第21話 アレックスとイリアは心配性で甘々


 アレクシア、第2王子公邸。

 アイリスとアレックスの寝室。


 アイリスとアレックスはベッドの中にいた。

 朝食まではまだ時間があるので、イチャイチャしているところだ。


「——圭人、まだこうしてていい?」


 アレックスはアイリスを後ろから優しく抱きしめていた。


「いいよ〜」

「あーあ、今日はずっとこうしていたいなー」


 アレックスはアイリスの耳や首にキスをする。


「今日は学院の最終打ち合わせでしょ? 本当は私も行きたいのに」

「——圭人、出席しちゃダメだよ。子供になにかあったらどうするの? それに、圭人の体も心配」

「打ち合わせは座ってるだけだよね?」

「馬車に乗るからダメ。揺れで気持ち悪くなる人もいるって聞くから」

「心配しすぎだよ〜」


 アイリスは寝返りを打ち、不満顔をアレックスに向けた。

 アレックスはそんな顔にキュンとし、キスをする。


「そんな可愛い顔してもだめ。じゃあ、僕も行かないから。それなら我慢できる?」

「えー。アレックスが行かないと打ち合わせが進まないじゃない」

「そうだね。だから、僕のお願い聞いて」

「……はーい」

「いい子」


 アレックスはアイリスの頭を優しく撫で、キスをした。



***



 別の日。


 アイリスは、ミラの研究室へ血液採取をしにきていた。


「——ミ、ミラさん、注射以外の採血方法はないですか?」


 注射が嫌いなアイリスは、震えながら質問した。


「ない。さっさと腕を出しな」


 ミラはアイリスの態度にイラっとし、口調が荒くなっていた。


「ミラ、圭人にもっと優しくしてよ」


 圭人に付き添っていたイリアはミラに注意する。


「これは優しい言い方。こいつがビビりすぎなんだよ」


 ミラはアイリスを睨みつけた。

 その目を見てアイリスはビクつく。


「愛梨〜、採血の間、注射の間抱きついてていい?」

「いいよ。終わったらチーズケーキあるからね」

「うん」


 椅子に座ったアイリスは、左横に立つイリアの腰に左手を回して抱きついた。

 涙目の顔をイリアのお腹に押し当て、右腕をミラの方におそるおそる差し出す。


「今から、この太い針を刺しまーす」


 ミラはわざと恐怖を煽る。


「愛梨ー!!!」


 アイリスは泣き出した。


「ミラ! そんなこと言わなくていいでしょ?」


 イリアは眉間にしわを寄せ、強めに注意した。

 ミラはイリアの注意を無視し、悪い笑みを浮かべながらアイリスの腕に針を刺した。


「あ゛……」


 アイリスは痛くて声を漏らす。


「静かにしろ、採血中だから」

「はい……」




 

 その後、アイリスとイリアは寝室でケーキを食べていた。


「——圭人、あーんして」

「あ〜ん!」


 アイリスは大きな口を開けると、イリアは一口サイズのケーキをアイリスの口に入れた。


「おいし〜」


 アイリスは目を閉じてうっとりしていた。


「愛梨が食べさせてくれたから、いつもより美味しく感じる!」

「もう、圭人ったら」

「ねえ、今日は採血がんばったから、一緒にお昼寝もしてくれる?」

「いいよ〜」


 本当はアレックスに頼まれた仕事を抱えていたが、アイリスの頼みを優先することにした。


「愛梨、ケーキまた食べさせて〜」

「はい、あ〜ん」

「あ〜ん」


 イリアはその後、アレックスの仕事を1日遅れで完了させた。

 仕事に関して厳しいアレックスだが、『アイリスに時間を割いたので遅れた』と説明すると、全く怒らなかった。


 

***



 そして、出産の日。


 大きな鳴き声が廊下に響いた。

 同じ部屋で待っていたアレックスとイリアは、それを聞いて嬉しそうに顔を合わせる。


「アレックス、おめでとう」

「ありがとう、イリア」


 しばらくして、2人がいる部屋に使用人が入ってきた。


「失礼いたします。アレックス様、アイリス様が無事に元気なお子様を出産されました」

「知らせてくれてありがとう。アイリスの部屋に行ってもいいかい?」

「はい、アイリス様がお待ちでございます。イリア様もご一緒にと」


 2人は足早に隣の部屋へ向かった。





「——アレックス、イリア!」


 2人の顔を見たアイリスは嬉しそうに笑みを浮かべ、抱きしめて欲しくて腕を広げる。


「アイリス、よく頑張ったね」


 アレックスはアイリスを優しく抱きしめた。


「すごく痛かったよー」


 アイリスはアレックスに抱きしめられてホッとし、涙をにじませる。


「アイリスがすごく叫んでいたから心配したのよ」


 アイリスは数時間をかけて出産したが、イリアが言うように、ずっと『痛い!』などの叫び声を廊下に響かせていた。


「こんなに痛いとは思わなかったよ……」


 アイリスの顔はげっそりしていた。


「よく頑張ったね」


 アレックスはアイリスの頭を優しく撫でた。


「——アイリス様、お着替えが終わりました」

「ありがとう。2人とも、可愛い双子たちを見て。天使みたいですごく可愛いから」


 使用人に服を着せられた双子たちは、子供用ベッドですやすやと眠っていた。


「わ〜! 本当に可愛らしいわね」

「うん、まさに天使だよ」


 イリアとアレックスは顔を緩ませる。


「抱いていいのかい?」


 アレックスがそわそわしながらアイリスに聞く。


「もちろん。ピンクの服の子がお姉ちゃんで、水色の服の子が弟」


 アレックスは姉の方を先に抱き上げた。


「はあ〜可愛いな〜、可愛いな〜」


 アレックスは目尻をこれ以上ないくらいに下げる。


「たぶん、アレックスに似てると思うよ」

「そうか〜。可愛いな〜」

「アレックス、私にも抱かせて〜」


 イリアは目をキラキラさせていた。


「仕方ないな〜。しっかり支えるんだよ。絶対に優しく抱いてあげて」

「わかってるわよ〜」


 アレックスは心配そうにイリアに双子の姉を抱かせた。


「見て! 目を開けたよ! わ〜綺麗ね〜」

「なんだって!?」


 アレックスは弟を抱こうとしていたが、慌ててイリアに近寄る。


「右目が青で左目が緑……僕たちの両方の目を受け継いだようだね。綺麗だな〜。可愛い弟はどうなのかな〜?」


 すでに目の色を知っていたアイリスは、2人の様子をニコニコしながら眺めていた。


 アレックスは急いで双子の弟を抱きに行く。


「この子も目を開けたよ! 見て!」

「本当に!?」


 イリアは姉を抱いたまま、弟の顔を覗き込む。


「この子は反対なのね〜。右目が緑で、左目が青。ふふふっ、可愛い〜」


「決めたよ。2人の名前」

「教えて、アレックス」


 アイリスの問いかけにアレックスは微笑む。


「姉がルーナ、弟はジョシュア」

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