応援コメント

すべてのエピソードへの応援コメント

  • 第63話 当然だへの応援コメント

    あじさいさん、

    改めまして自己紹介させていただきます。イカワ ミヒロと申します。
    昨日は不躾なコメントに丁寧な回答をありがとうございました。

    62 話におけるジナンとハンナの行動はナーロッパ ルールに従っているのだろうとは考えていましたが、ナーロッパ ルールについて論じているこのお話の中で、ナーロッパ ルールにおいても極端な行動が横槍無しで展開していってしまうことに違和感を覚えたのです。
    アレンがいないので横やりを入れる人がいないのは理解できるのですが、「暴力を振るう」 -> 「暴力が諌められない」 -> 「暴力を謝らない」 -> 「うやむやにすることを『優しい』と評価する」ストーリーが無批判で提示されるのはなぜでしょうか。ジナンが短絡的で姉弟のことを理解しないまま手を出すのはわかります。しかし、姉弟の方がジナンという人間を知らないまま暴力を振るわれて、それでも彼を信頼する理由が見つかりません。姉弟とジナンの接点は前日に遊んだくらいですよね。しかも、遊んでいるときにはウェイウェイだった子どもたちが突然、貴族的な価値観で理性的に行動するのもびっくりしてしまいます。
    全体を視野に入れたストーリーとしては、ジナンと姉弟が遊ぶシーンで姉弟たちをもっと理性的な子供として描き、ジナンも何か人として信用に足る行動を取らせる。ジナンの暴力とハンナの対応はこのままとし、後で事情を知ったアレンが「暴力は振るわない」「なあなあにしない」と双方にお説教をする、という展開であれば矛盾なく読めるかな、と個人的には考えます。

    ともあれ、大変意欲的な作品をありがとうございます。ナーロッパ溢れるこの界隈で、知性と良心の感じられる作品に出会えて大変嬉しいです。最後まで楽しみに読ませていただきます。

    作者からの返信

     改めまして、あじさいです。

     ありがとうございます。本当にありがとうございます。
     お願いしておいて何なのですが、丁寧な長文のご意見を書いていただけて、大変嬉しいです。作品の問題点は、作者の立場だとどうしても把握しきれないので、非常に助かります。知性や良心をベタ褒めしていただけたのは、この作者にはもったいないことです。
     どんな場合も完全なコミュニケーションはないという考えなので、曖昧さを残す言い方をさせていただきますが、おっしゃりたいことと、本作『ようこそ、ナーロッパ劇団へ』の問題点が見えてきたように思います。結論から申しますと、本作特有の曖昧な状況設定が問題なのだと思います。

     本作の基本構造として、ナーロッパ劇団の役者たちが舞台演劇のリハーサルをしているという層(仮に役者層)と、物語のキャラたちがナーロッパ色の強い国で勉強したり冒険したりする層(仮にキャラ層)があります。役者はキャラを演じつつ、役者自身の視点でツッコミを入れ、それが終わるとまたキャラに戻ります。ご覧いただいている通り、役者層とキャラ層の境界が曖昧です。
     ただ、第1部までは比較的分かりやすかったと思います。キャラ層の物語は一般的なナーロッパ小説を基礎としていたので、ナーロッパによくあるお約束のパターン(テンプレ)に対して、役者たちがツッコミを入れていました。ただ、テンプレを採用し続けると同じ趣旨のツッコミを繰り返すことになりますし、ファンタジーにツッコミを入れるだけではどうしてもつまらなくなるので(ファンタジーに冷静なツッコミを入れるだけでは夢や幻想を壊すだけなので)、そこから一歩進めて「面白い物語」を作るために、本作はだんだんとナーロッパのテンプレから外れていきます。役者層の理屈で言うと、役者たちのツッコミを見ながら監督が軌道修正をし、それに影響されて役者たちもアイディアを持ち寄っています。ナーロッパ的でない独自要素は、実は第1部の序盤からいくらか入っていました。たとえば、魔法の設定が複雑だったり、主人公のアレンとサブキャラ(父のバーロン男爵やジナン、ローリィたち)との関係や距離感が一筋縄ではいかなかったりといったことです。第1部中盤になると、凶暴化した霊獣を治療する魔法を求める文脈で、魔法の設定が複雑なことが物語上の「困難」の1つとして立ち上がってきます。この段階になる頃には、ナーロッパ的な曖昧さやご都合主義がそれなりに駆逐されて、プロスペロ帝国がどういう世界で、魔法や社会がどういうものか、読者側のイメージも固まってきていたと思います。
     第2部に入ると、ナーロッパ小説のテンプレから本格的に外れ、本作独自の色が強くなります。というか、作者はそのつもりだったのですが、第63話までの時点でそれを上手く書けていなかったようです。たしかに、オールド博士や夜会のパートが役者層としての色が強かったので、急に深刻になって役者層を出さなくするというのは、無理があったかもしれません。

