第28話 久しぶりの我が家

「おかえりなさい桜子ちゃん!」

父親の栄一えいいちに出迎えられた。


 ちょっとウザいが父の日を雑にした罪悪感から素直に対応する。


「おかえり桜子」

「ただいま、お父さん、お母さん。お祖母様とお祖父様は?」

「桜子が帰ってくるから予定を入れたくないと言っていたんだけど断れない会食が入ってしまったそうだよ」


「2人とも残念そうに出かけたよ。桜子ちゃんとコバたんはお風呂に入ってきたらどうだい、外は暑かっただろう?汗を流してさっぱりしておいで」


 お土産のB級グルメで祖母とひと盛り上がりしたかったが不在では仕方ない、お風呂で疲れを癒すとしよう。


 実家のお風呂は快適だった。浦和の家の檜のお風呂は桜子のお気に入りなのだ。


 お風呂からあがって髪を乾かしていると眠くなってきた。朝が早かったし、はしゃぎ過ぎて疲れていた。桂子かつらこを待ちたかったが睡魔に負けて眠ってしまった。



 翌日は両親と祖父母と一緒に自宅から近い有名なカキ氷のお店に来た。

「コバたんは練乳氷のマスカルポーネのクリーム掛けに白玉とバニラアイスのトッピングでいいの?」

「クポー!」

 このお店では必ず頼むお気に入りの白い組み合わせだ。


「私はレモンチーズにするわ!」

 全体に甘酸っぱいレモンピューレが掛かり、中に濃厚なレモンクリームとレモンムースが入った夏に人気の甘酸っぱいメニューだ。


 両親と祖父は抹茶とかほうじ茶の伝統的なメニューが好きらしい。


「お祖母様のラムレーズン氷ってお酒?」

「そうよ、目の前でフランベしてくれるって聞いて楽しみにしてきたの」


 ラムレーズン氷はめっちゃ燃えた。

青白い炎が眩しく、コバたんが桜子に抱きついて可愛い。


「美味しい…このお店のカキ氷をいただくと夏がきたって感じるわ」

「夜は鰻だよ」


 うなぎの蒲焼は浜松でもなく、名古屋でもなく浦和から始まったのだ。

 この辺りは鰻の獲れる沼地が多く、古くから食べられており、浦和には美味しいうなぎ屋がたくさんある。

 駅前には鰻のゆるキャラ、ウーナちゃんの石像が設置されている。


「コバたんには白焼きを用意しようね」

「クポッ」

 栄一えいいちはコバたんが心を許す数少ないオスだ。



 江戸時代、味の良さが評判を呼び、中山道を行き来する人たちがわざわざ足を運んだ浦和の鰻は桜子が特に自慢に思う地元のグルメだ。うなぎの蒲焼という二百年来の伝統の味は今日も美味しかった。

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