分離世界の英雄譚

種子島 蒼海

プロローグ

第0話 戦禍と絶望

 雨の中の戦場、そこにはいたるところに人や獣の死骸、機械の残骸が転がっていた。

 未だ戦闘が続いているのだろう、そこかしこから爆発音や怒号が聞こえ、そんな中を恐るべき速さで疾走する何かがあった。

 それは大きな狼の姿をしており、その背には一人の男が乗り、男の顔は焦燥感に満ちていた。


「急げコウルキウス!このままでは間に合わない!」


『御意!』

 

 狼は自身の上に乗る主の命を受け、速度を更に増し戦場を駆け抜ける。

 すると男達の前に待ち伏せをしていたかのように、数千に及ぶ異形の軍勢が立ちはだかる。

 その軍勢の姿を確認した男は、忌々しげに顔を歪めて「チッ」と舌打ちをする。


「足止めか、……忌々しい。」


 主の発言を聞いた大狼は意を決し、主に進言する


『主、ここは私めにお任せください。』


 大狼の進言に男は一瞬の逡巡の後に口を開く


「任せた、……死ぬなよ。」


『御意、血路を開きます!巻き込まれぬようお気をつけ下さい』


 狼の発言を受け、男は狼から降りてそのまま異形の軍に向かって駆け出す。

 すると、大狼がその巨大な口を大きく開き、次の瞬間


「―――。」


 音に聞こえぬほどの咆哮、という名の魔力の塊が異形の軍勢の中央を貫く。

 貫かれた軍勢の中央には巨大な穴が開き、男は巨大な穴という道を疾走する。

 大狼は主が走り抜けていく姿を目で追いながら


『主、ご武運を』

 

そう言った直後、異形の軍勢が狼めがけて砲撃の雨を降らせる。

 狼もこれに応戦し、放たれた砲撃の雨をかいくぐり次々と異形の者達をほふっていく。


『この狼王コウルキウスの命、そう簡単に取れると思うなよ!」

 

~~~~~


 大狼の助力を受け、男が異形の軍勢の足止めを突破してから数分、男は信じられないものを目にしていた。

 それは男の戦友である鎧姿の巨人の姿であった。

 その巨人は体中に槍や剣等が槍衾のように刺さっており、息も絶え絶えという状態であった。


「ガンキ、お前、その姿は……」


「おお狼皇か、ゴホッ……しくじってしまったわ、私のことはもうよい、姫のところへ急げ」


 自分はもう長くないから捨て置いて先に行け、巨人は言外にそう言うが、男にとってその言葉は受け入れられるものではなかった。


「しかし!」


「私はもうダメだ、助からん、……せめて姫だけでも……ゴホッ、ゴ。」

 

 巨人は男に何かを託そうと必死の思いで言葉を発する。


「わかった!わかったからもう喋るな!」


「頼んだぞ……」


 巨人はそう言うと、動かなくなり、男は拳を強く握り、眉間にしわを寄せ「クソッ」と発すると、巨人をその場に置いて再び戦場を駆ける。

 

「……ガンキまでも、急がねば」

 

 男は風の魔法を使い、走る速度を上げる。

 すると男の周りにいる精霊達が騒いでいるのがわかった。

 このままでは巫女が危ない、だから急いで、男には精霊の言葉は分からなかったが、精霊達が男に何を伝えようとしているのかははっきりと伝わっていた。

 だから男は急ぐ、間に合えと、そのためならば命を捨てると、だから間に合ってくれと。

 男の祈りが通じたのか、男の目に女性の姿が映る。

 

――間違えようがない、あいつだ!


 女性の姿を確認した男は更に走る速度を上げ、女性の名を叫ぶ


 「――――!!。」


 男の声が聞こえたのか女性は振り向き、男に笑顔を向ける。

 女性の笑顔を見て男は安堵する。

 しかしその直後、女性は倒れ地に伏した……。

 

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