     時系列に沿って解説(あるいは言い訳を)しますと、ハンナたち4姉弟が夜に騒いでいたのは、同年代の貴族家の客人にテンションが上がっていたからです。このとき、ローリィはアレンたちから事情を聞いていますが、4姉弟は霊獣の凶暴化や黒幕のことを聞かされていないため、緊張感がありません。大学生の飲み会をイメージするとお分かりいただけると思いますが、いわゆるウェイ系の人たちも年中無休でウェイウェイ言っているわけではなく、大学入学前は受験勉強をしましたし、入学後も学期末には試験を受けてレポートを出しています。たまの機会に、場を盛り上げるために、ウェイウェイ騒いでいるだけです。辺境のカントリーエッジにもご近所付き合いはありますが、貴族で同年代の客人はめったに来ないので、この時点で姉弟にとってジナンとアレンは特別な存在であり、ぜひ親しくなりたい友人です。バンクスやセント=カタリナ、ウェストヒルズなどの話をたくさん聞きたいと思っていますし、ゴルトンの噂についても詳しく聞くつもりです。ウェイウェイ騒ぐのはジナンには逆効果なのですが、フリッツとセキアが騒ぎ続けているのは、自分たちが楽しいのに加え、ジナンとメイディアナ以外みんな楽しそうなのと、アレンが合流してからが本番だと思っているからです(リンゴジュースにアルコールに類する何かが入っていると仮定して、ジナンが酔うのを待っていると解釈してもらっても構いません)。ジナンはポチコと共に諸々の話ができる立場ですが、ウェイウェイ騒ぐ姉弟に真面目な話をする気になれません。当然、ジナンにとっては、ほぼ他人のまま夜が更けます。

     夜会の最中に警鐘が鳴り、ローリィがジナンと4姉弟を部屋に押し込め、ジナンが事情を軽く説明します。騒動が鎮圧された後、大人たちから町の様子を聞かされて、今が緊急事態なのを知ります。朝には、アレンが行方不明なのが、ローリィによって知らされます。4姉弟とジナンは別々の部屋に分けられた後、隙を見て部屋を抜け出し、ジナンを連れ出します。真面目に動くべき局面なので、ユーモアは忘れないにせよウェイ系のノリは無しです。4姉弟はジナンの色々な話や歌を聞いて(感覚としては同じ釜の飯を食って)距離感を詰めたつもりですし、何より人命が懸かっているため、アレンの捜索と救出に積極的です。もちろん、4姉弟にとってジナンとアレンがほぼ赤の他人というのも事実ですが、それでもここで助けようと動くのがこの4姉弟なのです。これは事実なので受け入れてもらうしかありません。それから、4姉弟は元々いたずら好きの問題児なので、年下の2人を中心に、人助けという大義名分を得て冒険心で動いている側面もあります(だからコニーはジナンの部屋に来るときニコニコしています)。グルーナー男爵と仲が良くないという部分は、一種の照れ隠しであり、実はあまり本質的な理由ではありません。
     ウェイ系の4姉弟が翌日いきなり善意の勇者になってびっくりしたのは、ジナンも同じです。ただ、以前から気配がなかったわけではありません。4姉弟は良くも悪くも両親(カールヴィル男爵夫妻)からの支配に抵抗感を抱えており、大人の言いなりになることを嫌っています。ハンナがピアスをしていたり、セキアがカツラの下でモヒカンだったりするのはそのためです。とはいえ、4人はただ欲望に忠実に生きているわけではなく、大人たちとは違う倫理観(あるいは信念、行動原理、軸)を持っています。逆に言うと、倫理意識が強いからこそ、大人たちから独立した選択をしたがり、時には明確に不服従の姿勢を取ります(大人は大人で、治安の悪い町で立法・行政・司法をやらねばならないので、清廉潔白でいることは難しいのですが)。4姉弟が倫理的に自堕落になっていない背景には、ローリィが度々やって来て家庭教師を務めることも影響しています。この意味で、実はジナンと4姉弟は似た者同士です。
     前回のコメントに対する返信でも「倫理(観)」という言葉を使ったので、堅苦しく感じられるかもしれませんが、ジナンとの関係でハンナが重視していることは、要するに「困っている人を助けること」と「約束を守ること」です。倫理的というより、義理堅いとか、筋(すじ)を通したがると言った方が近かったかもしれません。彼女が倫理を重んじる人間になったのは(庶民ではなく)貴族としての教育を受けたからですが、彼女自身は貴族だから倫理やプライドを大切にしているという意識はあまりなく、どちらかと言うと人として、当たり前に倫理を重んじています。この点は、冒険者ギルドやゴルトンなど事あるごとに「貴族(noble)」と口にするジナンとは違っています。

