第3話 ゴブリンとの死闘

 ――10年後……。



「――オラッ、くたばりやがれぇええええっ‼」


 ――ビュッ‼ ――ヒラリッ‼ ――スカッ‼


「なっ⁉」


 ――ガキッ!


 銅製の古びた剣が地面へと叩きつけられる。


 上段から勢いよく振り下ろしたチャモア渾身の一撃を後ろへ下がるスウェーバックすることでヒラリと躱したかと思えば、今度はその反動を利用して一気にチャモアへと襲いかかってくる。


「ギャルゥッ‼」


 完全に隙を突かれた感じも、剣を振り回した反動で大きく体勢を崩してしまったチャモアには最早為す術がなく、


「し、しま――」


 やられる! そう覚悟したのか、チャモアがギュッと目をつぶった瞬間、


「――あ、あぶない、チャモアッ‼ ――くっ、や、ヤァアアアアッ‼」


 ――ドンッ!


「――ギゥガァッ⁉」


 仲間の窮地を前に、いささかの躊躇も無ければ、僕は自らの体を使って体当たりタックルをかまし、どうにかこうにか相手を弾き飛ばすことに成功する。

 正直、こんな戦法が実戦でそうそう通じるとも考えにくいが、ソレ以上に今回の敵が小柄だったということも幸いして、僕くらいの体当たりタックルでも十分な威力を発揮した。


 とはいえ、こんな程度の攻撃で相手が倒れるなんてことは勿論、怯むわけもなく、


「グガギャググガッ‼」


 むしろ、怒りとも呻きともつかない声を上げすぐさま体勢を立て直すや、憤然とコチラを睨みつけている。


 そう、僕らが対峙しているのは、人ならざる存在……。

 ドス黒い緑色の体躯に、僕ら人種に比べても些か小柄な怪物モンスター……。ゴブリンの姿がそこにはあった。


「ち、チャモア、大丈夫? 怪我とかはしてない?」


 自らの剣を構えつつも決してゴブリンから視線を外すことなく、倒れ込んでいる仲間の下へ近づくなり、チャモアに声をかけてみるも、


「う、ウッセー‼ せ、せっかく俺があのヤローを始末してやろうとしてたってのに、肝心な時に邪魔しやがってっ‼ テメーのせいで仕留めそこなったじゃねーかよっ‼ どーしてくれんだよっ⁉」

「えぇっ⁉ あ、そ、その……」

「ホントにそうよ。せっかくチャモアの必殺技がこれから炸裂しようって時に余計な真似してくれちゃって」

「サイテーェ~、そうまでして自分の見せ場を作りたいわけぇ?」


 良かれと思ってやったことが、よもやの非難轟轟……。他のメンバーからも僕への苦情が殺到してきて……。


「うぅ、ご、ゴメン……。これから、気を付けるようにするから……」


 すると、起き上がったチャモアが何を思ったのか僕の鎧の奥襟へと手をかけてきたかと思えば、


「へ? ち、チャモア? い、一体、な、何を?」

「ケッ、ホントに悪いと思ってんならよぉ~、それ相応の誠意ってモンをみせて貰おうじゃねーか? なぁ、お前らもそう思うよな?」


 薄ら笑いとともに僕の体をひいて大きくのけぞらしたかと思えば、次の刹那、その遠心力でもってあろうことか僕をゴブリン目掛けて放り投げた。


「ホ~~~ラ、よっとぉっ♪」


 ――ブンッ‼


「――う、うわぁあああああああああああああああっ⁉」

「グギッ⁉」


 チャモアのこの余りに意表を突いた行動はゴブリンにとっても想定外の事だったようで……。僕を躱すことには成功したものの、すぐには状況が追い付いていないのかその表情には明らかな動揺の色が窺えた。


 と、ソレをいいことに、


「よぉ~~~っし、ホラ、お前ら、ココはリックに任せてさっさとズらかるぞ♪」

「ハ~~イ♪」

「異議なしぃ」


 そんな声がしたかと思えば仲間たちはクルリと体を翻すなり、ダンジョンの出口に向かって一気呵成に走り出していく。


「え? う、嘘でしょ? そ、そんなっ⁉ み、みんな、ま、待って……‼」


 そんな僕の声も虚しく、あっという間に仲間たちは戦線を離脱していってしまった。


 結局、この場に残されたのは僕とゴブリン、一人と一匹のみ……。


「グギャバババ♪」


 まるでボクを嘲るかのように声を上げるゴブリン。


「くっ‼」


 すぐさま起き上がり改めて剣を握りなおしていく。


 正直、僕一人で勝ち切る自信なんてなかったけど……。とはいえ、こうなってしまった以上は、僕一人で何とかするしかない。出来なければ死ぬしかないのだからっ……‼


 …………死ぬ? ……――い、嫌だ‼ こ、こんなところで死んでたまるかっ‼


 次の瞬間、雄叫びと共に僕はゴブリンに向かって走り出していた。別に勝算があったわけでもない。ただ、身体が動くうちに走り出しただけだ……。そう、溢れ出す死の恐怖に完全に身体を支配される前に……。


「ギュギャゴゲエェエエエッ‼」

「くっ、う、うぉおおおおおおおおおおおおおっ‼」


 こうして、ここから約一時間近くにわたっての僕とゴブリンの互いの生命を懸けた死闘の幕が切って落とされていった。

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