第23話

 


 


「あれ・・・?私・・・?」


「うむぅ・・・。どこもいたくないわい。」


起き上がったジェリードット先生とトリードット先生は自分の身体を見ながら首を傾げている。


「ふむ。我は完璧なのだ。我に出来ぬことなどないのだ。思い知ったか、母よ。」


プーちゃんはそう言って胸を張って見せた。


と言っても蛇なのでどこが胸だかわからないけれども。


「すごいね。プーちゃん。瀕死の状態の人まで一瞬で治せてしまうだなんて。まるで伝説に出てくる聖竜みたい。」


私は思ったままのことをプーちゃんに告げた。


プーちゃんは私の発した言葉に首を傾げた。


あれ?おかしいな。


褒められて喜ぶかと思ったのに。


「聖竜じゃとっ!!?」


私の言葉に反応したのはプーちゃんではなくて、トリードット先生だった。


トリードット先生はプーちゃんの身体をガシッと抱き上げる。


そして、角度を変えてプーちゃんをじっくりと観察しているようだ。


「ぬぬっ!放すのだっ!!」


「ふふふっ。放しませぬぞぉ。」


プーちゃんがジタバタとトリードット先生の腕の中で暴れるが、トリードット先生は動じない。


それどころか、ルーペをどこからか取り出してプーちゃんの身体を隅から隅まで確認し始めた。


「・・・じゃが、伝説にあった聖竜よりも随分と小さいのぉ。」


プーちゃんを観察しながら、トリードット先生が言う。


じゃあ、プーちゃんは聖竜ではないのだろうか。


「・・・?生まれたばかりの赤子は小さいであろう?だんだん大きくなっていくのだろう?だから我も小さい姿をとっておるのだ。」


「ん?つまりわざと小さい姿をしているっていうことかな?」


「うむ。我の本体はでかいぞ。だが、生まれたばかりは小さい方が可愛いのだろう?以前一緒に過ごしていた人間が言っておったぞ。」


うーん。


プーちゃんってその以前一緒に過ごしていた人の感化を受けすぎているのかな。


別に精霊に大小ってあんまり関係ないと思うのだが。


「ほぉぉぉぉぉお!興味深いっ!姿を自在に変えることができるとはっ!!」


トリードット先生が興奮したように叫ぶ。


どうやらトリードット先生も今まで姿を自在に変えることができる精霊とは遭遇したことがないようだ。


「うむ。我は偉大なる始祖竜だからな。我にできないことはないのだ。」


プーちゃんはそう胸を張って告げた。


 


・・・えっ?


始祖竜・・・?


 


今、私はとんでもない言葉を聞いたような気がする。


気のせいだろうか。


プーちゃんが発した言葉で辺りが静寂に包まれる。


誰もが皆、状況を飲み込めていないようだ。


「・・・始祖竜?始祖竜じゃとっ!!!?」


一番初めに我に返ったのはトリードット先生だった。


興奮した声を上げてプーちゃんを握り締めた。


「ぐ、ぐぇっ。な、なにをするのだっ!!」


思いっきり胴体を締め付けられたプーちゃんがトリードット先生に抗議をする。


しかし、興奮しきってしまったトリードット先生は誰にも止められない。


「ちょっと鱗を一枚・・・。ああ、血も一滴ほしいのじゃ。髭も一本ほしいのじゃ。」


うん。


トリードット先生が壊れてきたので見ないことにする。


でも、それにしてもまさかプーちゃんが始祖竜だったなんて。


嘘でしょ。


威厳もなにもあったもんじゃないんだけど・・・。


というか、あまりのことに腰が抜けてしまい立つことができずに、その場に座り込んでしまった。


だってまさか始祖竜だなんて思わないでしょ。


始祖竜と言えば、聖竜よりも伝説なんだよ。


伝説というよりも神話に近いかもしれない。


だって、元々この世界には始祖竜しかいなくて、独りぼっちで寂しくなった始祖竜が精霊王を産み出したとされるのだ。


さらにその精霊王が四大精霊を産み出して、その四大精霊が上級精霊を産み出して・・・。といった感じの創世記がこの世界にはある。


つまるところ始祖竜がいなければ生命は生まれなかったのだ。


あ、ちなみに人間も始祖竜が手慰みに産み出したとされている。


「・・・ど、どーして始祖竜が卵なんかに。」


声が震えてしまう。


まさか、私の育てた卵から始祖竜が生まれてくるだなんて誰が思っただろうか。


「ふむ。母という存在が欲しかったのだ。」


プーちゃんはそう言った。


母という存在が欲しかっただけで卵になっちゃうの。


誰が育てるかわからないのに・・・?


というか、母の存在が欲しかったってことは・・・。卵を育てて孵化させてしまった私って・・・。それって、つまりは・・・。


「私が始祖竜の母ってことぉぉぉぉおおおおおお~~~~~~~~!!!!!!!」


「うむ。そういうことなのだ。」


そういうことなのだ。じゃない。


どうして、私が始祖竜の母にならなければいけないのだ。


というか、始祖竜の母は神話で言えば神にあたるだろう。


私をそんな存在にする気だろうか。


私が育てた卵から邪竜が孵るにも嫌だったけれども、始祖竜が孵ってしまったのはある意味もっと恐れ多いんだけど!!


誰か・・・。


誰か嘘だと言って・・・。


お願いだから。


お願いだから、誰か嘘だと言って・・・。


私は自分の身に起きたことのあまりの現実離れした現象に思わず意識を飛ばしてしまうのだった。


 


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る