     ジナンがハンナを殴るシーンは、ナーロッパのテンプレやいわゆる「男女平等パンチ」(この言葉も問題含みですが)ではなく、本作の本筋の一部として書かれたものです。ジナンとハンナは純粋にキャラ層で衝突していますが、2人のキャラクター性を考えるとこの衝突は避けて通れないので、役者層からツッコミを入れて問題解決にすべきではないと判断しました。また、キャラ層に話を絞ったとき、この状況の2人が誰かの仲裁ですぐに仲直りすることはありえないとも考えています。
     地の文がないせいで伝わりにくいかもしれませんが、ジナンとハンナはビンタの場面から場所を変えた後も、ずっとわだかまりを残しています。2人はお互いに自分の非を自覚しているものの、相手の非の方が大きいと思っています。だから、協力関係を続けることになってもなお、どちらも謝っていませんし、お互いの言動を許してもいません。部分的に対立していても、目的のためには協力せねばならないという、ハンナは倫理観(義理堅さ)とプライドで、ジナンは主に必要性で動いています。うやむやにしているとか、なあなあの関係に見えるかもしれませんが、双方に甘えはなく、意地を張っているというのが近いです。この辺りが分かりにくく、第63話で2人がきれいさっぱり許し合っているように見えるとしたら、それは主にハンナが、表面的な協力関係のために刺々しい言動を我慢しているからです。分かりやすい敵が相手ならともかく、味方が相手となると不必要にギスギスしても仕方ないので、2人とも嫌悪感をむき出しにすることは避け、所々に皮肉を忍ばせる程度にしています。
    「お前たちは議論の行方を見ていてくれ。俺はアレンの手がかりを探す」
     と言ってこれ以上の協力を暗に拒否したジナンに対し、フリッツは言葉に詰まっていますが、その沈黙を待ってからハンナが、
    「ボージャックさんの話に出てこなかったってことは、父も他の大人も話題にしてないんじゃないかしら」
     と指摘するのは、優しさではなく、『あんた、バカか』ということを暗に言いたいためです。『誰も話題にしていないのに、土地勘も人脈もないあんたが、たった1人でどうやって探すつもりだ?』ということです。カーティスを訪れたハンナがジナンに殴られたと愚痴らないのも、ジナンを「私の友人なの」と紹介するのも、カーティスに自己紹介させるのではなくわざわざ自分がジナンに紹介するのも、再三言っている倫理的態度の表れではありますが、一種の嫌味でもあります。ただ、分かりにくい表現であり、読者に不親切なのは確かですし、反省しています。もう少し露骨に嫌味を言わせて、「友人」の部分には傍点を付けるべきだったかもしれません。検討します。
     ついでに言うと、仲直りできておらず気分がすっきりしていないジナンは、ハンナだけでなくカーティスたちにも八つ当たりしています。アレンのことで焦っているのは間違いないですが、この辺りは本当に幼稚ですね。

