第13話 マナと魔力

「魔法……、ですか。」


 雫の魔法という言葉に楓は拍子抜けする。魔力についての説明は既にジンから聞いており、魔法がどういうものであるのかは想像がついていたため、今更聞く必要があるのか?と思ったからだ。


「そう、魔法のこと、魔力については、ジン君から簡単な説明があったみたいだけど、確認のためにもう一度説明するね。」


 雫は一度コホンと咳払いをする。


「魔法って言うのは、マナを知覚し、マナを体内に吸収し魔力に変換、体内にして蓄積して始めて使えるものなんだけど、これって実はある手順を踏んでマナの知覚さえできるようになれば、世界中の誰もが使えるようになるものなの。」


 「誰でも使える」という言葉を聞いて、魔力の取得を諦めていた楓に、だったらなんで俺には教えないんだ、という苛立ちと、なぜそんなに便利な力を秘匿しているだ?という疑問が浮かぶ。

 

「なんでそんな便利な力を隠してるんだ?って思ったでしょ。だけどね、これにはちゃんと理由があるの。魔法の元になる魔力、魔力の元になるマナ、このマナの存在が魔法や魔力の存在を秘匿している最大の理由なんだけど……。楓君たちはマナについてどこまで知ってる?」


「自然界に存在している見えないエネルギーとしか聞いていませんけど。」


 不機嫌にそうに楓が答えると、雫呆はれた様子でジンを見る。


「ジン君……、魔力の説明するときには、秘匿の根幹に関わるマナの説明もちゃんとしないとダメって言われているでしょ。」


「俺は説明が苦手なんだよ!」


 雫は気まずそうにするジンに「まったく。」と言いながら続ける


「確かにジン君の説明は間違ってはいないけど、ジン君の説明には一番重要なことが抜けてるわ。マナって言うのはね、この世界すべての魂を構成する非常に重要な物質なの。しかも、マナは無限にあるものではなくて、世界各地にある「聖地」っていう場所から放出されているものなんだけど、この放出量は常に一定量しか放出されていなくて、今は世界を覆う位には足りているのだけど、もし世界中の人間が魔法を使ってしまうとすぐにマナ供給量が足りなくなってしまう。……マナが足りなくなるとどうなると思う?」


「「魂が作られなくなる(なっちゃう!)。」」


「その通り、魂の構成要素であるマナが足りなくなるといことは、この地球の全生物の絶滅に直結することなの、だからマナや魔力、魔法については秘匿、管理されているの。二人ともマナの重要性、分かった?」


 マナの重要性、それを理解していく内に、楓の苛立ちと疑問は納得という形で消えていく。


「「分かりました」」


 神樹姉弟の返答を聞き、雫の雰囲気が元の柔和なものになる。


「よろしい。で、ここからが本題なんだけど二人とも、魔法使いにならない?もちろん、拒否することもできるわ。」


 急な提案に楓は困惑する。 


「だけど、さっき言ったじゃないですかマナが足りなくなると世界滅亡に直結するって……。」


「それは、資格のない人達にむやみやたらに教えてしまったらって話。楓君達には資格があるわ。」


「資格っていうのはなんですか?」


「一つは氣のことを理解しコントロールできること、もう一つはマナを知覚できること、この内のどちらか一つに該当していれば資格ありとみなされるわ。」


 一度はあきらめた魔力の習得ができる。楓はこのチャンスに静かに喜び、決意する。


「俺は、魔法が使えるようになりたいです。」


 楓の返答に雫は笑顔で答える。


「よろしい!、それじゃあ早速、魔法習得と行きましょう!」


 雫が楓の返答のみを聞き、話を進めていくため、自分のことが忘れられていると思った紅葉が「はい!はーい!」と手を上げて自己主張する。


「雫先輩、私は!、私はなにも言ってないんですけど~。」


 紅葉の自己主張に雫は可愛いな〜、と思いつつ、つい嗜虐心がそそられ、紅葉にいたずらっ子のような笑みをむける


「紅葉ちゃんはね~、問答無用で強制参加♡」


「なんでですか!抗議する!、抗議します~!」


 紅葉が不満をあらわにし、ジタバタと暴れ始める。楓は子供かお前は、と思いながらも、なぜ紅葉が強制参加なのかと考えたが、雫の問答無用という発言から、なにか言えない事情があるのだろうと結論づけ、暴れる紅葉を小さな子供をさとすように言う。


「紅葉は魔法覚えたくないか?」


「うう~、覚えたい!」


「じゃあ別にいいじゃないか。」


「……うん。」


 そう言って紅葉は暴れることをやめる。すると雫が楓に向かってありがとう、という意味を込めたウィンクをする。

 楓は少しイラっとしながら、この人こんな人だったっけ、と疑問に思うが、これが素なんだろうと結論付ける。

 話がまとまったところで、先ほどまでずっと本を読んでいた栞が、パタリと本を閉じ、不満そうに雫の方を向く

 

「ところで雫、私を呼んだ意味ある?」


「栞にはこれから活躍してもらうから、もうちょっと付き合って」


 お願い!と栞に頼み込む雫その姿には、今までの令嬢然とした姿はなく、年相応の女の子という雰囲気があった。栞と雫のやり取りを見ていた楓は、こっちのほうがいいな、と雫への好感度を静かに上げる。


「分かったわ、待ってあげる。」


「ありがと〜栞。」


 そう言いながら栞に抱きついた雫は、楓達の視線に気付き、恥ずかしそうに頬を染めながらコホンと咳払いする。


「そっそれじゃあ、魔法の習得と行きましょう。場所は武闘館にしましょう、もう申請はしてあります。」


 武闘館というのは、双武学園にある施設で、主に校内の武闘大会等で使用されるとても大きな武道場であり、事前に申請を出しておけば誰でも使用できる場所となっている。


「武闘館、そんなに広い場所が必要なんですか?」


「念のためね、もしなにかあった時は広い方が対応しやすいの。」


 不穏なことを口にする雫に不安を覚えつつも、神樹姉弟達は武闘館に向かうのであった。

  

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