第7話

「まあ!エメロードちゃんにこんな哀しげな表情をさせるだなんて、ますます許せないわ!」


どうやらランティス様をかばおうと思って発した言葉は、火に油を注いだだけだったようです。


アクアさんは次第にヒートアップしていってしまいました。


「いえ。あの・・・私のために怒ってくださるのは嬉しいのですが、それが貴族というものですし。アクアさんも貴族の一員だったら仕方のないことくらいわかっているでしょう?」


「貴族社会のことは家で勉強してきました。わかっているつもりですが、気持ちは理解できません。どうして、そんなつらい関係を続けなければならないのでしょう。家のために犠牲になる必要はないのですわ。それならば、私は平民になることを選びますわ!!」


アクアさんんはそう言い切った。


アクアさんの考えは貴族よりも平民の考えに近いようだ。


ただ、日本と言う国で産まれ育った経験のある私にはその言葉が嫌と言うほど理解できた。


政略結婚なんてクソ食らえなのである。


ただ、今の両親のことを私はとても気に入っている。


その両親が選んだ相手がランティス様だったのだ。


両親の顔を立てるためにもランティス様とは結婚しなければならないと感じている。


それにランティス様はお優しそうだし。


例え愛人を作ったとしても私を蔑ろにすることはなさそうに思える。


そう思えば両親の選んだランティス様は私にとって一番いい結婚相手なのかもしれない。


「アクアさんは強いんですね。」


ただ、平民になってでも自分の好きになった人と添い遂げたいというアクアさんの心意気はとても気に入った。


私にもそれだけの強さがあればいいのに。


「エメロードちゃんが嫌だと言うのならば私が助けてあげるからね!」


「ありがとうございます。」


アクアさんの言葉は素直に嬉しいと思った。


だから、私は自然に浮かんできた笑みと感謝の言葉をアクアさんに向けた。


「くぅぅ~~~!!可愛いっ!!!」


すると、どうだろうか、アクアさんが歓喜の悲鳴をあげて私にぎゅーっと抱きついてきた。


「ふあっ!!く、苦しいのですっ!!」


ぎゅーぎゅーと抱きつかれるものだからちょっと苦しくもなってくる。


思わず抗議の声をあげると、


「ごめん。ごめん。」


と言いながら名残惜しそうにアクアさんが私から離れていった。


「でもね、エメロードちゃんがかわいすぎるのがいけないのよ。その純粋な笑みとか尊いわぁ。」


きゃらきゃらと笑いながらアクアさんが告げる。


それにしても、どうして私はここまでアクアさんに気に入られているのだろうか。


普通、悪役令嬢とヒロインって水と油の関係だよね。


まったく不思議なものである。



「ちょっと、貴女たちうるさくてよ。それでも淑女なのかしら。お家の程度が知れるわね。男爵家か子爵家の出かしら。それともお金で爵位を買った家の出かしら?まさか、平民だなんて言わないわよね。それはないわよね。だって平民はこの学院になんて入学できるわけがないのだから。」


アクアさんに抱きつかれていると、ふいに私たちを咎めるような声が聞こえてきた。


まあ、教室で騒いでいたので怒られても仕方がないだろう。


しかも今日入学したてなのだから。


「不愉快な思いをさせて申し訳ございません。私はエメロード・ダイヤーモンドと申します。」


こう言うときは変に角を立てない方がいい。


それに怒られてもおかしくないほど騒いでいたのだから。


非はこちらにあるので素直に謝る。


「あら、貴女伯爵家の出だったの。とんだ田舎の伯爵家の出らしいわね。こんなにはしたなくはしゃいでいるだなんて。貴女みたいなはしたない人がいるだなんて私はとんでもないクラスに配属されてしまったものね。ああ、いやだわ。」


なんだか、この人嫌味たらしい人だななぁ。


あんまりかかわりあいになりたくないなぁ。


そんな思いが顔に出てしまっていたのだろう。


目の前の嫌味令嬢が盛大に眉を潜めた。


「失礼な人ね。あなた何様だっていうのかしら?」


って!アクアさん!!ここは火に油を注いでいい場面ではないんだから、そんなこと言わないで・・・。


私の必死な思いをよそに、アクアさんは続ける。


「ここにいるエメロードちゃんはね、とっても可愛いのよ。可愛いは正義なのよね。でも、貴女は可愛げがないわ。可愛くしてないとモテないわよ。」


思わず頭を抱えて踞ってしまう私。


アクアさん・・・。だから、そんなにきっぱり言い切らないで。


後が怖いから。


「まあ!まあ!この私よりそこの女が可愛いというの!貴女の目は節穴だわ!私はシルヴィアよ。シルヴィア・ディバーズよ。由緒正しい伯爵令嬢よ。貴女方のような方が私と同等に話すことなど烏滸がましいわ。」


そうシルヴィアさんは言い切ったのだが、私、シルヴィアさんと同じ伯爵令嬢なのだけれども。


「・・・シルヴィア、彼女も伯爵令嬢だから。」


そう思っていたらシルヴィアさんの影にいた男の人が冷静に突っ込みをいれてくれた。


シルヴィアさんと良く似ている容姿をしているけれども、双子かしら・・・?


「まあ!伯爵令嬢と言えども私より格下の伯爵令嬢でしょう?」


「先ほど彼女はエメロード・ダイヤーモンドと名乗っておりましたので、シルヴィアの方が格下だと思いますが・・・。」


そう言われて、シルヴィアさんはグッと唇を噛み締めた。


どうやらダイヤーモンド伯爵家というのは伯爵家でも格式高い家に位置しているようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る