     頂いたご意見の中で、
    「姉弟の方がジナンという人間を知らないまま暴力を振るわれて、それでも彼を信頼する理由が見つかりません」
     とおっしゃっていただきましたが、姉弟の人助けとジナンへの信頼は関係ありません。ジナンが良い人だとか、信用できる相手だからアレンを助けるのに協力的なのではなく、この状況なら助けるのが当たり前だから動いています。ジナンがハンナを殴ったとき、他の姉弟はジナンを嫌悪するより、当事者であり最年長のハンナがどう対応するかを注視しています。コニーがハンナに抱きついたのはジナンがというより険悪な空気が怖かったからで、ケンカをやめてほしくて諫めた形です。怖さで言ったらハンナも本気で怒っていて怖いので、人が怖いならコニーが抱きつくのは兄のどちらかのはずです。それではケンカが止まないと分かっているため、勇気を出してハンナを説得しようとしました。結局、ハンナは協力の続行を選びましたし、エルフの一斉逮捕の懸念もあるので、フリッツ以下3人はハンナを引き留めたり、城に戻ったりするのではなく、町に残って情報収集を続けます。

     ハンナはジナンに対して言ったように、エルフの命とお金を天秤にかけることには倫理的な問題があると分かりつつ、大人たちを説得するためには仕方ないと思っています。いわば、巨悪を制するために悪に身を染めているような状況であり、ジナンがこの小さな「悪」を嫌悪する気持ちを一応は理解しています。ハンナはジナンの人柄をまだあまり知りませんが、ジナンが倫理的に潔癖なせいで殴ってきたことは分かるので(もちろん、ジナンが倫理的に潔癖というのは限定的な範囲の話ですが)、彼が完全に悪いわけではないと内心では思っています。フリッツとセキアがハンナに『どうしてこんな奴を助けるの?』と言わないのも、再三言っている人助けの理屈に加えて、この点が2人にも分かっているからです。ただ、ハンナとしては自分が「巨悪」の同類と思われたのも、いきなりビンタされたのも心外だという立場です。ハンナ自身、命をお金で測る大人たちが嫌いで、エルフの命を守るためにこの考え方を検討しただけなので、ジナンに責められたことが悔しく、もどかしく、(言葉が適切か分かりませんが)彼が潔癖を気取れることに一種の嫉妬を覚えている、と言えるかもしれません。
     一方のジナンは、ハンナが口にした考えを彼女自身の思想と思って、考える前に手を挙げました。命とお金を天秤にかけるのは、現代社会では割と当たり前に行われていることなので、瞬時に冷静さを失うほどの倫理的問題とは思えないかもしれませんが、(キャラ層の)ジナンにとっては極めて卑しく下劣な発想でした。旅に出発する前、亜人差別を否定しなかった彼がなぜ? と思われるかもしれませんが、元々奴隷制度が嫌いでルーラル伯爵を警戒していましたし、ゴルトンとカントリーエッジでの出来事を経て、ジナンの中で何かが変わりつつある可能性をあえて否定する必要もないでしょう。そういったわけで、ジナンの考えでは、先に悪いことをしたのはハンナです。
    「言っていいことと悪いことがあるぞ!」
     というのは、『殴られても仕方ないことをお前は言った』という意味です。この状況が厄介なのは、ハンナやフリッツが口で何を言っても、ほぼ他人のジナンには姉弟の実態が分からないということです。アレンの捜索と救出のために協力してくれることには感謝していますが、もしこの姉弟が人命軽視の損得勘定で動くような連中だとしたら――ジナンに協力しているのもグルーナー男爵を屈服させた魔道士アレンの政治的・経済的な価値のためにすぎないとしたら――、協力を拒否したいくらいの心境です。救出後に自分やアレンがどう扱われるか心配なのではなく、姉弟の動機がきれいではないことが嫌だからです。ここで合理的な判断に行かない(行けない)潔癖さがジナンの特徴であり、見る人によっては、ハンナとの精神年齢の差という話になるかもしれません。
     ビンタして言い争った時点で、ジナンはもう4姉弟の手助けを期待していませんし、協力関係はご破算だと思っています。ですが、その後、予想外にハンナから協力し続ける意志を示されると、彼女を見直すべきという気が起こり、罪悪感に駆られて謝りたくなります。良くも悪くも直感的に動いているので、相手に感情より理性を優先する態度を見せられると、自分も理性的であらねばという気になるのです。しかしながら、ハンナの態度が優しさや寛容さではなく倫理的な厳格さとプライドの高さによるものだと考えるからこそ、ジナンはハンナに謝れません。悪をもって巨悪を制するという理屈が分かっても、納得はできていませんし、ここで非を認められない頑固さもあるので、『倫理的に問題があるのは自分よりハンナじゃないのか』という思いがモヤモヤしているわけです。

