから、シルヴィアさんが保護されているのが職員棟の地下なんだということも教えてくれた。


ただ、ランティス様って信頼できるのかしら。と、少し疑問に思った。


だって、私の婚約者だとしても本人はかなりの優柔不断だし。


あちらこちらの女性にいい顔ばかりしているし。


どうも、そういう態度を取られると信頼できそうにないと思ってしまうのはいけないことなのだろうか。


地下へと続く階段は灯りがあまりなく薄暗かった。


カツンッ


カツンッ


と、歩くたびに石畳の階段に靴音が響く。


地下は風通しが悪いのか少しだけかび臭く、また少しだけ生臭い匂いも感じた。


小動物の死骸でもどこかにあるのだろうか。


こんなところにシルヴィアさんが匿われているのかと思うと少しやるせなくなる。


「保護するにしてももっといい場所はなかったんですか?」


思わずメリードット先生に尋ねてしまった。


メリードット先生は困ったように首を傾げた。


「まぁな。誰がシルヴィア嬢を唆したのかわからないからな。この学院内で存在があまり知られていない部屋っていうのがこの地下牢だったんだよ。いつ誰がここに地下牢なんてもんを作ったのかわからないがな。」


「そして、地下牢を知っている人物が限られているから、もし地下牢にいるシルヴィアが襲われたとしたら犯人が一気に絞られるということですね。」


「ああ。そうだ。アクア嬢は察しがいいな。」


そうか。


シルヴィアさんを保護すると同時に、もし知っている人がほとんどいない地下牢でシルヴィアさんが襲われたとなると、必然的に犯人が絞られるっていうわけか。


それで地下牢を選んだということなのね。


そうこう話しているうちに私たちは物音ひとつしない地下牢に降り立った。


「・・・なんだか、とても生臭いですね。」


階段を降りているときから気になっていたが、どうにも生臭い。


ずっとここにいるのは辛いと思うほどだ。


シルヴィアさんは本当にこんなところにいられるのだろうか。


仮にも彼女は伯爵令嬢だ。こんな生臭いところに居たくはないだろう。


気がおかしくなってしまいそうだ。


「・・・なんでこんなに生臭いんだ。今朝はこんな匂いなんて・・・。」


「あっ!?あそこ!!」


メリードット先生が思案顔をすると、アクアさんが地下牢の先を指差した。


私たちは、アクアさんが指差す方を見る。


するとそこには血溜まりが広がっていた。


その血溜まりの中心には、判別ができないほどグチャグチャになった何かの肉片がある。


匂いの元はこれだろうか。


思わず気持ち悪くなり目と口を塞ぐ。


「・・・ま、まさかっ!!」


メリードット先生がその様子を見て悔しげに叫んだ。


「エメロード嬢に、アクア嬢。すぐに上に行ってジェリードット先生とトリードット先生を呼んできてくれっ!その後は君たちは寮で待機をするように!」


メリードット先生はそう言うと血溜まりの方にかけていった。


メリードット先生はトリードット先生とジェリードット先生を呼んでくるように言っていたが、見慣れない血溜まりと肉片を見てしまった私は恐怖と気持ち悪さでその場から動けなかった。


「エメロードちゃん。行くわよ。」


ただ、アクアさんは気丈だった。


こんな酷い現場を見ても前を強く見ていた。


「でも、私・・・動けない。」


情けないことにアクアさんと違って私は動けそうにない。


「アクアさん。先に行って先生方を呼んできてくれないかな?」


メリードット先生の表情を見る限り早く呼んできた方がよさそうだ。


「私がエメロードちゃんを抱き上げて行くわ。私が力があるのを知っているでしょう?」


「・・・知ってるわ。でも、早く先生方を呼びに行った方がいい気がするの。アクアちゃん一人なら私を抱えて走るより、早く先生方を呼べるでしょう?」


「それは・・・そうだけれども・・・。」


アクアさんは私の提案に言葉を濁した。


私はアクアさんの重りなのだ。


「お願い、アクアさん。先生方を呼びに行ってちょうだい。」


私はそう言ってアクアさんに微笑んだ。


「・・・っ!すぐに戻ってくるから!!」


アクアさんは私が譲らないことを確認すると、踵を返して地上へ続く階段を駆けのぼっていった。


そう。それでいいの。


「ふむ。急がなくても我の血を飲んでいるゆえ、直に復活するぞ。」


「・・・え?」


復活?


なにが、復活するの?


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