第12話 このあとを考えると気が重くなります

 残しておいた太ももを切りにかかります。身体に沿って斜めに切ってしまうと股関節を切る羽目になりそうなので、内側の付け根あたりから横にまっすぐ切ります。

 電動のこぎりのこの切れ具合ならどうにかなってしまいそうですが、関節部分にはすじが――靭帯でしたっけ?――まあそんな感じのものがあるはずです。骨よりも柔らかくはあっても弾力があって切れにくそうな気がします。そういえば靭帯とアキレス腱なんかの腱とすじって何が違うんでしょうか。全部終わったら調べてみましょうか。


 ふとももを切り始める前に、少し脚を開いておくことにします。最初拘束したときのまま太ももはぴったりとくっつけてありましたが、流石にここまできたら邪魔になります。

 脚は拘束ベルトを付けた時よりも随分と軽くなりました。彼の抵抗ももうないので簡単に動かすことができます。今はまだ人形のようにある程度は動かせるようです。そのうち死後硬直が始まるのでしょうか。


 左手で腰あたりを支え、包丁の位置を決めます。決めたら同じように体重をのせつつ刃を前後に動かして骨まで切り、印をつけます。

 電動のこぎりで骨を切り落としにかかります。太ももの骨は太くて切りにくいんじゃないかと考えていました。でも、もしかしたら膝下よりも切りやすいかもしれません。あっちは二本切らないといけませんでしたが、こっちは一本だけです。

 皮を切るのも最初より慣れました。肉よりも滑りやすいですが、もしかすると鶏皮よりも切りやすいかもしれません。


 クーラーボックスにどうにか収まりました。もしかしたら腕を二つに切ることになるかな、なんて考えていましたが、大丈夫でした。重さは五キロのお米より重いくらいでしょうか。一人暮らしを始めたばかりのころ、めんどくさがって一度にいろいろ買ってしまい、帰りが大変になったのを思い出します。

 とりあえず食べるつもりの部分については取り終えたので、残りの処理に入る前にこれを冷蔵庫にしまってこようかと思います。



 カーテンの向こう側では雨が降っているようです。それほど強くはありません。もうそろそろ梅雨に入りますし、だんだんと雨も増えていくでしょう。



 全裸のまま家の中を歩くのは実は度々あるのですが、やはりあまり落ち着きません。もちろん度々あるといってもお風呂上りに冷蔵庫に水をとりにいくだとか、着替えを持って来ていなかっただとかのときだけです。裸族ではありませんよ。


 地下室から上がる前に足裏は綺麗にしていたつもりなのですが、多少は血が残っていたようで足裏にくっ付いた新聞紙が持ち上がってしまいます。足跡もちょっぴり残っています。三枚ほど重ねてあるので大丈夫だとは思いますが、次に上に来るときも気を付けておきましょう。


 冷蔵庫の中はさっき空にしておきました。土日に買い物に行こうと思っていたこともあって、ものはあまりありませんでした。昨日の夕食の残りだとか、冷凍庫のお肉だとかの放置できないものは捨ててしまいました。少しもったいない気もしますが、その選択は正解だったと思います。実家にあるような冷蔵庫ならともかく、一人暮らし用の冷蔵庫の容量なんてたかが知れています。

 クーラーボックスの中身をゴミ袋からビニール袋に入れ替えて冷蔵庫に詰めました。二重にしたので血が漏れることはないと思います。そこには新聞紙を敷いておいたので、掃除で困ることはないでしょう。中の板を外したので脚と腕の合計六袋をどうにか入れることはできましたが、これは早めに切り分けたほうがいいかもしれません。いつまでも脚たちに冷蔵庫を占有させておける訳ではありませんからね。


 水分補給をしたら下に戻りましょう。大変なのはこれからです。

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