     作者として無難な物語にするなら、そもそもハンナにこんな呟きをさせるべきではなかったでしょう。呟きをさせてもジナンにハンナを殴らせるべきではなかったでしょうし、ジナンがハンナを殴るならその場で暴力の非人道性を説くべきだったでしょう。それはご指摘を頂いた通りです。ただ、それをしてしまうと、ジナンとハンナのキャラクター性が歪み、それぞれの問題が簡素化され、2人が「良い子」の域を出なくなると思っています。ファンタジーにおいて、悪い大人に善良な子供が立ち向かう話は鉄板かもしれませんが、本作は実はそういう作品ではありません。親しく付き合ってきた人の中にも差別意識があり、善良だと思ってきた人にも不完全さがある。悪い大人にもそうなった事情があり、善意の子供も社会の悪意に毒されている。そういう世界をナーロッパ小説は書いてこなかったのではないか。無自覚な差別や暴力的な表現を避けるためには、そういう現実性に目を向けるべきなのではないか。この場面はそういう問題提起を含んでいます。役者やキャラだけでなく、読者の皆さんにもそれを考えてほしいのです。だから、非現実的に、簡単に場が収まるのではいけないのです。
     本作の傾向として、ツッコミどころがあればその場でツッコミを入れてきたわけですが、ジナンの暴力に対してアレン的なツッコミが入らない理由には、書く必要がないと判断したから、という部分もあります。貴族主義や亜人差別と同様に、この場合の暴力が倫理的にアウトなことはほぼ全ての読者が分かることであり、ツッコミがなくても役者層で(作品として)暴力を肯定しているのではなく、キャラ層の出来事として『これはさすがに……』と思ってもらえると考えていました。この場面を読んで、『いいぞ、ジナン、もっとやったれ!』と思う人などいないだろう、ということです(男女平等パンチが好きな読者は遅くともビキニアーマーの論争で脱落するはずだとも考えました)。ただ、今回ご意見を頂いたことで、これがそこまで自明のことではなかったと気付かされました。一般的なナーロッパ小説の傾向として暴力や体罰がそこまできちんと批判されていないことを認識していませんでしたし、ここまでにアレンたちやローリィが「敵」と戦闘を繰り広げてきたことから言っても、現行の書き方では、読者によっては暴力の肯定に見えるものなのかもしれません。実際、とっさの場面で暴力を振るった背景として、ジナンに普段から『時には暴力も必要』との考えがあった可能性は否定できませんし、これを支持してしまう人はたしかに一定数いそうです。
     これは本当にただの言い訳なのですが、実は、執筆中の段階ではバーロン男爵がジナンを殴る描写を入れ、そこと今回の場面を対応させることを考えていました。被虐待児のジナンの中に父と同じ暴力性が刷り込まれていて、ハンナを殴った彼は自分を正当化しつつ、内心は後悔と自己嫌悪でいっぱいになるという筋書きです。ですが、そうすると、児童虐待する親をアレンが止めなかったことになりますし、ジナン自身の暴力を父親に責任転嫁することにもなりかねません。また、先ほども言った通り、ナーロッパ小説で暴力や体罰を肯定している作品に覚えがなかったので(女性や子供が殴られるシーンがあっても否定的な描き方だったので)、児童虐待の描写は入れないことにしました。ただ、プロスペロ帝国周辺の世界観では暴力一般がダメだという意識が希薄なので(というか昭和までは日本もそうだったので)、アレン以外全員の傾向として、カッとなったとき暴力を振るいやすい状態です。その辺りのことにアレンが危うさを感じている描写くらいは、どうにかして入れるべきだったかもしれません。
     蛇足かもしれませんが、作者としてジナンの暴力を肯定する意図がないことは信じていただきたいです。もしそのつもりなら、ジナンに殴られた直後にハンナ自身が明確な形で謝罪するという筋書きにするのが効果的なはずですが、もちろん、そんなふざけたシナリオは考えもしませんでした。

