死闘


「正ちゃん、この状況どう思う? 」


「明らかに罠だね」


少年2人__正一しょういちごんが、研究所内部を駆けている。

この研究所の持ち主、怨寺おんじ博士を捕まえるためだ。


「だよな、内部に兵士がいないなんて。

下手な罠は無駄だって、思い知らせねぇとな」


「油断は禁物だよ、権ちゃん。

でも、何が狙いなんだろうね」


2人の表情には、自信がみなぎっていた。

或いは、自分達は何者にも負けないという、傲慢ごうまんと呼ぶべき精神の余裕が。


やがて、広い部屋に到着する。

そこは床も壁も白く、距離感きょりかんを掴む事が難しい造りをしている。


「よくやって来た、人類の敵。

"雷人らいじん"どもよ」


上空から、声が聞こえる。

2人が見上げると、白衣に身を包み、白い髭を蓄えた老人の姿が、ガラス越しにあった。


「お前が、怨寺おんじ博士か? 」


「いかにも。

人類反撃の糸口を見つける為、貴様等をサンプルとさせてもらうぞ」


博士の目の前が、一瞬光る。

そして、落雷のような激しい音。


「見たかね小林君!

今のが雷人種最大の特性、発電能力から来る放電攻撃じゃよ!! 」


博士は、激しく興奮して、小林助手の背中をバシバシ叩く。


「見てましたよ。

この距離じゃなきゃ、ガラス越しでも危なかったですね」


助手は、痛みに顔をしかめて応対している。


「サンプルだと?

そのひげむしられたくなきゃ、さっさと降りてこい ! 」


物騒ぶっそうじゃのう。

そんな口は、コイツを倒してから言うんじゃな」


博士がボタンを押すと、天井が開き、黄色い"鎧"を着た、人型の物体が落ちてくる。

その物体が地面に接触した時、地面は激しく揺れて、クレーターが出来る。


「なんだよ、コイツ……」


「権ちゃん、危ない! 」


正一が、権を突き飛ばす。

その横を、黄色い"鎧"が突っ切っていく。

そして、正一は"鎧"に弾かれて、壁に激突する。


「正ちゃん!

てめえ!! 」


権が、"鎧"に向かって全力のパンチを出す。


確かに、コイツは速い。

だが、亜音速の域には無い。

先程は不意を突かれたが、スピードなら自分が上だ、と権は確信していた。


それ自体は事実だった。

ただし、想定に反して、ダメージを受けたのは、殴りかかった権の方である。


亜音速で跳ね返り、壁に激突した権は、吐血して膝を突く。

息を調ととのえる暇もなく、追撃ついげきの体当たりをぶちかます"鎧"。

権は身をよじり、辛うじてかわした。


「どうかねワシの発明品、対雷人戦用鎧アンチサンダーマンアーマーの強さは? 」


「……分厚いゴムの鎧かよ、随分重そうなオモチャだな」


権は、口の中に溜まった血を吐き捨て、減らず口を叩く。


「そのオモチャに殺されぬよう、精々気を付けてくれるかのう。

ワシが欲しいのは、生きたサンプルなんじゃ」


対雷人戦用鎧アンチサンダーマンアーマー、瞬間最大秒速150mを記録!

雷人どもには2体とも、甚大じんだいなダメージを負わせられたものと思われます 」


小林助手が、忙しく指を動かして、複数の観測機器を動かしている。

貴重な実戦データ、これを記録しない訳にはいかないのだ。


「誰が甚大なダメージだって? 」


正一が、"鎧"の背後から飛びかかり、首を締めようとする。

しかし、全く苦しそうな様子には見えない。


「打撃や放電は、効果が薄いと見ての絞め技か。

無駄じゃ、肺に直接呼吸用の管をぶちこんでおるからの」


鎧は背後に倒れ混むことで、正一を潰そうとする。

けれども、正一は鎧の背中を蹴って距離をとり、挟まれるのを避ける。


「なら、関節を折るのはどうだ! 」


鎧が倒れた直後に、権が亜音速で接近し、脚に絡み付く。

そして全身を用いて、膝を砕きにかかる。


対する鎧は、脚を曲げて、上に振り上げる。

ただそれだけの動きで、権は5メートルは真上に跳ね上げられる。

難なく受け身を取ったものの、その表情には恐怖きょうふにじんでいる。


「その鎧の総重量は1t、着用者にはそれに耐えられる遺伝子改造を施しておる。

例えゾウと力比べをしても勝てるんじゃよ」


「あの化物ども相手に、優勢に戦っている……

勝てますよ、博士! 」


権の隣に、正一が移動する。

そして、腕をつねった。


「痛っ!

いきなり何すんだよ」


「恐怖に呑まれないで。

パワーはあっても、スピードはこっちが上。

冷静に戦えば、まだ勝ち目はある」


正一が鼓舞こぶしているが、権は気弱になっている。


「でも、こっちの攻撃が通じてないんだぞ。

あんなの、何したら勝てるんだよ? 」


山中流奥義やまなかりゅうおうぎ"球電砲きゅうでんほう"、あれを使うしかない」


正一は"鎧 "の顔面、正確には目のある辺りを指差す。


「あそこだけは視覚を確保するため、恐らくはガラスで覆われている。

球電砲をあそこに当てれば、ぶち抜ける筈だ」


「でも、あれは溜めの時間が長い。

その時間をどうやって稼ぐ? 」


「僕が稼ぐ、権ちゃんは信じて"球電砲"を完成させてくれ」


「……分かった、無茶しないでくれよ」


権は腰を落とし、右掌を広げて振りかぶった体勢になる。

そして正一は、"鎧"の気を引くべく牽制けんせいの放電を放つ。


怨寺おんじ博士、雷人右掌らいじんみぎてのひらの内部に高熱反応があります!

あれは一体……? 」


「あれは恐らく、落雷時に生じるとされる球電現象きゅうでんげんしょう……

即ち、大気のプラズマじゃろうな」


助手の求めに応じて、博士が解説する。


「球電現象の再現が可能などとは、想像できなんだわ。

興味深い、あのプラズマのデータをありったけの観測器具で分析しろ! 」


戦闘の決着が近付いていた。


鎧がプラズマの青い発光に気付き、それを妨害しようと権に接近を試みる。

だが、正一がガッチリと組み付いて、それを妨害ぼうがいしている。


「自分の筋肉に電流を流して、限界以上にパワーを引き出しておるな。

だが、長時間続けると筋肉が壊れる。

いつまで保つかのう? 」


鎧が正一の脇腹を殴って、引き剥がそうとしている。

正一は、決して離さない。


「オオオオ……! 」


正一が、叫ぶように気合いの声を出す。

1tもある鎧が、正一の力で浮き上がった。


鎧は地面に叩き付けられて、再び地響きが起こる。


「今だ、権ちゃん! 」


正一の合図に従って、権は掌を突き出し、プラズマ塊を放つ。


球電砲きゅうでんほう! 」


球電砲は狙い過たず、視覚を確保していたガラスに当たり、ブチ抜いた。

着用者は、激しく痙攣けいれんしているが、生きてはいるようだ。(続)

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