第14話 美結のお土産はジャガッピー

部屋の掃除がある程度片付いたころに美結がやってきた。


「おじゃましまーす。えーくんおはよー。」


「ああ、おはよう。ほんとに学校行かなくて大丈夫だったのか?」


「それはえーくんもでしょっ。家から出れなくなったってどういうことなの?」


「ああ、実は…」


柚葉が鍵を持って行ってしまったことを簡単に説明する。


「へえー。それで柚葉ちゃんはえーくんがまだトイレに入ってるのに気づかずに出て行っちゃったんだ。どれだけ長いの、えーくんのトイレは。」


そう言って面白そうに笑う。


「いや、まあ今日は1時間くらい入ってたかな。」


「1時間!?そりゃあいないと思われてもしょうがないね。それより大丈夫なの?お腹調子悪かった?昨日病院行ってたもんね。」


美結にもかなり本気で心配されてしまった。なかなかこんなにトイレが長い人もいないだろうから当たり前といえば当たり前か。


「実はこれが俺の普通なんだよ。昔からそうだったよ。」


そう言ったが、納得はしてくれない。


「でも昔私と遊んでた時はそんなことなかったよ?」


「いや、それは学校帰りとかだったからだよ。ご飯食べてお腹が膨れたらトイレに行きたくなるんだ。」


「えーなにそれ、じゃあ中学の時、学校でお昼ごはん食べた後の昼休みに、いっつも教室にいなかったのってトイレ行ってたからなの?」


確かにそんなこともあった。俺たちが通っていた学校の昼休みは30分間あったのだが、その時間内にトイレを済ませられるかどうかが俺の中では最大の試練だったのを覚えている。


「まあそうだよ。それで何回か午後の授業遅れたこともあっただろ?それはトイレで戦ってたからだよ。」


そう言うと美結はあきれ顔になった。


「なにと戦ってんのよ。変なえーくん。」


「変で悪かったな。」


「あっ、そうだえーくんのトイレの話で忘れてた。はいこれ、おみやげ。この前パパがお仕事で行った工場でもらって来たんだって。」


そう言って手に持っていた小さな紙袋を差し出す。


「おお、ジャガッピーじゃん。ありがとう。」


ジャガッピーは最近どこかのメーカーが発売したお菓子で、ジャガイモの本来の食感を生かしたおやつとして評判を呼び、スーパーなんかでは売り切れ続出の大人気商品だ。


「どういたしまして。えーくんおいも好きだったなーって思って持ってきたの。」


柚葉といい美結といい、俺の好みをよく分かっている。


「じゃあさっそくいただくか。」


そう言って俺は冷蔵庫にあったジュースを2つ掴んで部屋へ戻る。

さっそく袋を開け、1つ掴んで口に放り込む。


「うわあ、すげえ。ジャガイモだ。」


ジャガイモのホクホク感と滑らかな舌触り、それに程よく付けられた塩味でとてもうまい。


「ほんとだ、ジャガイモだね。」


美結も美味しそうに食べる。美結のその幸せそうな顔を見ながらひとつ、またひとつと次々に口へ放り込み、あっという間に2人で1袋完食してしまった。


「あーうまかった。ジャガッピー、イモ好きにはたまらんお菓子だな。」


「えーくんたくさん食べてたね。持ってきたかいがあったよ~。」


こうしてジャガッピーを食べ終えた俺たちはそのまま部屋で、最近の学校の授業の話や好きな漫画の話など、他愛もない話で盛り上がった。話もひと段落つくと今度は2人でゲームをして時間を過ごした。

かなり長い間遊んで、俺はまたトイレに行きたくなった。


「ごめん、俺ちょっとトイレ行ってくる。この辺の漫画でも読んで待ってて。」


「分かった。ごゆっくり~。」


美結に見送られてトイレへ入る。


「ふう~、ちょっとジャガッピー食べすぎたかな。」


今回も長くなりそうだ。ふと窓の外を見るともう薄暗くなっている。もうこんな時間か。美結もあんまり遅くなったらダメだよな。そろそろ帰ってもらった方がいいよな。そう思ってトイレの中から美結にケータイでメッセージを送る。


「もう暗くなってきたけど大丈夫か?俺のこと待たずに帰っててもいいから。」


だがしばらくたっても既読がつかない。漫画に集中してるのか?もう一度送ってみる。


「時間大丈夫?」


それでも既読はつかない。そうこうしているうちに玄関の扉がガチャっと開いて、


「ただいま~。」


と柚葉の声が聞こえた。


「あれ、おにーちゃんまたトイレ入ってる?」


扉越しに柚葉がそう声をかけてくる。そうだ、柚葉に言って美結に伝えてもらおう。


「ああ、柚葉。悪いんだけどいま美結が来てて俺の部屋にいるんだ。それで外も暗くなってきてるし、俺を待たずに帰ってくれって伝えてくれないか。」


「ええ!おにーちゃん美結ちゃんのこと待たせてまでトイレ入ってるの!?はぁ、わかった。言っとく。」


とりあえず柚葉が伝えてくれれば大丈夫だ。俺は安心してトイレに集中した。


ジャーー


「やっとスッキリした。今回もけっこう長かったかもな。」


窓の外を見ると、もうすでに真っ暗になっていた。トイレを出てキッチンにいる柚葉に声をかける。


「さっきはありがとな。もう美結帰った?」


「まだおにーちゃんの部屋にいるよ。さっきゆずが見に行ったらすごい気持ちよさそうに寝てたから、起こしたらかわいそうかなって思って。」


「そっか。もうそろそろ起きるかな、早く帰らないと美結の母さんが心配するだろ。」


そう言うとプクッとほっぺを膨らせた。なにか俺怒らせたか?


「おにーちゃんバカなの?美結ちゃんは女の子だよ?こんなに暗いのに1人で帰ってもらおうと思ってるの?」


「いや、でも美結の家わりと近いし…」


「もうっ、おにーちゃんはそーゆーとこがダメなのっ!近いとか遠いとかじゃないのっ!」


柚葉はますますほっぺを膨らせる。


「じゃ、じゃあ俺が送るよ。それなら大丈夫だろ?」


そう言った途端、ほっぺがみるみるしぼんでいき、やがてあきれた表情に変わった。

「はぁ、おにーちゃんはほんと分かってない。美結ちゃんのお母さんにはゆずが電話して、うちに泊まってもらいますって伝えたからっ!それに晩ごはん美結ちゃんの分も作ったの。」


まじか…美結がうちに泊まるなんていつぶりだ。小学校の頃が最後だったんじゃないか。


「でも美結はほんとにそれでいいのか?」


「いいのっ!ほんとにおにーちゃんバカなんだからっ。」


なんで柚葉に美結の気持ちが分かるんだ。柚葉が久しぶりに美結と遊びたいだけなんじゃないのか?まあいい、そういうことならとりあえず美結の様子を見てくるか。そう思って俺は自分の部屋へ向かった。

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