     せっかくご意見を頂いたことですし、分かりにくい部分について検討し直したいと思います。ただ、役者層とキャラ層のこともそうですが、作品の構造自体が分かりにくさの原因になっていますし、上述したように曖昧さを全て排除するのも違うような気がしているので、結局あまり変えられないかもしれません。また、アレンやバーロン男爵が登場する別のシーンを改変することで、ジナンの暴力の異様さを浮き彫りにする方向になるかもしれません。

     この度は貴重なご意見を下さいまして、ありがとうございました。
     長文になりましたが、少しでも疑問に答えられていれば幸いです。

  • 第62話 どんな具合への応援コメント

    えっ、これだけ倫理を説いておいてビンタはどうなんでしょう……。しかも、ハンナ自身が反応せずに、弟が冷静に説明しているのも、そしてそれに耳を傾けない人物に協力を決意しているのも違和感を感じます。
    相手の理解できるロジックで説得を試みるのは、同じ土俵に立つということとは違うとハンナが説得すべきなのではないでしょうか。

    作者からの返信

     ご意見ありがとうございます。

     ビンタはダメです。当然です。ジナン自身が軽蔑していた父親のバーロン男爵が、何かあるたびに怒鳴り散らしていましたが、それを上回る暴挙です。
     作者の立場であまり語りすぎると良くないかもしれませんし、言い訳をするくらいなら作品内にきちんと描くべき話ではあるのですが、ジナンという少年は、アレンやポチコたちのリーダーとして振る舞っているから頼りがいがあるように見えるだけで、現代日本の倫理観からすると結構問題のある人物です(アレンやローリィにしたところで全く問題がないわけではありませんが)。
     ジナンはアレンと違い、亜人差別に対する問題意識も希薄ですし、教育を受けていない庶民を怠惰なバカ者だと見下しています。メタ的なパートではありますが、ビキニアーマーの件でアレンと論争したときも、主に論点をずらし続けていただけで、「分かった、考えを改めよう」とは最後まで言いませんでした。
     アレンが不完全とはいえ理論的根拠に基づいて倫理観を述べるのに対し、ジナンは良く言えば情熱的、悪く言えば、あくまで自分の好き嫌いや先入観、貴族としてのプライド・美徳といった感情的な部分を土台として、後付けでそれらしい理屈をこねがちです。また、議論の場で譲歩したように見えても、心では納得せず、(アレンから見て)前時代的な価値観を引きずっています。身近にアレンのような進歩主義者がいながらジナンが貴族としての立場や血筋にこだわり続けているのは、この辺りの偏狭さがあるからです。
     そのため、予想外にハンナがジナンの倫理観にそぐわないことを口走ったとき、倫理的判断より感情が先走って、暴力を振るったのです。ついでに言うと、多分に嫌悪感で殴ったくせに、理屈を口に出している内に自分を正当化してしまう頑固さのせいで、この状況でも謝るということをしません。「言っていいことと悪いことがあるぞ!」と叫んだと同時に、「やっていいことと悪いことがある」という罪悪感は吹き飛んでしまうのです。
     もし相手がアレンなら失望はしても殴らなかったでしょうし、ローリィ相手ならもっと謙虚になっていた可能性もあります。この場面でジナンがハンナに対してやたら強気なのは、彼がハンナたち姉弟のことをよく知らずそういう人間だと思ったからであり、アレンが行方不明で、隣にローリィもポチコもメイディアナもおらず、精神的に割とギリギリな状況だからです。13、14歳の少年としては妥当かもしれませんが、普段ノブレス・オブリージュを説いている貴族の次男としては、まだまだ未熟と言わねばなりません。

     ハンナがすぐに反応しなかったのは、ジナンのビンタがあまりにも予想外で理解が追いつかなかったからです。フリッツが姉に代わって弁明したのは沈黙が怖かったからであり、彼が冷静だったからではありません。フリッツは慌てています。
     反論を始めたハンナがすぐに引っ込んでしまうのは、妹のコニーが抱きついてきたからで、それで一旦冷静になります。とはいえ、集会の結論がまだ出ていませんし、長々と話し込むより他にやるべきことがある状況なので、その後は議論に発展していません。もしカールヴィル男爵を説得するとなれば他家のジナンの出る幕ではなく、4姉弟がやるしかないので、ハンナとしては(腹は立つにせよ)無理にジナンを説得する必要性は感じていません。

