レイクサイド・アブソリュートカオスとThe Auntie is Not An Old Lady.The Girl is Just A Girl③


 ガキの目線は俺の背後。たぶん、例のクソださ迷彩に焦点が合っている。左肩には相変わらずとんでもない力が加わっている。たぶん、振り返ったらやられる。


「このくそガキ、何回言えば気がすむんだ!! せめてセクシー女優だ。売春婦は言い過ぎだろうが!!」


「……どっちも一緒じゃないか……」


 一緒なわけねぇだろ。なに言い出してんだバカ。


「おい、ちょっと待てくそガキ。お前のそのヤツはアレだぞ? 各方面をディスることになるぞ? セクシー女優と売春婦が同じなわけないだろうが!! 叔母さんは売春婦じゃない、セクシー女優だ!! バカやろう!!」


 ガキは職業差別にも繋がりかねない発言をしておきながら、叔母さんがセクシー女優だろうが売春婦だろうが興味なさそうに黒いエナメルのローファーで足元の落ち葉をほじくっている。

 

「『ねぇ、叔母さんは……セクシー女優……』って誰のこと言ってんの?」


 背中越しに何か聞こえた。たぶん空耳ではない。間違いなく『ねぇ、叔母さんは……セクシー女優……』と聞こえた。何かのタイトルだろうか? だとしたら、かなりコアな趣味の方々向けのやつだ。


 叔母さんがセクシー女優? いや、待てよ?よく考えたらすごいなそれは……例えば、お母さんにすごく歳の離れた妹がいたとして……いや、もうこの際、あんたがお母さんの妹だとして……すごいなそれは。


 あれだろ? お盆休みに実家に帰省して来たイケイケの叔母さんがリビングのソファーで横になりながらスマホいじってるところにばったり出くわして、家族は皆んな墓参りに行っちゃってるわけだ。もちろん、俺は中学生だから墓参りなんて行かない。


 そしたら「あれ? ボクくん……。お墓参り行かなかったの?」つって、ボクと叔母さんの夏物語が始まるわけだ。


「叔母さん来てたんだ……」なんて言いながら俺はすぐに叔母さんの履いてる短パンがあまりにも短いことに気が付いてしまう。当然、叔母さんの剥き出しの太ももをチラチラ見てしまう。なんならソファーで横になってるもんだから短パンの隙間からお股まで見えてしま────いや、それは無理があるな……。さすがにお股剥き出しはヤバい。お股でちゃったらボクくんって感じじゃないしな。

 まぁいい。で、その叔母さん……というか、もうあんただよな。あんたがお母さんの妹ってことにしたもんな。あんたは実は東京でセクシー女優やってることを俺の婆ちゃんやお母さん、要はあんたのお母さんとお姉ちゃんには隠してる。もちろん、俺も知らない……今のところは。親父は婿養子だから蚊帳の外。爺ちゃんは墓の中だ。


 で、あんたは「ボクくん……。久しぶりだね」つってソファーにちょこんと座り直すと、少し日焼けした脚を何度も何度も組み換えたり、剥き出しの太ももをフルに使って俺を誘惑してくる。当然わざとだ。

 まさかあんたの隣に座るわけにはいかない俺はなんとなく床に座ってみるんだけど、目線の高さがむしろ……「♡もぉ大変♡」なことになってしまう。俺が少し取り乱しているとあんたはクスっと笑って「ねぇ……ボクくん……なんか暑い。クーラーのリモコンが無いんだけど……。叔母さん……暑くて汗かいちゃった」つって、汗ばんだTシャツの裾を引っ張って何故かおっぱいの辺りを見せつけてくる。よく見たらあんたのおっぱいが透けているわけだ。

 真っ白いTシャツを着て蒸し風呂みたいになったリビングに居たら当然そうなる。ひとの家でクーラーのリモコンが見当たらないときはどうしようもないからな。暑くても耐えるしかない。


「お、叔母さん。よくこんな暑いとこに居れたね……」なんて言って誤魔化しつつ、あんたのグリングリンに巻いた髪も、汗ばんだおでこにピッタリくっついてる前髪も……なんだかいい感じになってるもんだから、ボクくんの心に刺さってしまうわけだ。ボクくんの心に。


 んで、俺が「こ、ここにあるじゃん」なんて言いながらテーブルの上に置いてあったリモコンを渡そうとすると、あんたは「あ、ほんとだぁ。叔母さん目が悪いから見えなかったのぉ」つって、リモコンを持った俺の手を両手で握ってくる。驚いた俺は「ちょ、ちょっと叔母さん!?」なんて言いながら、あんたの手を払いのけようとしたはずみでおっぱいを弾いちゃう。

 で、あんたは当然「♡♡っっあん……ちょっと……もぉボクくん……」てなるよな? 

