第21話 推測

「報告いたします」


 テュイルリー宮の執務室で座るナポレオンにフーシェは開口一番にそう言った。


「自称ルイ16世の娘マリー・ソフィー・エレーヌ・ベアトリクス・ド・フランスと元館員エミール=ジョゼフ・エルヴァがヴァル・ド・グラースで目撃されました

両名は行動を共にしている様子であったそうですが、その場に現れたサン=ジェルマン伯爵と呼ばれる男と交戦。その後にソフィー・エレーヌは伯爵に連れ去られ行方をくらましています」


 簡潔な報告を行いながら「詳細はコチラに」と言ってフーシェは報告書を渡す。


「次にカフェ・マンソンジュという場所で暴行事件がありました。現在コレと似た事件が多数 起きており、目撃情報によるとエミール=ジョゼフ・エルヴァの犯行によるものと解っています

そして、ここからは私の推測なのですが宜しいでしょうか?」


 フーシェは発言の許可をナポレオンに求め許しを得ると話を再開した。


「今回 調べて判ったことですが、一連の事件にはある組織が関わっているようです」


「ほう…それで その組織というのはなんだ?」


「それは陛下の方がよくご存じなのでは?」


「話を続けろ」


 ナポレオンは肯定も否定もせずフーシェに説明をさせる。


「その組織は革命前から暗躍を続け裏からフランス革命を引き起こした黒幕と言われており。今回 襲われた人たちはその組織に所属していたという事まで判明しました。先に名を上げたサン=ジェルマンもその一人です

ここから考えるにエミール=ジョゼフ・エルヴァはこの組織と対立関係にあると予想できます

さて、ここで疑問に上がるのが彼と相手の因果関係です。それを明らかにするため彼の素性について独自に調査を行ったところ、彼が美術館員になる前の記録がありませんでした」


「お手上げか?」


「いいえ…実は彼とは一度 話をしたことがありまして、その時 こう言っていました。『チェイルリー宮の赤い服の男の伝説を利用して陛下を脅して美術館員になった』と…」


 ナポレオンはフーシェの話に動じることもなく聞き続けた。


「その日のことについても調べてみました。陛下。陛下はその日、ナポレオン美術館に保管していたフランス王家の王錫を持ってくるよう命じたそうですね?」


「それがどうした言うのだ?」


 皇帝は意外にも否定しなかったのでフーシェはそのまま率直に言った。


「…その時、必要としたのは彼がルイ17世 本人か確認するためですか?」


「そうだ良く判ったな」


「調査し始めで彼の見た目とルイ17世の見た目が似ていることに気づきましてね…そのルイ17世の遺体も探しても見つからなかったので…しかし生きていたら19歳、当時の姿と全く変わっていないことは可笑しいと思っていましたが本当に生きていたとは…」


「おおかた、誰かが魔術で蘇生させたのだろう。奴には心臓が無かったからな」


「よく、そんな人物を手元に置きましたね…」


「使えそうな人材なら誰でも起用する。それに瞳が死んでいたからな…多少は同情もあった

にもかかわらず、反抗するとはな。救えん奴だ」


 そこまで聞くとフーシェは、処分をどうするか聞いた。


「好きにしろ。例の王錫も以前の戦いで破壊した。誰も信じん」


 ナポレオンに言われフーシェは顎に手を当てながら考えていると皇帝は一つ聞いてきた。


「ところでフーシェお前の予想では次はどう動くと見ている?」


「おそらく今の彼はフランス革命を裏で主導した組織への復讐を目的に動いていると思われます。となるといずれ根城に攻め込むかと…」


「そうか………なぁフーシェ両方同時にいなくなってくれたらスッキリするとは思わないか?」


 この質問にフーシェは答えずに居ると彼の方から説明した。


啓明結社イルミナティ…裏から世界を支配しようなど、つまらない奴らだ。今は協力関係のように見せかけているが、いずれは掃除するつもりだ」


 全て潰してこい。


 命令が下るとフーシェはうやうやしく頭を下げた。


 この時、既にフーシェには向かう先が判っていた。


 パリ3区 モンモランシー通りに面する一つの建物。


 そこが次の戦いの舞台であることを……

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