     この後、第63話でハンナがジナンに協力する姿勢を崩していないのは、彼女の価値観では、それが倫理的で、気高く、自分にふさわしい選択だからです。
     もちろん、現代日本の価値観なら、仲間の女に暴力を振るう男からはとりあえず逃げるべきですが、プロスペロ帝国の貴族として生きてきたハンナの価値観では、殴られてその場で約束を取り下げたのでは、どちらも感情に任せてケンカをしているに過ぎません。突然の暴力という感情的な拒絶に対しても、当初の人道的な目的(アレンの救出)のために協力し続けるという理性的な態度で応じるのが、彼女の流儀であり、プライドの示し方なのです。
     作中のナーロッパやプロスペロ帝国はキリスト教圏ではありませんし、キリスト教の「右の頬を打たれたら、左の頬をも差し出せ」ほど極端な話でもありませんが、ともかくハンナはこういう、昔かたぎとも観念的とも言える価値観で、ビンタされた後もジナンに協力します。これによってジナンに自分の至らなさを自覚させ、反省や謝罪を促すことが彼女の狙いかは微妙なところですが、否定はできないと言っておきましょう。
     ハンナの倫理観について本文中で解説していないのは、書かなくても伝わると作者が何となく思い込んでいたからです。元々説明不足で分かりにくい作品なので、肝心な部分には解説を入れた方が良かったかもしれません。検討させていただきます。

     この度はご意見を下さり、ありがとうございました。
     上記の弁明でご納得いただけていれば幸いですが、疑問が消えないようなら遠慮なくおっしゃってください。ご面倒かもしれませんが、こちらとしては指摘していただけた方が助かります。
     完璧な作品とは言えないかもしれませんが、せっかくですから、この先もお付き合いいただけると嬉しいです。

  • 第43話 ダメですへの応援コメント

    そしてそういう内容のアマチュア web 小説を選りすぐって出版する出版業界の意識の低さよ……涙

    作者からの返信

     本人が問題含みだと自覚しながら書いた表現であっても、出版社から書籍化やコミカライズを提案されたら、誘惑に勝つのは難しいでしょうからね。出版業界の方々には、やみくもに目先の利益に走るのではなく、自分たちが差別の扇動者になるかもしれないという緊張感を持って行動してほしいものです。

  • 第98話 サンキューなへの応援コメント

    コメント失礼します。
    下から52行目

     だが、ジナンは誰を見ても、まとりつくような焦燥感に苦しめられた。

    「まとわりつく」か「まといつく」か、どちらかを意図されたのだろうと思います。

    作者からの返信

     ありがとうございます。
     まさかこんなところにミスがあるとは思いませんでした。本当に助かりました。

     おっしゃるとおり、ここは「まとわりつく」が正しいです。辞書的には「まといつく」、「まつわりつく」でも意味は変わらないようですが、本文のこの部分は「まとわりつく」です。
     ミスしておいて言うことでもないですが、

    「だが、ジナンは誰を見ても、まとわりつくような焦燥感に苦しめられた」

     この表現が大事です。

     ご指摘くださり、ありがとうございます。

  • 「そういうパターンもあります」てw

    作者からの返信

     主人公の転生・転移後の能力を神様・女神様が適当に見繕った(と解釈できる)作品としては、アニメ化された『転生したらスライムだった件』、『幼女戦記』、『私、能力は平均値でって言ったよね!』、『神達に拾われた男』、『転生賢者の異世界ライフ ~第二の職業を得て、世界最強になりました~』、コミカライズされた『実は俺、最強でした?』、『村人転生 最強のスローライフ』などがあります。
     決して多数派ではありませんし、作品によって微妙な差異もありますが、「そういうパータン」とまとめてしまって良いと思います。

     もちろん、異世界ファンタジーで女神様が「そういうパータンもよくありますから」と口にしてしまうのは、メタ発言もいいところですけども(笑)

