偏方位カバー型 fuckin'アトリビュートとmotherfuckin'ドライブ・バイ♡②


 

 何故、グリパツニットで来なかった……くそババア。なんだそのガチ尼スタイルは……。尼さんなんてもう……どうでもいいだろうが……。



「へぇ、もぅいいんだぁ? 上物の尼さんとかぁ、紹介してあげてもいぃんだけどなぁ……そのかわりぃ……何人か、バラしてくれない?」


 ババアが、かすれたお姉さんボイスから急に声色を変え、鼻に掛かった小悪魔ボイスで何か言いはじめた。


 なんだそれは? ややこしいことをするんじゃない……どうしたんだ急に……。グリパツか? いや、グリパツはそんなスレてなかったはずだ。もっとインテリ感があった。

 まさか……このババア「可愛い」に釣られて……ツンデレをキメてきたのか? 俺もよく分からないが……ツンデレはそういうのじゃないと思うぞ?


 だいたい、上物の尼さんって、アレはレアアイテムだ。そんな手に引っかかると思ったか? この小悪魔め。

 ん? もしかして「上物のゴミ」のことを言ってるのか? ババアよ……何もわかってないな。皆んなはもう、ただのゴミでもいいんじゃないか?と思い始めてるんだ。なんなら『俺のゴミ』が一番良いんじゃないか?とさえ思い始め────


 クソ……よくわかってるじゃないか……。


「ばんッ……んっ……ばんッばんッ……んっ……ば……んっ……」

 

 ババアは窓を開けてリボルバーを構えると、看板やら電柱やらに狙いを定め、撃ちまくっている。あと、何かやってる……。たぶんツンデレをやってる。危ないから撃鉄を戻せ……くそババア……。でも、なんだか可愛────



 ババアのツンデレなんて今はどうでもいい。アイツらが死んだことは俺しか知らないはずだ……。いや、ゴミも知ってるのか? もしかしたら妹も……。いや、待て……尼さんの話はもういい。

 俺が死ねばウィッチとガキ他は生き返る……。誰にも文句は言わせない。何がおかしいんだ? それがスマート儀式だぞ?


「記憶だよ」


ツンデレに飽きてしまったのか、ババアはお馴染みのかすれた声に戻っていた。


 記憶?


「お嬢ちゃんが死んだことを知ってるのは……あんただけじゃないはずだよ?」


「…………」


 ゴミと妹か?……ゴミと妹なんて急に出てきたぽっとでじゃないか、知ってるはずない……。

 いや、待て……妹?……。どこかでそんなフレーズがあった気がするぞ────


 ────叔母さん!! 


 セクシー女優の叔母さんは、お母さんの歳の離れた妹だったはずだ!! いや、違う……それだと無理があるから、もうウィッチさんがお母さんの妹ということにしたはず。ということはウィッチが死んだことをウィッチは知ってるということか?……でも、おかしいだろ? 自分が死んだことを自分が知ってるなんて……。

 もしかして、哲学的な話か? ん? 妹がウィッチ?……それだと、マズいことになる。お母さんがゴミということになる。いや、もうこの際、お母さんはゴミでいい……ややこしくなる。


 あとウィッチが死んだことを知ってるのは……ババア。いや、ババアは抜いたはずだぞ? あと他に知ってる奴はいるか?

 ────!? 役所の奴らか! でも、藪外で知ってるのはババアだけ……。奴ら藪中にいるのか? だとしても、見つけてバラしゃいいだけだ、なんなら藪ごと吹っ飛ばしちまえばいい、大した問題じゃない。

 

 クソ……ババアはいったい何の話をしているんだ? 記憶? アイツらのことか? アイツらが知ってたのはお母さんが「実はゴミ」ということだけだ……。

 いや、待て、妹もゴミの可能性────妹? そうだ! ウィッチさんは「上物のゴミ」の可能性があったはずだ!! 

 でも、だからなんなんだ? むしろ、お母さんが一番良いという話さえある……。


 クソ……複雑な要素が絡みすぎている。


 カオス理論か? 俺に解るはずないだろうが……。そんなもんは、国立大学を出た連中に任せとけ……。



「自分が死んだことを知ってるヤツなんていない……どうだろうねぇ? 死んでるうちは覚えちゃいないか……。でもねぇ、ちっちゃいお嬢ちゃんはどうだい? 自分が殺した人間のことは覚えてるんじゃあないかい?」


 ────!? 

