夏を追う君らをオタクな僕が追い込む

天嵐 柚太郎

第1話 不審者

「まーた来てるよ。あのオタク。」


どこからともなく、声がする。まぁいつものことだ。気にしない気にしない。


時は2020年、6月。

僕は『渡辺わたなべ すぐる

29歳にして、やや頭は薄く、人見知り、コミュニケーション苦手、彼女なし歴=年齢。

趣味、ゲーム・スポーツ観戦。

夏場は常に首にタオルをかけていて、いつでも汗をふけるようにしている。

それから、肩掛けに水筒をぶらさげ、オリジナルドリンクを常備している。中身?水道水に食塩とハチミツをほんの少し。

水分補給は大切だ。

今年は5月半ばから30℃を越え、この日も31℃。風もなく、体育館の中はさらに暑く感じる。

顧問の山田先生がギャラリーにいる僕に気付き、ペコッと頭を下げる。こちらも、いつものように会釈を返した。

山田先生とマネージャー、そして誰にも頼まれていない僕が見守る中、男子バスケ部の部活が始まる。


あ、僕が何故ここにいるのか。

僕は運動なんて全くダメなんだ。けど、見るのは大好きだ。野球、サッカー、相撲、ゴルフ、競馬、何でも見る。

中でも僕が今一番好きなのは、バスケットボールだ。このスポーツは素晴らしい。なんたって展開が早い。点数も良く入るし、作戦も様々。もとから好きだったが、約4年ほど前だろうか、あのコービー・ブライアントの引退試合が激ハマりした原因だ。そのコービーは今年、残念なことになってしまった…訃報を聞いてからはショックで3日間、家から出なかったほどだ。

話がそれたが、バスケ好きな僕は家から一番近い高校の練習を見に行ってみようと体育館へ向かった。2月だっただろうか、その日はたまたま練習試合をやっていて、応援の父兄にまぎれて、ギャラリーで試合を観戦した。

高校のレベルに多少がっかりしつつ、僕は持参していたメモ帳に選手を分析し始めた。小さい声でブツブツ言っていたからか。しばらくすると、周りに父兄は誰もいなかったが、おかまいなしだった。それに気付かぬくらい集中していた。次の日からメモ帳は大学ノートになり、練習を体育館の下の小窓から覗いた。

転機は数日後。

いつものように小窓で分析していると、顧問の山田先生から声をかけられた。今思えば、この時点で僕は完全なる不審者、通報されてもおかしくない。

さらに、「あの、あの、すみません。ぼ、僕は…」なんてどもったもんだから、本当に良く通報されなかったと思う。

覗いていた経緯を説明すると、なんとギャラリーで見て下さいと言う。是非どうぞ!との事で、お言葉に甘えた。一応選手(生徒)にも、軽く説明してくれたらしく、晴れて不審者でなく、こうして堂々と見学させてもらっているのだ。

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