第14話

 


「邪竜がすでに孵化しているということでしょうか・・・?」


私は自分が思いついた最悪の事態をトリードット先生とジェリードット先生に確認する。


どうか、違うと言って欲しい。


乙女ゲームの世界では悪役令嬢である私が邪竜を孵化させてしまって世界が混沌に陥ってしまったのだ。


その被害たるや創造を絶するものである。


乙女ゲームのシナリオ通りならばこの世界の人口が邪竜によりいっきに1/3まで減ったということになっている。


そんな状態には絶対にしたくない。


「・・・その可能性は否定できんのぉ。」


「・・・そうね。でも、精霊の卵は全てこの高等魔術学院で管理しているわ。どこから邪竜の卵が流出したのかしら・・・。」


「精霊の卵の数量等は管理していたのですか?」


「ええ。もちろん。毎日朝と夕に確認をとっていたわね。それでも不審な増減はなかったわ。」


「となると・・・学院の管理外の精霊の卵がどこかにあったということかのぉ。」


精霊の卵がこの高等魔術学院で全て管理されているなんてこと初めて知った。


どういう仕組みでこの学院に精霊の卵が集まってくるのだろうか。


「精霊の卵を全て学院で管理しているだなんて初めて知りました。いったいどういう仕組みなんですか?」


疑問をそのままトリードット先生に尋ねてみる。


きっとトリードット先生ならば教えてくれるだろう。


「まあ、機密事項じゃないし教えても問題ないじゃろう。精霊の卵の守り人という者が各地におるのじゃ。守り人は特殊な能力を有しておっての。精霊の卵が生まれればどこで生まれたか察知できるのじゃ。その守り人が精霊の卵を見つけて、学院に持ってくるのじゃ。」


「守り人は一説では精霊じゃないかって話もあるわね。そうして、この学院も守り人に監視されているわ。精霊の卵が不正に流失しないようにね。」


「そうなんですね。」


精霊の卵はしっかりと管理されているようである。


それにしても精霊の卵の守り人だなんて初めて聞いた。


「その精霊の卵の守り人が秘密裏に精霊の卵が見つかったことを報告しなかった可能性はありませんか?」


精霊の卵の守り人だったらいくらでも邪竜の卵を横流しすることは可能だろう。


だって、精霊の卵の守り人にしか精霊の卵が生まれたことが察知できないのだから。


「無理じゃろうな。この世界には幾人かの精霊の卵の守り人がおる。何人いるのかは把握できておらぬが最低でも10人以上いることはわかっている。守り人は世界中の精霊の卵を感知できるでの。誰か一人が秘密裏に精霊の卵を横流しすることは難しいのじゃ。」


「そうね。精霊の卵の守り人が全員の承認がないと横流しなんてできっこないわ。まあ、可能性としては精霊の卵の守り人全員が関与しているってこともあるかもしれないわ。」


「そんなっ・・・!!」


精霊の卵の守り人が全員関与しているだなんて、この世界はどうなってしまうのだろうか。


「まあ、しかし、精霊の卵の守り人でも精霊の卵が孵化してみないことにはどんな精霊が生まれてくるかはわからないのだとか。」


「そう。つまりは邪竜の卵を選別して横流しするのは難しいのよ。」


トリードット先生とジェリードット先生はそう教えてくれた。


「でも、精霊の卵の色はそれぞれ違います。邪竜の卵の色を守り人たちは理解していたのではないでしょうか。聖竜の卵が虹色だというように。」


そう、ある程度は卵の色でどんな精霊が生まれてくるのか判別できるのではないか。


ピンク色の卵が火の精霊であったり、水色の卵が水の精霊であったりするように。


「まあ、だいたいはわかるがの。ただ育てる者の気質が変わることもあるのじゃ。特に珍しい色の精霊の卵は育てる者の気質で悪にも聖にもなる。」


「ならっ!珍しい色の精霊の卵を悪意を持った人に渡せば邪竜が生まれる可能性が高くなるのではありませんか!」


「そうさの。可能性は高くなるであろう。ただし、絶対とは言えぬのじゃ。過去には変わった色の精霊の卵から普通の火の精霊が生まれたという話もあるでの。」


「そうなのよねぇ。ごくありふれた色の精霊の卵から精霊王が生まれたっていうこともあったし。あまり卵の色と産まれてくる精霊を結びつけることはできないのよ。」


「・・・そうなんですね。」


じゃあ、なぜ精霊の卵には色がついているのだろうか。


そんなことがなぜか気になった。


「なんにせよ。邪竜が生まれたかもしれんのぉ。まあ、アクア嬢の卵が聖竜の卵じゃない可能性もあるがの。」


「とりあえずアクアさんを起こしてみましょうか。このくらいのヒビなら精霊の卵がアクアさんが倒れるほど魔力を吸い取ることはないでしょう。」


「お願いします。」


アクアさんを目覚めさせても問題がなさそうなことがわかったので、ジェリードット先生はアクアさんに魔力を送り込み始めた。


どうやらアクアさんが意識を失っているのは怪我をしたからではなく、魔力が枯渇してしまい仮死状態になってしまっていたからだという。


ジェリードット先生がアクアさんに魔力を送り出してから少しして、アクアさんの目元がピクリッと動いた。


「アクアさんっ!!」


私は思わず寝ているアクアさんに飛びついてしまう。


「ほら、エメロードさん。落ち着きなさいって。」


そんな私をジェリードット先生は窘めた。


でも、アクアさんが目を覚ますのだから落ち着いてはいられない。


だって、アクアさんは私のたった一人の友達なのだから。


「ん・・・うぅ・・・。」


アクアさんの小さくぽてっとした赤い唇から声が漏れる。


「アクアさんっ。アクアさんっ。」


少しずつ開いていくアクアさんの目を見て思わず涙を流してしまった。


 


 




 


 


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