 クソが……


「あんたの言うスマート儀式とやらで、お嬢ちゃんと、ちっちゃいお嬢ちゃんが生き返ったら……」


 矛盾が生まれちまう……


「他の連中だってそうだよ? お嬢ちゃんの頭が吹っ飛んで、ちっちゃいお嬢ちゃんが、あんたに撃ち殺されるのを見てたはずだろ?」


 どっちか……か……


「間違った手順で儀式を行っても何も起きやしない。あんたとあんたが殺したヤツらは無駄死にだねぇ……」


 どっちかっつったって……ウィッチ以外ねぇだろ?……


「いや、間違っちゃいないか、あそこで看取って貰えば……最後に死んだ……魚釣りが好きな坊や、あの坊やだけは生き返る……」


 ガキ他を藪から引きずり出して人目に晒す……そんで俺も死ねば…………


「イカれた殺人犯の出来上がり、お嬢ちゃんが生き返る……。お嬢ちゃんは幸せに暮らしましたとさ──めでたしめでたし──それで済むと思うかい?」


「ごちゃごちゃうるせぇんだよ! くそババア! 黙ってろ!」


「ああ……それから、大事なことを忘れるな? あたしはどうする?」


 そう言うと、ババアは「キッヒッヒ」とババアらしく笑った。





 暗すぎる……。


 用水路前まで戻ってきたが、既に心が折れかけている俺に、もう一度この獣道に入れと言うのか? ババアはいったい何がしたいんだ?


「ここに来たってもう無駄なんだろ? 結局てめぇをなんとかしないと、どうしようもねぇんだろ?」


「だったらその辺で、野垂れ死ねばいいよ……あたしゃ止めないよ?」


 クソ……


「そうもいかねぇんだよ……早く降りろ、くそババア」


 ババアが車を降りた隙を狙ってリボルバーを探したが……無い……。あのババア、どこ置きやがった……。

 窓の外を見るとババアが指に引っ掛けてクルクル回していた。クソ……どうやら、気に入っているようだ。


 車を降りると、藪の暗闇がいっそう不気味さを増したような気がする。さすがにまだ、釣り人の姿は見当たらないが、あと数時間もすれば用水路側の路肩には連中の車が並び始めるはずだ。


「じゃあ、あたしは先に行ってるよ」


 ────え?


「……いや、ちょっと待てババア……先に行くの?」

「なに? この格好で藪を歩けって言うのかい?」

「だって、あの池は反スピじゃねぇか……」


 ババアが首をかしげる。


「先に行ってるよ」

「ちょっと待て……」

「なに?」


 藪の暗闇がいっそう不気味さを増した気がする。


「向こうでひとりで待ってるのか? 俺が行くまでひとりで待ってるのか?」


 ババアが首をかしげる。


「なに? そんなに時間掛かるのかい? それなら、いったん家にでも帰ろ────」

「────いや、そんなに掛からない……帰らなくていい」


「じゃあ、先に行って待ってるから、すぐに来るんだよ」そう言い残して、ババアは消えた。


 藪の暗闇がいっそう不気味さを増した気がする。しんと静まり返った藪の前でひとり取り残されてしまった……。

 別に怖いわけじゃない。こちとらスピリチュアル界隈の住人だ。こんなもん怖いわけじゃない。真っ暗い藪の中で、五体の死体を引きずり回すタイプの人間だ。別に怖いわけじゃない。


 ただ、なんだか寂しいじゃないか……。たとえ、ババアとはいえ……。もう死ぬ気でいたところに水を差されて、またひとりにされたら……なんだか寂しいじゃないか……。


「この獣道をひとりで歩けと言うのか?」


 そういや……。昼間にも一度、死にかけたな……。


「なんでこんなことになっちまったんだ?」


 

 タバコを吹かしながら空を見上げると、方位天体が出ていることに気がついた。


「台風のこと……ババアに訊きそびれちまったな。もう、それどころじゃねぇか……」


 とにかく、ウィッチは生き返らせる……。

 後のことは……あんたに任すよ……。


「悪いね……ワンハンドレッド……」





「んじゃ、行こうかな?」


 なんだか寂しくてブツブツ独り言を言ってたが、あまり時間を掛けてババアに家に帰られるともっと寂しいと思い、いざ『俺達の獣道』に一歩踏み込むと、顔に蜘蛛の巣がまとわりついた。


 クソ……


「Hey, motherfuckin' G !! What should I do? 」




 スマホのライトを頼りに真っ暗い獣道を進んでくると、例のキン消し広場が見えてきた。月明かりが差し込んでいて、なんだか幻想的な雰囲気を醸し出している。よく見ると、広場の中央でババアがなにやらキョロキョロしながら突っ立っていた。
















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