24:10月末から11月初めのこと -謎の土木工事ー

 御田島村長の言葉どおり、月末に重機と作業員の一団が村に入ってきた。奇妙なことに機械にも服にも企業名は見当たらなかった。つまり正体不明の集団だった。

 すぐさま室見川助役宅から南に下った一角がパネルで目隠しされ、作業が始まった。カシーン、コシーン、ガガガガという音が村に響き渡るが、具体的に何をしているのか全然わからない。僕には、学術調査というより土木作業をしているように感じられた。

 夕食を運んできた碧も釈然としない様子だ。

「あれは何をしてるの」

 僕は村長から聞いたとおりを答えたが、碧は納得できないようだった。

「工事に来ている人って、挨拶しても無視するのよ。村長さんとしか話をしないみたい」

 その後、真面目くさって言う。

「もしかして石油でも掘っているのかな」

「そうだといいね」

 僕は心底、そう思っていた。


 金曜日の定例会議が始まった。僕は満を持して温泉とゴルフ場を核とし、周辺に別荘を配置した計画を提示した。加えて村の周辺ではグラススキーやスカイスポーツが楽しめるようにするのだ。

 村は僻地ではあるが、実は海水浴場や倉敷の美観地区までそれほど遠くはない。長期滞在をしても飽きることはないだろう。

「いかがでしょう」

 僕は自信満々なのを悟られないように気をつけて、お伺いを立てた。

 村長は首を傾げている。

「別荘は稼働率は低いだろう。それに夏休みと週末だけ賑わっても、ゴルフ場がペイするとは思えないよ」

 予想していた反応だった。僕は勇んで答えた。

「別荘と表現しましたが、実際は終の棲家を想定しています。都会のリタイアしたご夫婦が、本宅はお子さんに住まわせ、ここで余生をエンジョイしていただくというイメージを描いております」

 室見川助役が疑わしそうに口をはさんだ。

「二軒持ちで毎日、ゴルフ三昧なんて、相当なカネ持ちを相手にするしかないですな」

「そうです。成功者がターゲットです」

 僕は自己嫌悪に陥っていた。成功者という言葉を口にしたことが、恥ずかしくなっていた。

 村長は少なからず乗り気になっているようだった。

「今のご時世、金持ちなんていくらでもいるからね。悪くない考えだと思う。これまでよりずっと進化している」

 僕は単純に嬉しくなった。しかし村長は諸手を挙げて賛同してくれたわけではなかった。

「一応、その案でも当たってはみるが、もっとスケールのでかいものを期待しているよ。私は来週から二週間ほど出張に行く。その間に知恵を絞ってほしい。頼むよ」

「わかりました」

 威勢よく答えざるを得なかった。村長はおもむろに席を立った。

「ところで助役さん、明後日の祭りの準備は大丈夫だね」

「もちろんです」

「それでは県庁に用事があるので出かけてくるよ」

 村長が去った後、助役は座ったまま背伸びした。

「秘密主義でねえ、村長さんは」

 珍しく愚痴らしい一言をこぼすと、僕を見すえた。

「さっきの案ですが、ここに住んでくれるカネ持ちって本当にいるんでしょうか。村長さんのようにカネがあって田舎で満足できる人は、それほどいないと思うんです」

 村長の収入源や資産状況について触れられる好機が来たと思った。それとなく探りを入れてみたが、助役も詳しくは知らないようだった。

「だって千年以上も、ここの領主様の家系ですから」

 そう繰り返すのみだ。僕は追及は諦めて話題を変えた。

「祭りがあるのなら、お手伝いしましょうか」

「準備なら終わっていますよ」

「当日、神輿を担いだりする人手が要るのではありませんか」

「そういうことはしないのです。村の主だった者が集まって祈った後、飲み食いをするだけです。他所のように豊作を祝うのではなく、良い鉄が採れたことを神様に感謝する祭りなのです。今は採鉄も製鉄もしていないので、形だけのものですよ」

 本当は駆り出されなくなかったので安堵していた。




 

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