第4話 昼のトイレと美結と仕返し

ジャーーー


「ふぅ~、スッキリした~。」


清々しい気持ちでトイレを出て駅へ向かう。大学の正門を通り過ぎようとしたあたりで、前の方に美結が歩いているのに気が付いた。そうか、俺が昼飯を食べてトイレに入っている間に4限目の授業が終わったんだな。何か音楽でも聴いているのかイヤホンを付けている。今日の朝のお返しだ。俺は美結の後ろからこっそり忍び寄り、そして勢いよくイヤホンを引っこ抜いた。


「ひぁぁっ!」


変な声を出してあからさまに驚く。仕返し成功だ。


「ちょっとちょっとぉ、はーびっくりした。えーくん、そんなことしたらいけませんっ!」


「お前だって今日の朝俺にしてくれたじゃんか、お返しだよお返し。」


「私はいいのっ、でもえーくんはダメー。」


「なんだよそれ、俺にだってやり返す権利があるんだ。」


「ありませーん、私が認めませーん。というかさ、えーくん今日は3限目までって言ってなかった?もしかして私を待ってくれてたの?」


完全な誤解をされている。俺はただトイレに入っていただけで、美結を待っていたわけではない。


「いや、別にそういうわけじゃないよ。」


「えー、だってえーくん授業3限までって言ってたよね。終わってから1時間半は経ってるんだよ?待ってくれてるならメールでもしてくれたらよかったのにー。」


「だから別にそういうわけじゃないんだって、ご飯食べてゆっくりしてただけだから。」


嘘はついていない。ご飯を食べてゆっくりトイレをしていたのだ。


「えーくん素直じゃないなあ、恥ずかしがることないのに。」


ニヤニヤしながらこっちを見てくる。まあ別に頑なに否定することでもないし、待ってたってことでもいいか。


「そうだな、まあ待ってたみたいなもんだよ。」


「えっ、やっ、やっぱそうなんだ、ふーん。」


なんだ、散々からかってきたくせに、認めた途端なぜかそっけない気がする。女の子ってなんだかよくわからん。


「ねええーくん、明日からはさ、一緒に帰らない?あ、別に無理な時はぜんぜんいいんだけどさ。」


この申し出は正直ありがたい。ボッチで大学やら駅やらを歩いていると、そのへんのカップルとか仲のよさそうなグループなどから憐みの目を向けられたりバカにされたりしているような気がしていたので、隣に美結がいてくれればそんな心配などしなくてすむ。


「ああ、でもいいのか?」


「いいに決まってるじゃん。私が先に授業終わるときはメールするね。見逃しちゃだめだよえーくん。」


やけに嬉しそうだ。さては美結もひとりで帰るのは周りの目が気になるんだな。それに俺が隣を歩いていれば、変な男に言い寄られるようなことも防止できるってわけだ。美結も考えたな。


「これでお前も俺も、安心して帰れるよなあ。」


「え?えーくん私が一緒にいた方が安心?」


「そりゃそーだよ。お前がいたらボッチの時みたいに変な目も向けられないし、それにお前も変な奴に絡まれたりしないから安心だろ?」


「そんなんじゃないもんっ!えーくんのばか。」


「なんだよ、俺怒らせるようなこと言ったか?」


「ふん、知らない、もう私帰る。」


スタスタと早足に行ってしまった。やっぱり女の子はなんだかよくわからん。

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