第16話 御所での殿下

「今日、桜子をカレー愛好会に誘ったんですが辞退されてしまいましたよ」

「ないとは思うが無理に誘ったりはしていないだろうね」


 上皇様の顔色が悪い。

桜子が不快に思ったら妹の桂子かつらこが乗り込んで来るのは間違いない。歳の離れた妹の桂子かつらこは可愛いが元気すぎるのだ。溺愛している妹に会いたいが怒られるのは怖いらしい。


「いいえ、お試し入会を勧めてみただけですよ。コバたんの反対で辞退すると言われてしまったので、入会はせずともたまに遊びに来るよう勧めました」

「うん…いい距離感だと思うよ」

安堵を隠しきれない上皇様。


 上皇様と10歳ほど歳の離れた桂子かつらこは赤ちゃんの頃から素直で可愛らしく自慢の妹だったが、歩き始めると家族の問題児になった。悪いことはしないが好奇心が旺盛すぎて元気すぎたのだ。


 元気すぎるので乳母を数人雇った。乳母たちは1時間交代で勤務したが、交代時間にはヘトヘトになっていた。

 上皇様も遊び相手になったが、ずっと付き合うことは出来なかった。桂子が元気すぎて30分でギブアップだ。


「眠くなると大人しくて可愛かったんだよ。ベッドで眠るよう勧めると “抱っこがいい” とグズってね。元気な時も私が学校から帰ると走って出迎えてくれてね、それはもう可愛くてね」


 祖父の話を聞きながら桂子かつらこも桜子も、老衰で亡くなった愛犬の縞子を彷彿とさせるな…と思う皇太子だった。



 ニコニコと桂子かつらこの思い出を語る上皇様は、今も変わらず桂子かつらこを溺愛しており、桂子かつらこに生き写しの桜子のことも可愛がっている。


 桂子かつらこは大和学園を卒業と同時に武蔵領に降嫁した学生結婚だったが、当時まだ皇太子だった上皇様が桂子かつらこの結婚に大反対したのは有名な話だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る