第15話

 桐島は、鬼瓦組に居候する一ヶ月間で、ある種の異常に気付いていた。事務所に出入りするよそ者が普通より多く、その頻度も増えているのだ。

 出入りする人間の柄は、極めて悪かった。一目でヤクザと分かる顔や服装に加え、口のきき方を知らず、態度や話し方に礼儀というものが見当たらない連中だった。鬼瓦組の連中は桐島に畏敬の念を抱いて接してくるが、外からやってくる彼らには、下働きを進んでやる桐島が三下以下の下っ端に映るらしく、とにかくぞんざいな態度を取ってくる。言葉に特徴的な訛りやイントネーションがないことから、彼らは関東の人間ではないかと桐島は睨んでいた。

 鬼瓦組の組員も、彼らの出入りにいい顔はしなかったが、組長との会合目的でやってくるのだからそれなりに顔を立て、下手に出たり見て見ない振りをしていた。しかしいつでも大きな顔をする連中に、腹に据えかね鬱憤を蓄積させる組員が多かったのも事実だ。桐島は頃合いを見て、出入りする連中の素性を鬼瓦組の若い者にさり気なく尋ねてみた。

「あの柄の悪い連中は、いってい誰なんだ?」

 克己と呼ばれるパンチパーマをかけた暴走族上がりの若者は、辺りに注意を払い言った。

「やつらは上野に事務所を構える、銀友会の連中ですよ」

 桐島は事務所の掃除をしながら、世間話を装って続けた。

「前からこうした行き来があるのか?」

 克己はますます声を潜める。

「いや、銀友会は一円連合の傘下じゃないんで、元々人の行き来なんてありませんよ。上が何をしてるのか知りませんが、数カ月前から急に始まったんです」

 猪俣や康夫は、こうした事実を知っているのだろうか。そんな疑問が、桐島の頭を一瞬よぎる。桐島はその日、いつものように主観を排した報告を、喫茶店のマスターに渡した。もちろんメモには、銀友会のことが書かれていた。

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