 俺は「ご、ごめん……叔母さん」なんて言いながら、少し潤んだ瞳を見せるあんたから目を晒し、手の甲に残るあんたのおっぱいの感触を頭に叩き込みつつ、逃げるようキッチンに行き冷蔵庫を開ける。

 麦茶を取り出しながら「クソ……なんでノーブラなんだよ」なんて呟くわけだ。


「ボクくん? なんか言った?」つって。

「え? いや別に?」つって。


 そんで、俺が麦茶をコップに注いでると「あたしも喉渇いちゃったょぉ。コーラないのぉ?」なんて聞かれるんだ。


 俺は「はい……麦茶」つって、あんたに麦茶を渡すんだけど、さっきのこともあってちょっと警戒してる俺にあんたは「もぉボクくん。大丈夫だよぉ。叔母さん何もしないからぁ」なんて言いつつ、コップから滴り落ちる水滴で太ももがびちゃびちゃになってる。もちろんわざとだよな? 

 あんたは太ももをわざとびちょびちょにしながら脚を組み換えてみたり「このクーラー効かないね?」なんて言いながらTシャツの裾をパタパタ煽ぎ始める。「……暑いょぉ……」なんて言いながら。俺は目のやり場に困ってテレビをつけるんだな。

 そんで、俺がテレビを観るフリをしていると、あんたは麦茶を飲むフリをしながら、ちょっとずつ唇の端から麦茶を溢しはじめる。


 どうなるかって? 


 唇から顎、顎から首筋、首筋から鎖骨と伝って流れ落ちる麦茶のせいで最終的におっぱいが大変なことになるんだよ。まっ白いTシャツだからな。それはそれは大変なことになる。


 で、まだあんたのおっぱいが大変なことになってるなんて気づいてない俺はなるべく平静を装ってテレビの方に視線を向けてるわけだけど、ワイドショーでやってる韓国アイドルが日本デビューなんて話よりもすぐ後ろにあるあんたの太ももの方が気になって仕方ないんだ。で、うっかり「叔母さん。いつまで居るの?」なんて言いながらあんたの方を振り返ってしまうわけだ。


 俺が中々振り返らないもんだから、もう既にコップ一杯分の麦茶を消費してしまったあんたは尋常じゃない状態になってる。しかも、あんたはなんだかニヤニヤしながら「ボクくん……。もぉ大変……びちょびちょ」つって、麦茶でグッチョグチョになったTシャツの中に手を入れてなにかやってる始末だ。


「ちょ、ちょっと叔母さん!? 何してんの!? タオル……タオル持ってくるから!」つって、俺は慌てて立ち上がる。


「クソ……ひとの家でいったい何をしてるんだよ……」なんて愚痴りながら洗面所にタオルを取りに行って戻って来くると────


「ボクくん? ここはあたしの実家だよ? 何したっていいでしょ?」なんて言われて「え? あ、あの……聞こえてたの?」ってなるんだ。


 で、俺がタオルを渡そうとするとあんたはTシャツを脱ぎはじめる。当然だよな? 

 そしたら当然「ちょ、ちょっと叔母さん!? なんで脱ぐんだよ!!」ってなる。


「ボクくん……冗談」つって。


「……あ、あたりまえだよ!! 何してんだよ。まったく」つって。


 で、あんたは「麦茶溢しちゃったから、もう一杯おねがぁぃ」なんて言い出す。

 俺は一瞬見えたあんたの生のおっぱいを頭に叩き込みつつ「クソ……実家だからって麦茶をあんなに溢していいわけないだろ……ま、まさか……また溢す気なんじゃないだろうな……いいかげんにしてくれよ」なんて呟きながら冷蔵庫を開けて─────



 すごいな……。なんか『ぼく夏』みたいだな。もういっそ『ぼくのなつやすみ〜♡もぉ大変♡東京でセクシー女優やってる叔母さんが実家に帰ってきちゃった編〜』で一作品書けるんじゃないか?



「あんたのことだろ?……ウィッチ・モンテカルロ」


 ────!?

 なにが?


 ガキは襟元の白いレースを整えながら、俺の背後へ視線を飛ばす。定期的に吹き付ける風に煽られた髪を鬱陶しそうに手で抑え、唇に絡んだ2、3本の白い髪の毛を抜き取る。


 クソ……なんの話だ? いまなんの話をしてたんだ? お前は落ち葉いじってたんじゃなかったか? ウィッチさんがセクシー女優って話でいいのか? おい、大丈夫だよな? ぼく夏でいいんだよな?


 クソ……!!


「いいかげんにしろ、このくそガキ! なんてこと言うんだ!? 早く謝れ!! お姉さんは素人だ!『謝れば許してくれる素人のお姉さん』だ」


「あんたが言い出したんだろう?……アンクル

B・B……」


 

 なにを? 俺はなにを言ったの? ん?待てよ?『謝れば許してくれる素人のお姉さん』ってすごいな……。




 










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