第6話 魔術の才能


 イリアに手を握られたアイリスは、ドキドキしすぎて手汗が滲んでいた。


 ——イリアさんに汗が気持ち悪い、と思われたらやだなー。


 そんな不安を抱きながら、アイリスは目を瞑ったイリアを見つめる。

 その間、アレックスはアイリスをじっと観察していた。


 イリアが突然目を開けたので、アイリスは慌てて目を逸らす。


 ——やばっ、見つめてたのバレたかな!?


「——アイリスさん、すごいです! ハミルトン家以外でこれほどの魔力を持つ方は見たことがありません! 絶対に魔術を勉強すべきですわ!」


 イリアはアイリスの手をぎゅっと握り、目をキラキラさせていた。

 その瞳にアイリスは心を奪われる。


 ——可愛すぎ! もうだめだ……好きになってしまったー! 俺はイリアさんが好きだー!


「——イリア、今までアイリスのような人物に出会ったことは?」

「もちろんないわ。ハミルトン家が他の家系と血を交わらせても、魔術の才能はおろか魔力さえ受け継がれなかったのよ。そういうことが積み重なってハミルトン家は気味悪がられてるから……」


 イリアは顔を曇らせた。

 その様子を見ていたアイリスは、ふとレベッカが言っていたことを思い出す。


 ——レベッカ先生は、ハミルトン家をよく思ってなかったよな。色々勘違いしてるのかも? 機会があったら王子にこっそり聞いてみようかな……。イリアさんのこともっと知りたいし〜。あ〜、イリアちゃん可愛いから〜。


「——つまり、アイリスが魔術を覚えて有名になれば、ハミルトン家にとって都合がいいのかい?」


 アイリスが考え事をしている途中、アレックスがイリアに小声で質問した。


「可能性は高いと思う。アイリスさんの子供に受け継がれれば余計にね」


 アレックスは、ぼーっと考え事をしているアイリスを横目で見ながら口角を上げた。


「それはとても興味深い話だね……」


 ——はっ! 会話中に考え事を……、レベッカ先生にあれだけ注意されたのに!


 考え事に没頭していたアイリスはアレックスの声で我に返り、とりあえず笑顔を作る。


「あ、あの! イリアさんはどんな魔術が使えるのですか?」

「あまり詳しくは言えませんが、探索魔法などですね」

「へー、私も早く使えるようになりたいな〜。そうだ、この国には魔術とか剣術とかを仕事にして旅する人達はいないのですか?」

「似たような方達はいますよ。ですが、技術や才能がなく、身分の低い方達が請け負っているのであまりいい仕事とは言えません。優れた人材は貴族や王室に雇われますから。報酬が少なくて生活が大変だと聞きます」


 ——そうなんだ……。俺ならゲームみたいにそういうのに特化した組織とか作れるけどな。ギルド長とかの経験を活かせばいけるかも?


「そういう方達のために何か組合を立ち上げて、貧困から救うとか……はどうなんでしょう?」


 アレックスとイリアは目を丸くする。


「貴族でそんな考えを持つ方は珍しいですね。人材育成から始めないといけませんから、かなり難しいかと。でも、貧困や治安対策にはいい方法かもしれませんね」


 イリアは興味を示していた。


「魔術を覚えたら、人を集めてそういうの作ってみようかな〜」


 好きなイリアに褒められたアイリスは、自分の立場を忘れて調子に乗る。


「アイリスはやはり面白い女性ですね。ですが、僕の許可を得ないと……ね?」


 アレックスの冷たい視線を見たアイリスは、背筋を凍らせた。





 アイリスが帰った後、イリアはまだアレックスと話していた。


「——イリアの言った通りだね」

「ええ。初めてアイリスさんを見た時、すぐにわかったわ。彼女には魔術の才能があるってこと。会わせてくれて感謝するわ。これでハミルトン家の汚名を剥がすチャンスができた」


 アレックスは顎に手を添える。


「ふ〜ん。……王室が婚約者として勝手に決めたアイリスをただの飾りとして迎え入れるつもりだったけど……、彼女との間に子供をもうけても悪くない気がしてきたな〜。魔術の才能が王家で誕生すれば……ふふっ、兄や弟たちは慌てるんじゃないかな。自分たちの立場が悪くなる、と考えて……。見てみたいな〜」


 アレックスは慌てる兄弟を想像してあざ笑う。


「あなたって人は……そういう歪んだところが嫌いよ——」

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