     ナーロッパ作品はテンプレを追うことで「何となく」で読めてしまう軽さが売りなわけですが、そうは言いつつ、主人公が異世界に行く流れとチート能力が付与される理由付けは、作品によって結構違っています。
     神様・女神様の案内がなかったり、チート能力の付与にこれといった理由がなかったりする作品も多いですが(むしろその方が多いくらいですが)、そういう作品にはどうしても、「なぜ主人公だけ?」という疑念が付きまとって、無双シーンが映えにくくなります。それでもカッコよく描くためには、主人公個人の資質と結びつけた工夫があった方が良いはずです。
     説得力の点だけ考えるなら、神様・女神様が何か理由をつけて「主人公にだけ特別な力を与える」と宣言してくれた方が良いのですが、主人公が具体的な要望を出す場合、本作でも触れたとおり、「転生先の魔法の相場や、長所・短所が分からないから、何をお願いすべきか決められない」状態に陥ります。ここで世界観の説明をするという手もありますが、神様・女神様による説明であるからにはいい加減なものであってはならない一方、行ってもいない異世界の説明が長くなりすぎると読者が退屈してしまいます。
     結局のところ、転生先の世界のことをよく知っている神様・女神様が「適当に見繕う」のが、実はいちばん良いのではないかということで、本作ではこういう流れになりました。

    編集済
  • 続けてのコメント失礼します。
    上から44行目(だと思いますが)

    深刻な技術漏洩にはならない

    のところ、「ろうえい」のフリガナが「技術漏洩」全体にかかっていますが、これでよろしいのでしょうか?

    作者からの返信

    こちらもありがとうございます。
    修正しました。

    今朝のチェックで気付いていたんですが、他にも調整すべき箇所が多いから時間のある時にまとめて、と思っていたら直し忘れました。
    やっぱりその場で直さないとダメですね。
    大変失礼を致しました。

  • 第68話 と言われましてもへの応援コメント

    コメント失礼します。
    上から10行目

    大多数のヒューマンは、そもそも何の魔法を使えないのですから。

    「何の魔法を」ではなく「何の魔法も」ではないでしょうか。
    それか「何の」自体が不要かと思います。

    作者からの返信

    ありがとうございます。
    さっそく修正しました。

    大事な場面なのに、すみませんでした。

  • 第3話 すみませんでしたへの応援コメント

    こんにちは。鈴木彼方でございます。いろいろ読んでいただきありがとうございました!

    この作品、めちゃくちゃおもしろいですね。構造も筆致も素晴らしい。会話のテンポが最高で、その内容もすごく楽しいです。非常に気に入りました。パロディという骨格にしっかりと必要な肉がついている感じで、ただただ感嘆するばかり。続きもじっくり拝読していきたいと思いますっ。

    作者からの返信

     ありがとうございます。
     こちらの予想以上に好き嫌いが分かれる作品のようで、まだまだ低空飛行をしていますが、こんなにも評価していただけて嬉しいです。ご覧いただいたとおりの作風なので、やたら文字数が多い作品ですが、その分色々詰め込んであるので、この後の展開もお楽しみいただければ幸いです。

  • 第3話 すみませんでしたへの応援コメント

    こんにちは。初めて訪問させてもらいます。
    目の付け所が面白い作品ですね。
    続きが気になるので、また読みに伺います。
    時間があれば、拙作も読みに訪問してください。

    作者からの返信

     ありがとうございます。
     こんな作品を書いていることですし、プロフィール欄にも書いているとおり、僕が読ませていただくと応援コメントと言いつつ批判的な内容が長くなる場合も多いのですが、それでも良ければ読ませていただきます。

  • コメント失礼いたします。
    ルーラル伯爵とアレンが対面した後の文章で、察するにkとjのキーがとなりあっているので、不要なjが入ってしまったのだと思いますが、

    >その後、サアラと初対面の貴族たちが、自己紹介をしてkじゃら彼女の結婚を祝福した。

    誤字の指摘だけのコメントですので、お見苦しければ修正後に削除していただけると助かります。

    作者からの返信

     あー、本当ですね!
     ありがとうございます。大変失礼しました。
     
     いつも読んでくださって、ありがとうございます。
     エッセイの方にもありがとうございます。そちらにはまた改めてお返事させていただきます。