第22話 トイレの長さは〇〇に比例するのかもしれない

柚葉と美結の衝撃的なダブル告白を受けてから1週間。俺はまたトイレにこもっていた。柚葉も美結も初めは気まずそうにしていたが、3日もすればいつも通りの2人に戻っていた。そして俺のトイレ時間はいつもよりも大幅に長くなったのだった。

「おにーちゃん、いくらなんでも長すぎない?」

いつもより一段と長い間トイレから出てこない俺を心配してか、柚葉が扉越しに声をかけてきた。

「大丈夫。ちょっと出にくいだけだ。」

「ゆずが大丈夫じゃないのっ!もうっ!また今日もトイレ行かずに学校行かなきゃいけないじゃん。朝から占領しないでって何回言ったら分かるんだか。」

「悪い。でもまだ出られそうにない。」

「はぁー。その調子じゃ告白の返事もまだ出せそうにないんでしょーね。」

図星だった。

「い、いいから早く学校行けよ。遅れるぞ。」

俺が最近なかなかトイレから出られない原因がこれだ。トイレという完全個室、他者の目を完全に遮断する完璧なプライベートゾーンに入ってしまうと、この前の告白が頭をよぎって思うようにトイレが捗らない。どうもあれやこれやと考えを巡らせてしまい、余計に長くなってしまうのだ。俺にトイレを占領されたくないのならあんな告白しないでくれ。そう思ったが柚葉本人に言えるはずもなく…

「あー、ほんと、どうしたもんかなあ。」

自然とそんな言葉が出てきてしまうほど俺は途方に暮れていた。2人からの告白が嫌だったわけではない。いや、むしろ本当に嬉しかった。夜中にひとり自分の部屋で布団に埋もれながら気持ち悪くニヤニヤを繰り返すくらいには嬉しかった。美結も可愛いし昔から仲良くしてくれている。柚葉もルックスは完璧で兄の俺がみても可愛いとは思う。だが、付き合うとなると話は別だ。美結のことを可愛いとは思うが、それが好きという気持ちなのかどうかは今でもいまいちよく分からない。柚葉にいたっては妹だ。兄と妹のカップルがどこにいるというんだ。はたから見たら気持ちの悪いブラコンとシスコンじゃないか。まあでも柚葉が妹じゃないという前提で考えるなら、好きになっていてもおかしくはないとも思う。しかし、2人と付き合ってくださいっていうのはどういうことなんだろうか。本当に言葉通り2人同時に付き合ってくれってことなのか。それとも何かの冗談だったりするのか…いや、でもあの時の2人の表情は真剣そのものだったしそんなことはありえないだろう。

「あー、もうどうしろってんだよ。」

そうつぶやいた時だった。ガチャッと玄関の扉が開いて、誰かが入ってきた音がした。柚葉はもう学校に行ったはずだが、忘れ物でもしたのか。そう考えるのも束の間、トイレの扉が優しく2回ノックされた。

「なんだ、柚葉か?まだ入ってるぞ。」

しかし想像と違う答えが返ってきた。

「私だよ。えーくん迎えに来ちゃった。」

「そ、そうか。というか鍵はどうしたんだ。柚葉のやつ閉め忘れていったのか?」

「ううん、私が柚葉ちゃんにメッセージ送っといたの。今からえーくん迎えに行くからって。」

そうだったのか。柚葉も美結が来ることを知っていたなら教えてくれればいいものを。

「分かった。すぐ終わらせて出るから、適当に座って待っててくれ。」

「はーい。ごゆっくり。」


しばらくして俺がトイレを出ると、美結はリビングでケータイをいじっていた。

「待たせてごめん。」

俺が一言謝ると、顔を上げて優しく微笑んだ。

「全然大丈夫だよっ。」

今日の美結は柚葉と違って俺を急かしたりせず、それどころか文句の1つも言わず待ってくれていた。もしや天使か…などと余計なことを考えていると、

「ごめんね、えーくん。私たちの告白で困らせちゃって。」

「え?ああ。別に…」

困ってないと言おうとしたが、さっきもそのことで頭を悩ませていたところだったので言葉が途切れてしまった。

「私ね、柚葉ちゃんに聞いたの。私たちが告白してからえーくんのトイレがすごく長くなったって。」

柚葉め、余計なことを。

「いや、トイレが長いなんていつものことだから。それより返事まだできてなくて悪い。」

「ううん、いいの。そんなに考え込まないでね。返事はいつでもいいから。」

女の子にここまで気を使ってもらって正直歯がゆい。それにすぐに返事ができないことも申し訳ないと思う。

「気をつかわせて悪い。この際だからひとつ聞いていいか?」

「うん。どんなこと?」

俺はこの前の告白で一番ひっかかっていることを素直に聞いてみることにした。

「この前、2人と付き合ってって言ってたよな。それってどういう…」

俺がそう言うと、即座に答えが返ってきた。

「そのままの意味だよ。私と柚葉ちゃんと同時に付き合うの。」

「そうなのか…でも柚葉は妹だし、そもそもいいのか?それって浮気なんじゃ…」

「柚葉ちゃんならいいの。」

そう言ってふうーっと大きく息を吐いてから、美結はこう付け足した。

「でも、もしえーくんがどっちか1人としか付き合えないって言うなら、私はそれに従うよ。その場合でも結局えーくんは2人と一緒にいることになるけどね。」

「ちょっと言ってる意味が分からん。」

「今はそれでいいの。」

言っている意味は理解できなかったが、楽しそうに笑っている美結を見ていると細かいことはどうでもよくなってきた。

「よし、じゃあ返事は俺の意思が固まり次第ってことでいいか?」

「うん。中途半端にされるよりはその方がいいかな。」

「じゃあそうさせてもらうよ。柚葉にもあとで言っとく。」

「その必要はないかもね。」

美結はそう言いながら、ケータイで文字を入力して見せてきた。

「ほら、もう柚葉ちゃんに送っといたから。」

めちゃめちゃ仕事が早い。どこぞのキャリアウーマンだよ。

「さっ、学校行こ。えーくんも早く荷物持ってきて。」

俺は美結に促されるままカバンを掴み、学校へ向かった。次のトイレはもう少し早めに出てこられそうな気がした。

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